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これを読んでも、別に株の取引で利益は出せるようにはならないけれど、意味不明で無駄な株の取引は削減することが出来るようになるnote 第九夜【株式投資セミナーについて】

ある夜、某所にて・・・

A:
友人からとある株式投資セミナーを紹介され無料説明会に行ってみたのだが、話を聞く限り非常に良さそうなので来週開催の有料版セミナーを申し込んだ。
良ければ君も一緒に行かぬか?

B:
申し訳ないが、来週は予定が詰まっていて行くことが出来ぬ。ちなみにどういったセミナーなのだ?

A:
「世界一の投資家ウォーレン・バフェット」の投資手法に精通している、シンガポール人投資家が行う3日間の合宿型セミナーだ。
なんでも、参加者の多くはセミナー受講後に安定的に利益を挙げることが出来ているらしく、実績も抜群とのことだ。

B:
費用は3日間でいくらなのだ?

A:
30万円である。

B:
なるほど。ところで利益を挙げるにおいて、どういう取引をしているのだ?

A:
まだセミナーを受けていないので詳しいことはわからぬが、どうやら「割安な株式・割高な株式を知らせてくれる、独自に構築したアプリ」を元にして、「割安になったら買い、割高になったら売る」ということを行うシンプルなものらしい。

B:
その「独自に構築したアプリ」とやらが「割安な株式・割高な株式」を判断する仕組みはどうなっているのだ?

A:
わからぬ。それを3日間のセミナーで詳しく教えてくれるらしい。ちなみにその手法は「バリューインベストメント理論」と呼ばれているらしい。

B:
なるほど。ではなぜ君は無料説明会の段階で「そのセミナーが非常に良さそうだ」と判断したのだ?

A:
無料説明会には例のシンガポール人投資家本人は来ておらず、ずっとその人に付いている通訳の人が話していたのだが、その人の立ち振る舞いや話しぶりから誠実な感じが漂ってきて、信用出来ると思ったからだ。

B:
ふむ。では質問を変えよう。
なぜそのシンガポール人投資家は、「利益が出る方法」をわざわざ他人に教えているのか?

A:
おそらく、自分の成功体験やこれまでの経験を人々にシェアすることにより、多くの人を幸せにしたいのであろう。
なんでも、その人はこれまでに何度も破産や大病を乗り越えてきて今があるらしい。
そのような経験をしている人物は間違いなく大人物であり、傾聴に値すべき存在だと考える。

B:
なるほど。ではそういった大人物が、君を含めたそうでない人たちから、なぜ30万円もの比較的高額な料金を取るのか?

A:
君、いくら何でも「あなたはお金持ちなんだから、利益を挙げる方法を無料で我々に教えるべきである」というのは傲慢極まりないと思うがいかがか?

B:
勿論だ。「然るべき役務提供には、然るべき対価が必要」と私も考えている。しかし、ここで私が言いたいのは「果たして彼の提供する役務は、30万円を正当化出来るほどのものなのか?」ということだ。

A:
どういうことか?

B:
ひらたく言えばその「バリューインベストメント理論」とやらは、「プラスの期待値が出ないのではないか?」ということだ。

A:
いや、それはないだろう。現に彼は「バリューインベストメント理論」を駆使して投資家として成功しているし、セミナー受講者の中にもそれで成功している人がいるからだ。

B:
なるほど。では君は、彼とその「成功したセミナー受講者」の通帳残高を実際に見たのか?

A:
いや、それは見ておらぬ。しかし、もし彼らが本当に成功していた場合にはどう説明するのだ?

B:
彼らが成功していたとしたら、可能性は主に2つだ。
1つ目は「バリューインベストメント理論には再現性があり、有効な理論であるが故に成功したという可能性」で、2つ目は「バリューインベストメント理論には再現性などないが、たまたまタイミングが良くて成功したという可能性」だ。

A:
なるほど。君の性格が悪いことはよくわかったが、一方で「バリューインベストメント理論には再現性などないが、たまたまタイミングが良くて成功したという可能性」については気になるところではある。

B:
案ずるな。自分の性格が悪いことについては私も大いに自覚がある。
よければ「バリューインベストメント理論に再現性がない可能性」について説明を続けるが、どうする?

A:
聞こう。

B:
よろしい、では続けよう。
「バリューインベストメント理論に再現性がない可能性」を検討するにあたって君が聞き出すべきことは、その理論構築の元となった「①総取引回数②利益数③損失数④取引一回あたりの平均利益⑤取引一回あたりの平均損失⑥1%有意水準の利益確率⑦対ベンチマークにおける取引一回あたりの相関係数⑧対ベンチマークにおける取引一回あたりのベータ⑨対ベンチマークにおける取引一回あたりのアルファ」の最低9項目である。
30万円も払っているのだから、これくらいは教えてくれて然るべきである。
そしてこの中でわからない用語があれば自分でググってほしい。それが君の一番の勉強になる。

A:
承知した。しかし、これらを聞き出して要するに何が知りたいのだ?

B:
2つある。
まず知りたいことの1つ目は「その取引が本当に過去に上手く行っていたのか?」ということで、ここで言う「上手く行っていた」とは「過去の取引でプラスの期待値が出ていたこと」を意味している。

A:
なるほど。「期待値=(利益確率×取引一回あたりの平均利益)+(損失確率×取引一回あたりの平均損失)」であるが故に、つまり「①総取引回数②利益数③損失数④取引一回あたりの平均利益⑤取引一回あたりの平均損失」の5項目を使えば「バリューインベストメント理論による、過去の取引の期待値」を計算することが出来、もしそれが「プラス」であるのならばOKだが、逆に「マイナス」であった場合には「バリューインベストメント理論の有効性は疑わしい」ということか。

B:
然り。もっと言えば期待値の計算に「⑥1%有意水準の利益確率」を適用し、それでもプラスの期待値が出ているのかどうなのかを確認すべきである。

A:
あくまでそれは「保守的に考えた場合」ということだな。
では2つ目は何なのか?

B:
よろしい。知りたいことの2つ目は「仮に上手く行っていたとしても、その取引がたまたま上手く行っていただけなのか?そうではないのか?」ということで、「たまたま上手く行っていた場合」とは「対ベンチマークにおける取引一回あたりのアルファの値が、ゼロないしはマイナス」のことを言い、「たまたまではなく、バリューインベストメント理論の有効性により上手く行っていた場合」とは「対ベンチマークにおける取引一回あたりのアルファの値がプラス」のことを言う。

A:
すまぬが、この「アルファ」というものだけ説明を願いたい。

B:
承知した。基本的にはリターンとは「マーケット全体の影響による、たまたまのリターン」に該当する「ベータによるリターン」と、「マーケット全体の影響とは関係のない、実力による独自のリターン」に該当する「アルファによるリターン」の2つに分解出来る。つまり「リターン=ベータによるリターン+アルファによるリターン」ということになるのだ。
ここで言う「マーケット全体」とは「ベンチマーク」と言い換えることが出来るので、要は「ベンチマークの取引一回あたりのリターン=+5%」「バリューインベストメント理論による取引一回あたりのリターン=+10%」ということであったとしても、そのリターンの内訳が「ベータによるリターン=+10%」「アルファによるリターン=±0%」であった場合には、「バリューインベストメント理論とは、ベンチマークの2倍のリスクを取っているだけの手法」という可能性が高いと言える。
つまりは「ベンチマークの取引一回あたりのリターン=-5%」であった場合には、「バリューインベストメント理論による取引一回あたりのリターン=-10%」となる可能性が高いということだ。

A:
今のは「たまたま上手く行っていた場合」の説明であったが、「たまたまではなく、バリューインベストメント理論の有効性により上手く行っていた場合」、つまりは「アルファによるリターン=+10%」の場合には、「ベンチマークの取引一回あたりのリターン=-5%」であったとしても「ベータによるリターン=-10%」を「アルファによるリターン=+10%」が相殺して「バリューインベストメント理論による取引一回あたりのリターン=±0%」となる可能性が高いということか?

B:
然り。逆に「ベンチマークの取引一回あたりのリターン=+5%」であった場合には、「ベータによるリターン=+10%」に「アルファによるリターン=+10%」が加算されて「バリューインベストメント理論による取引一回あたりのリターン=+20%」ということになる。

A:
なるほど。つまりは「アルファによるリターンがプラス」というのは「マーケット全体が崩れた時のバッファーとなりうる」ということで、それだからこそ重要であると。

B:
然り。もし「アルファによるリターンがゼロないしはマイナス」であった場合には、マーケット全体が良ければ利益を得られるが、マーケット全体が崩れた時には損失を被ることになる。
つまりもしそうであった場合には、「バリューインベストメント理論」の詳細を聞いて実行したところでそれは「ベンチマークにレバレッジをかけて投資すること」と何ら相違がなく、むしろ30万円の余計なコストがかかっているだけ不利益を被ることになるのだ。

A:
承知した。時期的にセミナーは返金不可であるが故に参加せざるを得ないが、さきの9項目を何としてでも聞き出し、「期待値が本当にプラスなのかどうか?」「アルファがプラスなのかどうか?」を判明させることとしよう。
もし「期待値がゼロないしはマイナス」「アルファがゼロないしはマイナス」であった場合にはどういうことになる?

B:
簡単だ。君は「何の有効性もない手法を、お金と時間を費やして学びに行った」ということになる。

A:
その場合、悪いのは主催者側ではないのか?「手法に何の有効性もないことを知っていながら、それらしく演出することによって人からお金をせしめている」ということではないのか?

B:
いや、完全にそうとも言い切れぬ。なぜなら主催者側ですら「何の検証もしないまま、結果だけ見て自分の手法に有効性があると思い込んでいる」という可能性があるからだ。
つまりはマーク・トウェインが言うところの「厄介なのは何も知らないことではなく、実際は知らないのに知っていると思い込んでいることである」を地で行く存在だということだ。まあその場合は両者痛み分けである。

A:
わかった。彼がどちらに該当するのかを判別は出来ぬが、ひとまずセミナーに行くだけ行き、この際なので徹底的に聞いてみようと思う。

B:
その方が良かろう。やってみたまえ。


【まとめ】
・まずは「なぜその株式投資セミナー主催者は、利益が出る方法をわざわざ他人に教えているのか?」を考えるべし。
・過去の取引の再現性を確認するために、「①総取引回数②利益数③損失数④取引一回あたりの平均利益⑤取引一回あたりの平均損失⑥1%有意水準の利益確率⑦対ベンチマークにおける取引一回あたりの相関係数⑧対ベンチマークにおける取引一回あたりのベータ⑨対ベンチマークにおける取引一回あたりのアルファ」の最低9項目を聞き出すべき。
・「株式投資セミナーの主催者=何の検証もしないまま、結果だけ見て自分の手法に有効性があると思い込んでいる人」という可能性もあるので注意が必要。

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