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伊吹有喜『雲を紡ぐ』文藝春秋〔2021年首都圏中学入試頻出作品/背景説明・登場人物紹介・あらすじ/じっくり筋を知りたい受験生向け/無料〕

伊吹有喜『雲を紡ぐ』文藝春秋

この作品は2021年に

・本郷中学校
・横浜雙葉中学校

 で出題されました。

★背景説明

 この物語には家族のつながりを表す言葉がいろいろ出てきます。たとえば、「父方の祖父」は「お父さんの側で血のつながりのあるおじいさん」という意味です。「紘治郎は美緒の父方の祖父だ」と書かれていた後に、「広志は美緒の父親だ」と説明された場合、「紘治郎」と「広志」の関係はどうなりますか? 「祖父/おじいさん」というのは親の父親のことですから、「紘治郎」と「広志」は父と子の関係になります。ややこしそうだったらメモをとりながら読むといいでしょう。

〔メモの例〕
紘治郎 ― 妻
    ↓
   広志 ― 妻
      ↓
     美緒


★登場人物


山崎美緒〔やまざき みお〕
 主人公。高校二年生。学校へ行けなくなっている。

山崎真紀〔やまざき まき〕
 美緒の母親。中学校の英語教師。担任しているクラスの子どもや親とのトラブルのためにインターネット上で悪口をいわれている。

山崎広志〔やまざき ひろし〕
 美緒の父親。電機メーカーの研究所で働いている。自分の父親と仲が悪い。

山崎紘治郎〔やまざき こうじろう〕
 美緒の父方の祖父。広志の父親。岩手県盛岡市で「山崎工藝舎」という染織工房を営んでいる。

山崎香代〔やまざき かよ〕
 美緒の父方の祖母。美緒が生まれてすぐに亡くなっている。

川北裕子〔かわきた ゆうこ〕
 美緒の父の従姉。山崎工藝舎の実際の仕事を鉱治郎から継いでいる。「祐子先生」と呼ばれている。

川北太一〔かわきた たいち〕
 祐子の息子。盛岡市内の大学に通っている。


★あらすじ

 美緒は学校でいやなあだ名をつけられたために、高校二年生になってからすぐ登校できなくなってしまいました。美緒が安心できるのは、昔、父方の祖父母が作ってくれた赤いショールにくるまっているときだけでした。しかし、母親の真紀はそんな美緒を心配しながらいら立ってショールを取りあげてしまいます。真紀にショールを捨てられたと思った美緒は、両親に何も話さず、父方の祖父の紘治郎が住む岩手県盛岡市へ向かいます。紘治郎は盛岡市でホームスパンという毛織物を作って染める工房を営んでいます。紘治郎は美緒の話を聞き、帰りたくないならばそのままいていいと言います。そして、もしいるなら今度は「自分の色」を選んでショールを作ってみるようにと言います。

 紘治郎はもう高齢で体が弱っているため、今の工房の仕事を実際にやっているのは、美緒の父の従妹にあたる祐子でした。美緒は祐子とその息子で大学生の太一から羊毛の紡ぎ方や織り方を教わり始めます。紘治郎は美緒の両親に、美緒が盛岡にいることを伝えましたが、真紀の母親〔美緒の母方の祖母〕は認めず、父親の広志に自分からの手紙を美緒にじかに渡すようにと言います。広志は紘治郎が亡くなった母親の香代を大事にしていなかったと感じていたため、美緒が生まれたとき以来、紘治郎とは顔を合わせていませんでした。久しぶりに故郷へ帰り、紘治郎や従姉の祐子、それに娘の美緒と話をした広志は、手紙は渡さず、ひとまず美緒を盛岡にあずけて東京に帰ります。


 八月の末、今度は真紀も一緒に盛岡へやってきます。英語の教師をしている真紀は、ホームスパンの発祥の地である英国の文化に詳しい紘治郎と思いがけず話が合います。真紀は美緒の将来を案じて早く帰ってくるようにといいます。すると、紘治郎は、「心配しなくても美緒は東京へ帰す」と言います。紘治郎は自分に認知症の兆しがあるのを感じており、年が明けたら家をたたんで高齢者向けの施設に入るつもりだったのです。話し合いの結果、美緒はそれまでは盛岡にいてショールを作り上げることになりました。両親が帰ったあとで、美緒はショールの色を赤にしようと決めます。

 二か月後、美緒は紘治郎と一緒に東京へ行きます。紘治郎の仕事のついでに、自分の今後について両親や母方の祖母と話し合うためです。話し合いはもめましたがそれなりになごやかに進みます。美緒の進路はもうしばらくゆっくり考えてから決めることになりました。しかし、帰りの新幹線のなかで紘治郎が倒れてしまいます。美緒がてきぱきと連絡をしたおかげか、紘治郎は命をとりとめましたが、体の右側が麻痺して上手く話せなくなってしまいます。美緒は紘治郎の仕事を引き継ぎたいと思い、盛岡でホームスパンの職人の修行をしながら通信制の高校へ通おうと決意します。


★このお話の魅力のひとつはジル・バークレムやエロール・ル・カインといった美しい絵本の名前が登場するところかもしれません。画像は作中で出てくるジル・バークレムの『のばらの村のものがたり』シリーズのなかの一冊、「きの実のなるころ」の挿絵を用いたロイヤルドルトンのティーカップ。迷子のねずみの女の子の名前はプリムローズです。

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