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「最前線レポート! 日本のフロンティア『浪江の鼓動』

2022年11月28〜30日に開催された「三陸水産イノベーションサミット」。三陸の水産業のトップランナーたちの登壇レポートをお届けします。

東日本大震災直後に「東の食の会」設立し、東北の漁業・農業・食産業の価値創造に取組む高橋氏。昨年、福島県浪江町に移住し活動を加速。様々な挑戦が生まれている日本のフロンティア浪江町からその鼓動をレポート。

スピーカー:
(一社)東の食の会 福島浜通り地域代表 高橋 大就氏
1975年生まれ。スタンフォード大学院卒。1999年に外務省に入省。在米国日本大使館で日米安全保障問題を、帰国後は日米通商問題を担当する。2008年に外務省を退職し、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、農業分野を担当。2011年の東日本大震災直後から休職、NPOに参加し東北で支援活動に従事。2011年6月、一般社団法人「東の食の会」発足と共に事務局代表に就任。同年8月にマッキンゼー社を退職し、オイシックス・ラ・大地株式会社の海外事業部長に就任。現在は同社の海外事業担当執行役員、Oisix Hong Kong、Oisix Shanghaiの代表も務める。2020年、一般社団法人NoMAラボを設立し、代表理事へ就任。2021年4月より福島県双葉郡浪江町に移住し、まちづくりに関わる。

令和5年『広報なみえ』1月号の表紙を飾ったのは、前年12月10日に請戸漁港で行われた「請戸朝市」の写真。福島県浪江町請戸漁港で海の幸を売る風物詩だった「請戸夕市」が「請戸朝市」と名称を変え、約12年ぶりに復活しました。

■震災10年、やり残したこと

浪江町請戸漁港を代表する稀少な高級魚が「シラウオ」。シラスに比べて大きく食べ応えがあり、魚を扱うプロの評価が高く「小魚界の女王」とも称されています。

その請戸のシラウオをさらに、高級感あふれるパッケージと「海のプラチナ」という新たなブランディングを手掛けたのが、数々のヒット商品を生み出してきた(一社)東の食の会。
東の食の会は、東日本大震災直後に高橋さんが食産業の復興をと、生産者をつなげビジネスを生み出すことを目的に立ち上げた会です。生産者をつくり、ヒット商品をつくり、販路をつくり、そしてファンをつくる。消費者と生産者をつなげ、ファンコミュニティをつくり広げています。数あるヒット商品の中でもサヴァ缶は、累計販売数1,000万缶を超える(2021年2月末現在)大ヒット商品。東の食の会代表の高橋 大就さんは、2021年4月に浪江町に移住しました。

「震災10年の節目でやり残したことは、原発周辺地域。処理水の放出も見据え、海のあるこの浪江町で自分も当事者になって、食産業をやりきろうということで移住を決めました。浜通り地域の人との勉強会や地域の食の販路づくり、ファン作りをここ浪江町に特化してやっています。シラウオのブランディングもその一つ」

■漁師が、農園の映えに一肌

(一社)東の食の会がプロデュースし、地域の某作物生産者、住民、東北の食のファンが一緒になって、さまざまな農作物を実験的に栽培していくコミュニティ実験農場「なみえ星降る農園」が2021年11月開園しました。その土づくりの土壌改良と獣害対策に有効と活用されているのが、ヒトデ。
「土づくりも実験しようと漁師からアイデアが出てきたのは、土づくりに良いと言われるヒトデでした。乾燥して撒くと崩壊していくので、牡蠣殻のように粉砕する手間がいらない。さらに、サポニンという成分が獣害対策に効果がある。海の邪魔者が山の最大の課題を解決するんです。ヒトデは、三陸の大船渡の漁師さんから提供してもらっています。ヒトデを食用着色料で色付けすることで、映える。なみえ星降る農園もそこから名づけました」

高橋さんが、浪江は今一番熱い日本のフロンティアというように、さまざまな取り組みが行われています。
JR東日本は、“どこでも誰でも水産養殖ができる仕組みを提供する”養殖システムの開発を手掛けているARK(本社 東京都)と業務提携し、常磐線浪江駅構内でバナメイエビの養殖を開始する実証実験<なみえびプロジェクト>。太陽熱を利用し給餌システムを回し、空間に制約のある場所でも養殖が可能となる小型閉鎖循環式陸上養殖システムを活用。安定して養殖ができるかどうかを確認後、養殖したなみえびは各種イベントや、エキナカ店舗での販売などが検討されています。

■安全は科学、安心は人

水産業以外にも、棚塩産業団地に立地する福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で製造される水素の積極的な活用に向けた、なみえ水素ダウン構想を策定。FH2R の開所に先立ち、令和2年3月に浪江町は2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目標に、低炭素・脱炭素に関する取り組みを進めるゼロカーボンシティ宣言をしました。トヨタや岩谷産業など、日本を代表する水素関連企業の誘致が進んでいます。

また、交通インフラでも日産のオンデマンド交通を運行した「なみえスマートモビリティ」が稼働。浪江町全域を移動でき停留所は町内に250カ所、乗りたいところから行きたいところへ運行(2023年1月5日より運賃有償実証実験開始)。スマホを片手に70代の方も使いこなしている状況で、若者も車がなくても町中を動き回れる非常に便利なインフラの本格事業化が進められています。

「安全は科学、安心は人。安全は科学的客観的に担保されるもので、安心は心の問題。どれだけ科学的なコミュニケーションをとっても、心の問題は越えられません。海産物の価格も戻り、超一流の割烹など、物の価値で判断できる人はわかってくれています。風評被害は、クオリティで勝負できます。どういう人がどういう思いを持って、どういうふうに獲って、あるいはつくっているのかを直接消費者が触れるというのが、一番心理的なハードルを乗り越えることができる。

星降る農園もみんなが当事者になれば変わることができる。科学的な数値で説明しても人は変わらない。それを乗り越えるのは人の力。科学の上に思いを直接つなげていくことがすごく大事だし、乗り越えてきたし、これからもやり切るだけ。思いのある人がみんなでやるとこれだけのイノベーションが起こせるのだということを三陸水産業が教えてくれました。ここ福島から、もっと大きなイノベーションを起こせるんじゃないか。それを皆さんと一緒にやっていきたいと思います」

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