痴呆

紫紺色の鬱汁をスプーンですくい、それを一滴づつ緩慢に、しかし狂いもなく正確に垂らす。音もなく湧き出るその泉が枯渇することはない。私はそれを毎日繰り返す。

ある日、私は本能がそうするようにあたりを見回す。当たり前のように、皆はそこからいなくなってしまったことに気づく。刹那、湧き出る紫紺色は消えてなくなり、かつての色を失った古びた花崗岩が姿をあらわす。私は、何千年にもわたる内省の末、何も疑問に思うことがなくなってしまったのだ。

私は枯れた泉から、スプーンで空をすくう。まだそこに粒子を含むような、湿った接触音が、細く、切れるように鳴る。私は、幾分湾曲したスプーンを傾けてみせるが、当たり前のように何も垂れない。

スプーンに微かに映る私の歪んだ顔を眺めていると、紅茶のポットが置かれたテーブルが一つ、視界の端に入る。何千年も間そこにあったのに、私はその存在にすら気づかなかったのだ。「申し訳ないね」と私はその朽ちた四脚に謝ってみせ、四角い甲板を丸く拭いてやる。床に溢れた紅茶のシミに目がいく。何千人もの屍人が蛍光ペンでなぞるように拭いた床を、また一人なぞる。

私は日の出を待つ。最後に聞いた話では、百人の年季奉公人を乗せた白鯨船が出港したその日を最後に、太陽は二度と登らなくなってしまったのだという。

空のティーポットから紅茶を永遠に注ぎ続けていると、私はふと、落としてもいない落とし物の存在に気づく。朽ちたテーブルに「もう行かなくては」と一言別れを告げると、最後に太陽が昇った北東、暗澹な痴呆の果てに向かって、その行動の意味など考えず本能的に歩き出す。陰鬱とした、膨大な内省の記憶だけが頭の中で叫喚し、谺している。

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