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一人のファンのあとがき

まえがき

 2023年3月19日、447recordsの最初で最後のライブ「Afterword」が開催された。この文章はその体験レポ……ではない。これは447recordsの1人のファンとして、特にヨシナちゃんの1人のファンとして――「今まで彼女たちが紡いでくれた物語を享受した者の文脈」を一旦締める、「あとがき」である。

 何故このような文章を書く必要が生じたのか?

 素敵なライブを届けてくれた彼女たちへのささやかな返礼という意味もある。しかしより重要な理由は、「感情の整理」である。

 このライブに際して、ヨシナちゃんは「楽しんで」と言った。僕はちょっと強めの幻覚を見るだけで、基本ただのファンである。推しの要請に応えるのはやぶさかではないし、待ちに待ったライブである、楽しまないはずがない。

 しかしそうして楽しむのと同時に、僕はこのライブを「自分の感情の葬送だ」とも思っていた。色々な思いを整理して、悔いを天に送り、残ったものを大切に大切に心の中に埋め、刻み込み、糧にする。そういう作業、典礼――まあはっきり言ってしまえば儀式の場だ――そう思っていた。

 そしてライブが終わってみれば十二分に楽しかったし、気持ちもスッキリしていた。ライブ中にボロボロと流した涙もすっかり止まっていたし、「感情の葬送」は成功したのだ――そう思った。僕は一緒にライブに足を運んでくれた、尊敬する知人にそう伝えた。しかし彼はこう言った。

「四十九日のように、気持ちの整理をつける『時間』は必要ですよ」と。しかしヨシナちゃんの活動終了と447recordsの解散は幾分前から告示されていたわけだし、その期間が四十九日として機能したはずだ。現にこうして僕はスッキリと落ち着いている――僕はそう答えた。

念のために書いておくが、葬送だの四十九日だのという不穏な単語が出ているが、447recordsの誰かが死んだわけでも、死ぬわけでもないと認識している。これは単純に僕のワードチョイスが最悪なだけである。すまない。

 だが帰宅した後、自分の認識が間違っていたことを痛感した。

 改めてライブの思い出を振り返ると、涙が止まらなくなったのだ。感情の葬送は失敗している。もちろん知人の言った通り、時間も必要なのだろう。しかしこうして文章に書き起こし、改めて整理をつけなければ、時間は感情を拗れさせてしまうように思った。それを防がねばならない。これこそがこの文章を書く理由である。

今までの歩みを振り返る

 ライブでボロボロ泣くくらいである、強い感情があるのは確実だ。しかしそれがどこで生じたのか? 僕がヨシナちゃんを知ったのは「Chamomile」がリリースされた頃だ。大まかに3年半前ということになる。この曲が僕に突き刺さった。あのリリックに心が救済されてしまったのだ。

 しかしこの頃はシンガーであるヨシナちゃんに関してはまだ「綺麗な歌声だなぁ」くらいの感慨で、「歌の上手いVtuberの1人」という分類だったように思う。

 しかしそれから次々と曲がリリースされてゆくごとに明確に「好き」になってゆき、「ストレンジクローバー」がリリースされた時に始めてファンアートを投稿した。この時点から、可処分時間に合わせてだがぽつぽつとヨシナちゃんのファンアートを描くようになった。Twitterで「ヨシナを推す怪文書」と評された文章も書いた。

 どちらも衝動的に作り上げたものだったと記憶している。今見返せばどちらも今以上に拙い筆致で、羞恥すら覚える。当時だって恥ずかしかった。しかし当時は「作らねばならない」と思った。

 思えば、あの時点で信仰に近いものを抱いていたのだろう。美しい景色に自然と涙するように、荘厳な聖堂の前で思わず手を組んで跪いてしまうように、歌声に打たれ、思わず出てしまったのがファンアートであり、怪文書だ。

 信仰である、当然ながら見返りなんていらなかった。既に心が救済されていたから。むしろ「救済への返礼」という気持ちもあった。もっと言えば、「推しがもっと世間に知られて欲しい」という思いもあった。「彼女には無償の愛を捧げうるだけの何かがあるのだ」と、皆に知って欲しかった。

「Chamomile」「STOP NOT」「撃鉄」「がらんどう」「命のねうち」そして「ツバサ」。どれも辛い時に背中を押してくれたり、共感してくれたり、吐き出したい気持ちを代弁してくれた。僕の心を救ってくれた。だからこそ無償の愛を、信仰を返さねばならないと思った。布教しなければならないと思った。

 ゆえにこそヨシナちゃんの活動終了は、恩返しの宛先がなくなってしまうことを意味した。そこに3/17のソロライブ「ツバサノカタチ」、そして「Afterword」というライブがぶつかってくる。僕は「ヨシナちゃんのライブが観たい」というエゴが救済されてしまうというのに、もう救済への恩返しが出来なくなるのだ。

 だがこれはエゴである、現実的にひとりのファンとして出来るのは彼女が選んだ道を尊重し、見送ることだけだ。「救済への恩返しがしたい」というエゴは、「彼女の未来を祝福する」という祈りへと変じ、解消したはずだった。葬送に成功したはずだった。

 ここでやっと原題に戻ってこれる、「だというのに何故、まだ涙が出るのか?」「まだ葬送しきっていない感情があるのでは?」と。

ライブを振り返る

「Afterword」を振り返ってみよう。ちなみに僕は会場入りした時点で、「一昨日の『ツバサノカタチ』で泣ききったから、今日は泣かないもんね!」と思っていた。

 そして迎えた最初の曲「Emotion Lucky」。もう4人の姿が見えた時点で涙が止まらなくなった。そりゃ無理だよ、だってずっと観たかった光景なんだもん。3ヶ月前の柚子花ちゃんの誕生日ライブで予習する機会はあったけど無理だよ。2度目は威力2倍なんだよ、耐えられないよ。

 そこから始まったソロパート、トップバッターはリリモネ。曲は「モネ活宣言」から。ソロパート初手からブチ上がる曲だ、コールも滅茶苦茶楽しかった。だというのに僕はまた涙が止まらなくなった。僕はここで「ああ、ここは447Girlsの全員への、この数年間に抱いた感情を発露させる場なんだ」と気づいた。

 リリモネの活動期間は僕の繁忙期と被っていて、配信をリアタイで観れる機会はあまり無かった。だけど彼女が頑張っている姿や、447Girls全員を誘って企画配信をしてくれたことは知っていた。ありがとうリリモネ。全力でコールしてきたよ。

 そして柚子花ちゃん、ユウキちゃんと続く。やっぱり涙が止まらない。「ハルカゼストリート」で背中を押してくれて、「Last Game」でブチ上げてくれて、感謝しかない。これらを収録した「The Rain Tree」、大切に聴いてるよ。

 4番手ヨシナちゃん「撃鉄」。もうイントロの時点で泣く。ブチ上がりながら泣く。だってずっとライブで聴きたかったんだもん。しかも振り付けつきだよ。格好良いんだ。最後の銃を撃つ仕草で心臓打ち抜かれたのは僕だけじゃないはずだろ。

 そして2週目のヨシナちゃん、「ラブコメディ」「ツバサ」。
「ツバサ」に関しては省略させて欲しい、解説を加えることすら野暮だと思うから。最後にこれを歌ってくれてありがとう、としか言えない。

 問題は「ラブコメディ」だ。

 最初に「ズルい」と言わせて欲しい。歌詞がこの「Afterword(あとがき)」と題したこのライブとリンクしてるし、ヨシナちゃんとエハラさんの活動の総括と今後への祈りを想起させる内容に、心を打たれないわけがないんだ。

 ――個人的な話をする。そしてその話でライブの感想を終える。

「ラブコメディ」に関しては、リリースされたその時に強い衝撃を受けた。僕はこの3年ほど小説を書いていた。しかし出版に関わった各所に礼を失することになるが、僕はまだ技量が未熟なのだと思っている。もっともっと、人の心を揺り動かす作品を作りたいと思っている。

 そこにこの曲だ。自分では到底出来ないレベルで、心を揺り動かされた。小説が題材になっているという、僕の弱点を衝く「やじり」を除いたとしても、心にぶっ刺さった。

 クリエイターの端くれとして、この2人は絶対に敵わないと思った。歌と小説だ、土俵違いも甚だしいが、「人の心を揺り動かすものを作る」という点では同じだ。そしてその点で、絶対に勝てないと思った。

 そんなことはヨシナちゃんとエハラさんを知った時点でわかってはいた。でもずっと「同じようなことをしてみたい」とは思っていた。それは嫉妬でもあるし、2人に心を救済された者としての祈りでもあるし――「救済されっぱなしなことへの恨み言」ですらある。

「Afterword」で葬送しきれなかった感情は、これなのではないかと思う。本当に身勝手な感情だとは思うけど、はっきりと言葉にすればこうなる。

 こんなに僕の心を揺り動かしてずるいよ。これだけ救っておいて、何ひとつ恩を返せないうちに去ってしまうなんてずるいよ。

 今の僕は感謝の言葉を伝えきれるほど上手に言葉を操れないから、成長するまで待って欲しかった。僕が成長した時、貴女はまた素晴らしい曲を出して僕を救済して、「やっぱり返しきれないなあ」といつまでも打ちのめされたかった。クリエイターとしても、いつまでも遠くに走り続けて欲しかった。

 だけど活動終了した後の、貴女のこれからの未来を祝福する気持ちは本当だ。

 ……でも、直近の怒涛の新曲ラッシュも、ソロライブのセトリも、ラストライブのセトリも、全部が全部ずるいじゃないか!! 心を揺り動かされないわけがないじゃないか!! こっちは逃げる選択肢が無いのに、最大威力で殴りつけるも同義だよ!? ああ、だからこそ最高のエンディングだったよ!! 心臓の真ん中にまで刻み込まれたよ!! ずるい!! ありがとう!! 大好きだよ!! ずっと元気で生きてね!!


 言い切った!! 以上、僕のあとがき終わり!


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