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画面の向こう側にいるのは

自分の娘が、ネットで出会った男の人と会おうとしている、心配だというXでの投稿を見た。
経験者として、というか実際に結婚まで至った身としては耳と心が痛い。

私と安倍くんが出会ったのは、某コミュニティサイトだった。
当時の私は小学校以来の男友達を自分の愚行で失ったばかりで、だめんずウォーカーというか、だめんずメーカーみたいになってるな…と思って、「もう男の人は向いてない!無理!(ヾノ・∀・`)」なんて言ってたら、当時の友人が、「そういうのは良くないよ」と。
「試しになんかやってみない?ネットとか」 
「やだよ。変な事件沢山起きてんじゃん。個人情報抜かれるのも怖いし」
「じゃあ登録先に私の住所(当時友人は一人暮らしだった)使っていいからさ、ね?」
「うーん…」
で、友人の勧誘に負けて、とあるコミュニティサイトに登録することとなる。
そこではアバターが沢山あって、私は少し程課金して比較的サバサバしてそうな、お目目がくりくりしていて、好印象を持たれそうなアバターを選んだ。

当時、ちょうど完結したばかりの小説があって、試しにキャラの名前を検索してみると既にいる。
コスプレしていたり、初期のアバターのままだったりと様々で面白かったので、そのまま適当に入力していくと、『足跡』の欄で似たようなことをしている人が2人ほどいることに気付いた。

1人が無課金、もう1人は紫でなんかうねうねとした背景の気持ち悪い感じの人で、なんだろこの人?と思って紫の人のアイコンをクリックして、その人のページを見ると、『薄らハゲ』『なんかちょっとニンマリしている』『格好が托鉢』『背景紫でとにかくうねうね』と、なんか凄く気持ち悪いのである。
私なら絶対選ばないアバターで、ネットですら人目を気にしたアバターにしてるというのに、この人はそんなことなんて気にしない人なんだと思うと、それが酷く笑えてきて、よくわからないんだけれど、(この人だ!)と思った。
(この人は私のないもの持ってる人だ!)と。
気が付けば、私は彼に声をかけていた。
『はじめまして。よければ友達になっていただけませんか?』と。
オッケーの返事があったのは、比較的すぐだった。
それが安倍くんだった。

(当時は『師匠』と勝手に呼んでいたけれど)安倍くんは、自分のことを『しゃべらなくてつまんない奴』『でも心の中ではいっぱい考えてる』と教えてくれた。
迷惑じゃなければ、考えてることを送っていいですか?と言われたので即座にオッケーした。
当時長文メールを送ってきた友達がいたことも関係していたと思う。
いいですよー、と言った途端に3テーマぐらいの長文メールが送られてきて、私はこう思うだとか、時に答えられなくてスルーしてしまったりだとか、色々あったけれど、安倍くんは次々に話題を提供してくれて、考えさせられるものもあったり、適当な話もあったりで、あぁ、この人と友達になってよかったなと感謝していたし、安倍くんも『こんなに話せる人は初めてだ』と言ってくれていた。

数ヶ月後。
安倍くんから『好きになったかもしれない』と言われた。
最近、メールが来ないかとドキドキするし、メールが来るのが待ち遠しいし、メールが来たら嬉しくなるのだそうで。
私は確か『ありがとうございます。私も師匠のこと大好きですよー(*^_^*)』みたいな適当とも取れる返事をしたと思う。
(今思うと酷い返事だな)
だってね、安倍くんのことは1人の人間として大好きだけれど、実際会ったこともないし、なんなら自撮りを送り合ったことも、電話すらしたことなかった。
しかもこっちは人間不信だし。
恋愛感情では、なかったと思う。

そうこうしている内に、ついに 『会いたい』って言われてしまった。
『自分の好きな人が、顔どころか声もわからない。なんだったら実在しないかもしれなくて怖い。会って確かめたい』と。
わざわざ飛行機の距離を来てくれるらしい。
すごく困ったけれど、安倍くんのことを1人の人として好きだった私は、「本当にいいの?」と。
自己肯定感の低い私は「だってこんなんですよ?」と。
『それでもいいです。会いたい』と。
当時、22歳だった私たちは、そうして会うこととなった。

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