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企業の改革が進まない大きな原因のひとつは、現状分析での否定形の使用にある

「きちんとした生産管理をしていない」とは?

ある中小企業の改革の話である。その会社は営業キャッシュフローはそこそこあるのだが、過去の経営者の放漫経営のツケで、借入金が多くそのお金が支払利息として出て行ってしまっている。その結果、一生懸命働いている社員の給料を上げることができずにいた。

この対策として、棚卸資産回転期間を短縮を考えた。それができれば、同じ人員でもっと売上がを挙げることができ、外注分を内製に取り込むことが出来るはずだ。そうすれば、外注と内製の変動費の差の分だけのキャッシュを創出できると考えたのである。

そこで、その現状分析のためにまず マイク ローザー , ジョン シュック (著)の「トヨタ生産方式にもとづく「モノ」と「情報」の流れ図で現場の見方を変えよう!!」に載っているValue Stream Map を書くようにと言ったところ、「当社ではきちんとした生産管理をやっていない」という答えが返ってきた。

実は、これは長年コンサルティングをやっていて「またか!ここも全く同じだ」と思うことなのだ。だから別に驚きもしないが、ここで注意して欲しいのは「同じ」という言葉が「生産管理をやっていない」ことを指しているのではないということである。

同じなのは、現状を否定系で述べる癖である。世の中にはあまりにも否定形が蔓延していることに呆れるのだ。

当たり前だが、新しいクライアントの職場に赴いて最初に行うことは、問題の確認・定義である。この時に、現状分析を始めようとすると判で押したように「〜がない」というセリフが返ってくる。「営業の管理がうまくてきていないい」、「当社にはまともな部品表がない」という類である。

そして、この語り方そのものこそが問題であることに、クライアントの誰も気付いてはいないのが問題なのだ。もっとも、だからこそ自分たちで問題解決ができずコンサルタントを雇うわけなので、ある意味有り難いことでもあるのだが。。。

否定形で何が問題か?

では、現状を否定系で述べると、何が問題なのだろうか?

おおよそ問題解決というものは、現状の不都合な部分を望ましい姿に近づけることにより解決される。現状が「Aである」と述べられていれば、Aの中身を分析して、望ましい姿に照らして具合の悪いところを見つけるのが、現状分析でなすべきことである。

ところが、ここに否定形が登場すると厄介なことになる。「Aでない」と述べられると、現状はBかもしれず、Cかもしれず、正体がつかめないことになる。だから、どこを変えれば良いかさっぱりわからず、問題が解決しないのである。

この簡単なことを世の中の殆どの人が(失礼、私のクライアントの多くが)理解しないのが、当方には全くもって不思議なのである。

棚卸資産回転期間短縮に必要な種は現状から見つかる

上述の生産管理の場合で考えてみよう。

実は、何の生産の指示もなく現場が勝手に生産活動をしている製造企業は、普通は存在しない。この会社も、きちんとした生産管理の仕組みはないものの、現場は「納期優先で仕事をしている」と言う。それなら、「納期優先の生産管理をしている」と述べるべきなのである。

その上で、望ましい状態の棚卸資産回転期間を阻むものがないかを調べるべきなのである。望ましい姿は、「顧客の望むペースで製品が完成していて、生産がその限りで行われている(売上にすぐにつながらない無駄な生産はしていない。)だから、棚卸資産回転期間が充分に短くなっている」であろう。

そうすれば、いろいろな問題が自ずと見えてくるはずである。例えば、この会社には材料を処理し易くするための加熱炉が存在する。加熱炉を一定温度にするのには時間とエネルギーが必要なので、複数の製品用の材料をまとめて加熱している可能性が高い。

まだ納期に余裕がある分の材料も一緒に加熱してしまい、その作業分急ぐ仕事が遅くなっている可能性がある。その遅くなった分の埋め合わせとして、納期を守ろうと必要以上に時間を前出しして材料を投入している、などのことが見つかってくるはずである。

これらの「納期優先ではない作業」を止めれば、浮いた工数で追加の急ぐ仕事を処理して単位時間当たりの売り上げを増加させることができるはず、という訳である

現状記述に否定形を使うと、このような調査をする動機が失われる。望ましい姿と現状の差は何かに集中するために、否定形は百害あって一利なしだと知る必要があるのだ。


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