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大都会でフォークダンス

 大学入学以来、フォークダンスが趣味になりました。英語が得意という訳でも、アルバイトをしている訳でもない私が、異郷アメリカで心細くならずに済んでいるのは、偏にこの趣味のおかげ、と言っても過言ではありません。そこで今回は、ニューヨーク市で私が参加してきたフォークダンスのコミュニティについて、幾つか紹介します。

ブルガリアのホロ

 ホロとは、皆が手を繋いで連なり、足を踏み鳴らして進むような、輪踊りを指します。輪踊りというと和やかなイメージが浮かぶかもしれませんが、バルカン地域を中心に広い地域で踊られるホロには様々な形態があり、特にブルガリアのホロは運動量がとても多いです。

 上の動画は、ブルガリアのスリヴェン市で開かれたホロのパーティーの様子です。私がニューヨーク市で参加したものも大方同じ雰囲気でした。だいたい5分くらい、しばしばそれ以上、全速力で走り続けるような踊りが多いので、曲が終わる頃には息切れと汗が止まらなくなり、まめに換気か空調の調整をしないと、パーティーが終わる頃には部屋が蒸し風呂になります。
 私が参加した月例のパーティーでは、ブルガリアから来た大人たちや、親がブルガリア出身である若者たちが多く集まっていて、時折ブルガリア語を交えて会話しながら、こうした激しい踊りに興じていました。職場や学校から帰ったままのラフな格好で踊る人もいれば、ブルガリアの民族衣裳風の模様がプリントされたワンピースやシャツに着替えて踊る人もいます。

今期最後のパーティーで配られた頭飾り。
ブルガリアの女性たちは、衣裳として頭に花を飾ることがよくあります。かわいい。
次回のパーティーは九月だったかな。待ち遠しいです。

ターンツハーズ

 ハンガリー語で、ターンツは踊り、ハーズは家を指し、ターンツハーズで踊りの家・ダンスハウスを意味します。ここで踊られるのは、現在のハンガリーからルーマニアにかけて広がる地域で発展した、輪踊りや二人一組の踊りです。

 上の動画は、ルーマニアのカレイという町で撮影された、トランシルヴァニア地方のメゾーシェーグという地域の踊り。中盤でカメラの前に数人が溜まって話し込んでいる等、踊りだけを詳しく見るにはやや向かない動画なのですが、私の参加したターンツハーズの雰囲気がこの動画とよく似ていたので、敢えて選びました。
 ハンガリー語で朗々と歌いながら、くるくると回ったり、ボディパーカッションのような技を披露したり、あるいは踊らずに、お酒を飲んで談笑したり。親密な社交の雰囲気を感じられるのが、ターンツハーズの魅力のひとつです。私が参加した際には、私を含め歌や踊りに詳しくない人も少なからずいたので、基礎のステップから教えてもらう機会や、歌詞を配ってもらって一緒に歌える機会が設けられていました。中々慣れない抑揚で難しいんですが、歌いながら踊っていると段々体に馴染んできて、厚い波に揺られるような心地よさを感じてきます。なんだろうね。

エキゾチックに魅せられて

 他にも、ギリシャの踊りやイスラエルの踊り、また (フォークダンスというよりはルーツのはっきりした社交ダンスという類ですが) スコティッシュ・カントリー・ダンス等、専ら特定の地域・民族発祥の踊りを嗜む人々が、ニューヨーク市のあちらこちらで毎週のように集会を開いています。加えて、バルカン地域の色々な踊りやイスラエルを含む中東の踊り、また北欧の踊り等、ありとあらゆるフォークダンスに広く親しむ集会も幾つか、やはり毎週のように開かれています。
 自らのルーツを表現するためだったり、趣味を同じくする友人と語り合うためだったり、独特な曲調やリズムに酔うのが好きだからだったり、民俗学に関心を寄せているからだったり。ニューヨーク市で人々がフォークダンスを愛好する理由は実に多彩ですが、いずれにせよ同好の士が増えるのは嬉しいようで、私のような新参者でも快く受け入れてくれました。私より数か月早くニューヨーク市へ引っ越してきていた夫もまた、同じように仲間に入れてもらったおかげで、独りで暮らす時期も乗り切れたようです。エキゾチックな雰囲気に魅了されて、軽い気持ちで始めた趣味でしたが、思わぬ形で身を助けてくれました。数々の出会いに感謝しつつ、これからも細く長く広く浅く、のんびり続けていきたいです。この記事では紹介しきれなかった踊りや催しについても、おいおい書きたいですね。
 それではまた。


Today's Keywords (もとい、こぼれ話)

  • kolo: ブルガリアにおけるホロの他にも、オロ・コロ・ホラといった同語源と思われる名の付く踊りが、バルカン地域を中心とする広い地域で踊られています。特に、セルビアでコロと呼ばれる踊りは、同名の国立舞踊団に昔からの形がよく保存されていると言われ、UNESCOの無形文化遺産に登録されています。勿論、オロやホラにも魅力的なものが沢山残っています。

  • Mezőség: カタカナ表記が安定しないのが海外の文化を紹介する際の悩みのひとつですが、メゾーシェーグもメゾセグ・メゾシェグ・メゾシェーグと表記が揺れていて、結局どれがどう正しいのか私は判じかねます。ターンツハーズで会ったおじさんは、メにアクセントを置いてシェを少し伸ばしていたような。そのおじさん曰く「メゾシェーグはハンガリーのロックンロールだよ」とのこと。ロックンロールくらいポピュラーでリズムに乗りやすいってことかしら。

  • international folk dance: 公園で集まって踊っていると、通りかかった方から「どこの国の踊りなの?」と訊かれることが度々あります。その時に踊っている曲の出自を答えると、まれに「その地域の踊りに精通しているのかな」と思い込まれる場合が。その地域の出身でもないのに、プロか何かの如く看做されては極まりが悪いので、たいてい "We are usually dancing international folk dance." と付け足しています。つまり、我々は所謂エンジョイ勢なんです、と示したい時に使っている語です。言うまでもなく本来、そんなお茶を濁すような使い方ばかりされる語ではないんですが、こうしたフォークダンスに関連する語の成り立ちや使い分けについては、日本語でも英語でも色々あって話が長くなるので、いずれ別の機会があれば調べてまとめたいですね。