社会に囚われた男

私はかつてどこかの王朝と交易をしていた。

そのことをどこで知ったのか、とんだ風の吹き回しに乗った船団が、私の住む孤島を目指している。

水平線からヌっと現れた襲撃者達を見るなり、わたしは気の抜けた叫び声をあげる。

長年の鎖国に慣れてしまい、襲撃への備えはおろか、空想事を記した書物に鍵をかけることを怠っていたのだ。

私は突然の出来事にその場であたふたし、あまりの焦燥に何も手がつかない。そうこうしている間にも、襲撃者たちを乗せた黒塊は後先も考えずに砂浜に乗り上げ、指定された作戦区域へと展開する。久しぶりの交戦に興奮を隠しきれない彼らは、小慣れた戦術を実行する。

どこで知り得たのだろうか、彼らはこの島の地形や私について熟知しているようだ。

孤島に似つかない、手入れのされた美しい野原はさっさとナパームで焼き払われ、脱出ボートは米国製の爆薬で木っ端微塵にされてしまう。

死火山の麓から流れる清い川は、もうすでに襲撃者が持ち込んだ菌で汚染され、小魚や小動物が痙攣しながらも最後の数秒の生を全うしている。

全ての考えうる退路を失った私は、彼らの戦術に誘導されるがままに浜辺に出る。これも定めなのだと、さっさと観念してその場に跪く。襲撃者達はそれに驚くこともなく、私を見下しケタケタと笑っている。

前脚が人間の手になっている大きな犬が、私の絵空事が記された書物を口に咥えて走り回っている。

襲撃者の長である、30cmもない小柄な男が船から姿を現すと、ゴツい装飾のしてある算盤を、私には見えないようにトントンと弾く。

しばらくの決まりきった前戯の後、私は窓のない船内に連行される。どこからか、私を捕まえたことへの軽い祝杯をあげ、今後の私をどうするか話し合う声がかすかに聞こえる。

生きた心地が一切しない錆びた鉄の牢の中で、私は今はもう忘れてしまった脱出計画をもう一度練り直す。

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