見出し画像

「北三陸発! 地域水産業を活性化するビジネスエコシステム」

2022年11月28〜30日に開催された「三陸水産イノベーションサミット」。三陸の水産業のトップランナーたちの登壇レポートをお届けします。

世界中で深刻化する海の砂漠化(磯焼け)問題に、日本唯一の『ウニ牧場』を有する岩手県洋野町から解決に取り組む。『ウニ再生養殖』と『藻場再生』により世界各地で環境に配慮した持続可能な水産業の確立を目指す。

スピーカー:
(株)北三陸ファクトリー代表取締役 下苧坪之典さん
1980 年岩手県洋野町生まれ。大学卒業後自動車ディーラー、生命保険会社に勤めた後、2009年4月に帰郷。2010年5月に(株)ひろの屋を創業。2018年10月にひろの屋100%出資の子会社(株)北三陸ファクトリーを4人の仲間と設立。2021年には、バリューチェーンを構築し、サスティナブルな水産業を養殖事業で実現する養殖コンサルティング事業部を新設。2022年に海洋研究のR&Dを形にするNPO法人設立。

2022年11月末、日本を代表する大手総合商社が「CO2の新たな吸収源、ブルーカーボンエコノミー事業の推進」に着手すると発表。全国紙でも取り上げられました。
そのブルーエコノミー推進事業の切り札の地として脚光を浴びているのが、岩手県洋野町です。

■ウニによる磯焼けが世界中で起こっている

昨年、三陸水産イノベーションサミット2021の3日目、『水産業×地方創生』をテーマにトークセッションに登壇した(株)北三陸ファクトリー代表取締役の下苧坪之典さん。
昨年「地方と都市部で所得格差が生じていることは周知の事実。しかし、街(公共)の資金を使って地域の一次産業従事者の給料を補うことが保証ができれば、周囲を巻き込む仕組みは地方で造れる」と話していましたが、1年を経てその言葉は有言実行されました。

下苧坪さんは今年の最後を飾るトークセッション「北三陸発! 地域水産業を活性化するビジネスエコシステム」に登壇。
「磯焼けの原因の一つは、ウニが海藻を食べ尽くしてしまう現象が挙げられます。磯焼け防止のために、ウニの駆除が推奨されていますが、駆除されたウニは身がつかず廃棄されていました。北三陸ファクトリーでは、環境に配慮した持続可能な水産業の確立を目指し、『ウニ再生養殖』と『藻場再生』を行っています。
まず陸上で孵化させたウニを沖に放流し、2,3年かけて6センチ程度まで成長させます。一方、遠浅の岩盤の溝を178本掘って、溝に天然の昆布やわかめがたまる仕組みを作ります。そこに先ほどのウニを投入することで身入りがよくなり、ダントツの水揚げを誇る地域になりました」


■日本で最大級のブルーカーボン先進地域

2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた(captured)炭素が「ブルーカーボン」と命名され、吸収源対策の新しい選択肢として提示されました。

地球の7割は海。陸の森林が吸収する二酸化炭素(グリーンカーボン)よりも、水の中の海藻の方が二酸化炭素の吸収量(ブルーカーボン)は多いと言われています。北三陸ファクトリーが取り組んでいるのは、藻場を再生することで、カーボンクレジットを発行。二酸化炭素を排出している大手企業がそのクレジットを購入することで、SDGsの『気候変動に具体的な対策を』にコミットできる仕組みです。このほど、洋野町のウニ牧場®のエリアが国内最大規模のCo2吸収源として認められ、ブルーカーボン先進地域になりました。

「三陸のみならず北海道から沖縄まで海藻が激減しています。これは日本だけでなく世界中の問題で、タスマニアでは95%の海藻が消滅しているそうです。海水温の上昇によってウニが活発に動き、ウニの食害により世界中の海が砂漠化しています。また、海中の海藻が消滅すると小魚が集まらなくなり魚が減ってしまいます。海藻を食い尽くしたウニもどんどん痩せてしまい、身入りが悪いためゴミ同然で廃棄するしかありません。それが世界で起きているのです。しかも、一度品質が劣化すると、老齢のウニは昆布を食べても身が戻らないのです」

■ウニ再生養殖と藻場再生を同時に実現

北三陸ファクトリーでは、ウニのエサやカゴについて北海道大学と研究開発をしています。ウニ殻を利用した藻場再生活動も行っています。
「ウニは食べられる部分が2割、捨てられる部分が8割。これまでは大量のウニ殻を産業廃棄物としてお金を払い処分していました。しかしウニ殻に含まれている、鉄分、リン、マグネシウムなどは海藻の養分になります。そこで私たちは、ウニ殻を堆肥ブロックにし、海藻を増やす取り組みに挑戦。2021年に北海道で実証実験を行い、堆肥ブロックにより海藻が増えることを確認できました。その活動には、子どもたちも参加していて、漁師の方と藻場づくりをしています。これは水産教育にもなっているのです。
この先は次の世代をいかに大切にしていくか、つまり大人が未来に投資をしていくかにかかっています」

また、商品価値向上、産地偽装発生防止のため、生産から流通過程を追跡可能にしました。北三陸ファクトリーの商品パッケージに掲載されているQRコードを読み取ると、その生産から流通過程を全てみることができます。さらに最も厳しいと言われているEU HACCPの要件も満たす、世界基準の食品安全規格FSSC22000を取得(2021年9月)しています。

「ニューヨークでは、6年前にはウニは一切食べられていなくて、日本や中国に輸出されていました。しかし現在、「ウニを食べることで、地球環境に配慮した活動ができる、何よりも美味しい」ということがニューヨークからアメリカ全土に広がりを見せ、今では寿司バーで高級食材として食べられています。

三陸から生まれた事業が、日本の、世界の海を救い、食料問題をも解決するかもしれない。
地元の漁師さんの生業を創ることを基軸にしながら、ウニ再生養殖と藻場再生に取り組むことで、地球環境に配慮し、持続可能な仕組みで生産された海産物を展開するブランド企業として可能性を探っていきます。
私が中学生の時は海藻をかき分けやっと海底に辿り着いていたけど、今は海に何もない。行政であろうが、漁師であろうが、誰であろうが、海のことをもう一度考えたいと思います」

下苧坪さんが目指していた「街(公共)の資金を使って地域の一次産業従事者の給料を補う、という保証ができれば、周囲を巻き込む仕組みは地方で造れる」というシステムは、ウニ養殖の可能性と、世界中で起こる磯焼けで荒廃した藻場再生を同時に解決していこうとしています。周囲を巻き込む仕組みが岩手県洋野町で始まっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?