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そこに名前はなくとも。

少し前にも書いた話と似てるので申し訳ないんだけれども、ずっと私の名前が嫌いだった。
『美沙子』。
まず子どもの頃に新聞のテレビ欄を読んでいたら、『今時「美」と「子」が付く名前は古臭い⁉️』と書かれており、子どもながらにショックを受ける。

そして、多感な時期に入った私に対して元父親は何の気なしにこう言った。
「お前の名前の漢字はじいちゃんが付けたんだけれど、『沙』って『少ない』って意味あるから、お前は『美の少ない子』ってことだな」と。
また、2人ほどきょうだいがいるんだけれども、『鶴』と『海』(仮名)が入っていて、小さい頃から「お前が『美砂子』だったら、砂に鶴に海でおめでたくて綺麗な風景になるのに」とかも言われて育ってきた。
※ちなみに元妹が産んだ子が『そら』(仮名)。
砂じゃない私への当て付けか?と悩んだものである。

好きになれる訳がない。

だからと言うか、自分の子どもにはなるべく自分の名前を好きになってもらえるような名前に、きちんと何らかの意味を持たせたかった。
その漢字が好きだったとか、簡単でもいいから、きちんとした意味を。

で、結婚して、3ヶ月程で妊娠してしまった。
自分の子の名前を自分たちが付けるのである。
もうドッキドキで、たまひよ名付け辞典とか買ったり、図書館から同様の本を何冊も借りたりして、性別など関係なく(わかんなかったからね…)片っ端から少しでもいいなと思った名前をメモしていき、暫定100位頃までなったところで気が付いた。

(安倍くんのこと、忘れてたーっっっ!!!)

よく考えりゃ安倍くんだって父親なんだから、例え1回も検診に付いてこなくても名付けに参加すべきなんじゃね?と、丁度日曜日も開いてる産婦人科だったので、もしよろしければ、と誘うと、
「あーいいよー」とどこか軽い。
そんな訳で付いてきてもらうことになった。

心音問題なし、その他も問題なし、4D映そうとしたら寝てたらしくて、先生につつかれて不機嫌そうにこちらを睨む赤ちゃんの写真が撮れた。
ついでに性別もわかった。
エコーでひっくり返されたらバッチリ見えたから。
待合室でなんか鼻が大きいから安倍くんに似てるんじゃないかとか色々言い合って、父の日のプレゼントを買いに行く途中の車の中で安倍くんが言う。
「あのさ…俺の子だから、俺から1文字とってもいいかな?」と。
私は丁度、親から1文字取ってた叔父さん一家を思い出し、また、安倍くんが父親になってくれた!と喜んで「アリだと思うし、すごくいいと思う!」と告げた。

そんな訳で安倍くんから1文字取ることになった。
安倍くんの下の名前は戦国武将みたいな、ふりがな4文字の名前なので、息子も4文字…?3文字出来るか…?と酷く悩んだのを覚えている。
アイドル、格闘家、芸人に前の職場の課長、と40代くらいの少し前世代の名前が多い。
そんな息子の名前を考えるのは大変で、ひたすら辞書とにらめっこをしたものである。

結果として、安倍くんの名前1文字+するのが3つ程に絞られた。
『穣』、『頼』、そして『嗣』。
秋生まれなので、実りある人生を。
頼りにされる子になって欲しい。
第1子、跡継ぎ。
どれも今っぽい名前ではないけれども、そこは今っぽくない私たちにピッタリだし、呼びやすいかなと思った。
安倍くんの漢字は旧字体なので、それも踏襲した方がいいのかとも思ったんだけれど、そもそも本人が日常的に旧字体使ってなかった。
赤ちゃんの顔を見て決めようか、なんて言ってたんだけれど、そもそもどれも『○穣』『○頼』『○嗣』という似たような名前で、私方家族の意見としては「うち2つは安倍くんに名前が似すぎ。あと呼びにくい」と言われ、消去法で決まった。

そんなこんなで決められたうちの息子は安倍くんからとって『あーくん』と呼ばれている。
じゃあ結局どれでも良かったんじゃないか!
なんて思う日もあるのだけれど、本人が気に入ってるよ、と前に言ってくれたのでよしとする。

何が言いたかったかというと、今日、安倍くんに「自分の『沙』って漢字が嫌い」って言ったのね。
少ないって意味だからって。
そうしたら、わざわざ調べてくれて、『細かい粒を表していて、悪いものを捨て去って良いものを選びとるという意味もあります』って書いてあるものをスクショしてくれた。
更に自分なりの仏教的思想から来る解釈をしてくれて、好意的な意味をくれた。
『砂』じゃなくて、『沙』だからこそ意味があるんだって。
それがすっごく嬉しくなった。
元父親からかけられた呪いを一つ一つ解いてくれる安倍くんの存在が非常にありがたい


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