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「気仙沼のサスティナビリティのトップランナーが見る世界の水産業の今」

2022年11月28〜30日に開催された「三陸水産イノベーションサミット」。三陸の水産業のトップランナーたちの登壇レポートをお届けします。

世界に蔓延るIUU(違法・無報告・無規制)漁業。日本も例外ではない。一石を投じようと大西洋クロマグロで世界初のMSC認証を取得した宮城県気仙沼市の臼福本店。トップランナーは今、何を考え何を目指すのか。

スピーカー:
(株)臼福本店 代表取締役 臼井壯太朗氏
1882年創業の臼福本店5代目社長。1971年宮城県気仙沼市生まれ。大学卒業後、日本鰹鮪漁業協同組合連合会(現日本かつお・まぐろ漁業協同組合)スペイン・カナリア諸島ラスパルマス駐在員を経て、1997年家業である株式会社臼福本店に入社。2012年五代目社長に就任。臼福本店は7隻のマグロ延縄船を所有し、大西洋やインド洋で操業。大西洋クロマグロ漁では世界で初めて、海のエコラベル「MSC認証」を取得。

2022年12月、特定水産動植物等の国際流通の適性化等に関する法律(水産流通適正法)が施行されました。これは違法に採捕された、違法・無報告・無規制漁業(IUU:Illegal, Unreported and Unregulated)の水産動植物の流通を防止する法律です。欧州から遅れること10年、米国からも6年。世界標準から大きく遅れをとっている日本の水産業は……。

■流通し続けるIUU漁業の海産物

2020年8月、臼福本店(本社:気仙沼)のはえ縄漁業がクロマグロでは世界初となる海のエコラベルといわれるMSC認証を取得しました。
臼福本店では、獲った魚には通し番号の入ったタグをつけ、何月何日にどこの位置で何キロのどういう魚を釣ったのかを、水産庁と大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)に毎日報告。漁獲量と流通履歴を追うことができます。

MSCのプレスリリースでは臼福本店がMSC認証の取得を目指した理由について、“臼福本店がMSC認証の取得を目指した理由は、持続可能な漁業の重要性を認識しているためだけではありません。認証審査では、審査対象の漁業がIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)に関与していないことも確認されることから、自分たちが獲ったクロマグロをほかのクロマグロと差別化することができるという理由もあります”と明記されています。

2019年のG20では、<IUU漁業は,世界の多くの地域において,引き続き海洋資源の持続可能性にとって深刻な脅威となっているため,我々は,海洋資源の持続的な利用を確保し,生物多様性を含め,海洋環境を保全するために,IUU漁業に対処する重要性を認識しIUU漁業を終わらせるという我々のコミットメントを再確認する>と明示されました。これを受け、欧米では流通する全種類の水産物の違法漁獲物の輸入と売買が禁止されました。
そしてようやく昨年末、日本でも水産流通適正法が施行されました。しかし、第1種(国内品)①あわび ②ナマコ ③シラスウナギの3種のみ。第2種(輸入品)①イカ ②サンマ ③サバ ④イワシの4種のみと、せっかくできた法律も規制対象が不十分。EUやアメリカで規制対象として弾かれたマグロは現在も日本に輸入され続けているのが現状です。

■一次産業を守り、国を守る

国際登録されている遠洋マグロ延縄漁船(24メートル以上の正規登録船)は世界で約1,000隻。かつては世界最大の漁業国であった日本ですが、日本の遠洋漁業船はこの20年で600隻から150隻に減少していると言います。世界では水揚げ量が増えている中で、先進国の中では日本だけが衰退しています。

世界の国々を見てきた臼井さんは、「食の先進国ヨーロッパで、花形の商売は漁師、農業などで自国の産業を大事にしています。子ども達も、地域のものを食べることで地域が豊かになることを知っています」と言います。

では、成長しているヨーロッパと衰退する日本はいったいどこが違うのでしょうか?

「ヨーロッパでは、国と国が繋がっている国境を守っているのは農家さん。農家さんが土地を耕す=国土を守っている意識がすごく強いのだと思います。ナショナリズムも強いし、自分の国を愛するのは当たり前のこと。一方で、日本は島国。では、日本の国境を誰が守ってきたかというと、沿岸の漁師さんが自分の漁場を守っていました。沿岸の漁業者、漁師を守ることが、日本を守ることにもつながります。他の島国の人は自分の国境はわかっているけれど日本は土地でしか教わっていない。世界中どこをみても、地方の基幹産業は一次産業。基幹産業が衰退すれば地方は衰退、結果的に国の衰退にもつながります」

■水産業から日本を変える

世界中から違法漁業(IUU)によって獲られた違法水産物、食品偽装された安い魚が大量に日本市場に流通しています。
結果的に水産物の価格が下落、まじめに漁業を営む国内生産者の魚は、コストに見合った価格で売れなくなってしまっています。違法漁業を撲滅するためには日本のサプライチェーンにも違法漁獲物を流通・売買させない欧米同様の厳格なルールが必要です。

また獲る漁師だけに厳しいルールを与えるのではなく、輸入する人(国)、流通させる人(輸入商社)、売る人(スーパーや飲食店)、買う・食べる人(消費者)、それぞれが責任を持たなければなりません。
「本当の地方創生とは、地方の基幹産業である一次産業を復興させること。海を守ることは産業を守り、国を守ること。日本の漁業を次世代に繋げるためには、世界基準に合わせたあらゆる規制改革が必要です。

日本の漁業そして一次産業が生き残っていくためには国やサプライチェーン、そして国民全体の理解と協力が必要です。でたらめな安いものが売れるのではなくて、真面目にやっている人の商品が売れるようなマーケットになっていかないと、日本はダメになります。水産の世界から、地方から、日本を変えていきたい」
欧米の漁業先進国でも為せなかった世界初のクロマグロでのMSC漁業認証を取得した臼福本店。水産の最前線から、サスティナビリティとトレイサビリティの訴求し、水産業から日本を変えていきます。

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