流浪の月 凪良ゆう

今年の本屋大賞を受賞した(2020/4/27発表)作品。TSUTAYAに存在感いっぱいに陳列されていた美しい装丁の本に思わず手が伸びました。

最初のページを読むと、穏やかな物語が始まっていく予感があり、装丁が好きだったこともあり、すぐに購入を決めました。

家に帰り、読み始めると。穏やかなのは最初の部分だけで

想像とは違う物語でしたが、とても惹き込まれました。


[あらすじ]               
更紗(サラサ)と文(フミ)。世間から見ると、被害者と加害者の2人。だけど当人からすると、決して傷つけられたわけじゃない、「犯罪」とは言い難い。でも、それは誰にも説明がつかない。
あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。
それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。
再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。

※あらすじは 〈私の言葉〉 +〈本〉 から。

読み終えて、「好き」な作品とは言い難かったです。読んでいる間中、見てはいけないものを覗いてしまっているような、背徳感がついてまわりました。だけど先が気になって、見たくてしかたなくて、寝る時間も惜しんで読み続けました。私は読むスピードは速くないですが、それでも2.3日で読み終えました。1ページ目は穏やかな日常の風景が伝わってくる文章でしたが、読み進めるうちに物語は非日常的に残酷に展開していきます。主人公の更紗が慕う、文はこんなにも優しいのに、犯罪者なのか。更紗が文と過ごした日々は本当に「悲しいだけ」のものなのか。知りたくて、どんどん物語の中に引きずり込まれました。本から中々顔をあげられないほどに、本の中にいました。こんな文章を書いてしまう作家さん、すごいです。人の時間を止めてしまうような。夢中になれる幸福な時間でした。

友人・恋人・夫婦・家族・同僚・上司・部下・先輩・後輩・愛人・義家族・・・人の関係は様々にあります。この本の中には、名前が付けられない関係で繋がる2人の姿が描かれていました。そしてその関係は社会の中では正しい関係と評価されないし、認められない。だけど、当人同士は納得し信頼しあう、唯一無二の存在で、互いに必要としている。大事にする人やもの、価値観、考え方は人それぞれにある。それぞれに違っていい。そして誰だって、自分の大事なものを大事にしたい。その思いが、誰かを傷つけていないのであれば、誰も取り上げてはいけない。更紗と文はどうやって生きていくんだろう。共感は出来ないけど、間違ってないよ、幸せに生きてほしいな、そんな気持ちと共に読み進めました。

当たり前に、人は人の一部しか見えなくて、その一部で好き、きらい、正しい、正しくない、など判断していると思う。だけど本当のことは当人にしか分からないし、分からなくていい。

私は、説明がつかない関係性に興味があります。自分にとってどういう人なのかを、何か一言では表せられなくても、大事な人っていますよね。好きなお店の店員さんとか、もう今は会っていないけど、学生時代の先輩や後輩とか。

頻繁に会うことだけが、つながることじゃないし、たまにしか会えなくても、なんなら、もう会えなくても大切な人は大切。

何でも話せることが重要、とも言い切れない。言わなくてもいいこともある。逆に、関係性によっては、言いたくなくても勇気を出して伝えなきゃいけないこともある。

普段からそんな風に柔軟に考えているわけでなく、私はどちらかというと、大切な人には頻繁に会いたい、何でも知りたい、と思ってしまう質です。そうじゃなくてもいいんだよ、一緒にいなくても大切な人を想っていいんだよ、と気づかせてくれた物語でした。

ストーリーが面白いのはもちろんですが、人と一緒にいることって・・・。と考えさせてくれる時間でした。

来年も本屋大賞の本が読みたいです。


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