見出し画像

【水産業×地方創生】三陸水産イノベーションサミット2021 DAY3 最終日 速報

画像1

いよいよ本日で3日間のサミットも最終日。プレイヤーたちの熱気は最終日も最高潮。本日も三陸水産イノベーションの名にふさわしい内容となっている。

画像2

DAY3最初のトークセッションは、『水産業×地方創生』をテーマに、㈱ヤマナカ 代表取締役 髙田慎司氏、㈱北三陸ファクトリー 代表取締役 下苧坪之典氏が登壇。

「発想の転換」。今回のトークセッションにサブタイトルを付けるとすれば、この言葉が適切であろう。

 髙田氏は地方創生に対して「地方の主力産業である1次産業に従事している生産者が稼ぐチャンスが少ない」と述べ、これからは1次産業、特に、水産業を複合的に展開し、生産者に働き方の多様性をもたらす必要性を問いた。続けて髙田氏は”一般消費者が水産業を身近に感じる機会が少ないこと”に触れ、消費者が産業を身近に感じる機会が増えることが産業の振興につながる、と示した。それに伴い、髙田氏は”水産業×観光”を展望している。具体的には、気軽に牡蠣狩りができる施設を造る、という。消費者が牡蠣狩りに行くに伴い、街の他産業へ経済効果を波及させ、結果的に地方の産業振興につながる、とした。
 
 一方、下苧坪氏は、”生産者の頑強な出口を造ること”が地方の産業を牽引する上で必要であると問いた。「地方と都市部で所得格差が生じていることは周知の事実。しかし、街(公共)の資金を使って地域の一次産業従事者の給料を補う、という保証ができれば周囲を巻き込む仕組みは地方で造れる。」と述べた。従来は出口、つまり”稼げる保証”が担保されていなかったため資金が集まらずそれに伴う従事者も集まらなかった、とした。

 両社は水産業という切り口で地域産業を牽引し産業を振興している。
これからの地域産業に大きなインパクトを与え続ける可能性を感じた両社のトークセッションであった。

画像3

続いて『イノベーションを起こし続ける福島』と題し、(一社)東の食の会 福島浜通り地域代表高橋大就氏と清昭丸(沖合底引網 漁師)船主 菊地基文氏が登壇。

「福島」。この地の水産業従事者はどれだけ風評被害を受けたことだろう。原子力発電所の事故の影響で、福島県産の水産物は厳しい放射性物質検査が何度も実施された。このような困難な状況にありながらも、水産業従事者達はこの状況を受け入れ努力を続けた。2012年から安全基準を通過した魚種から販売・操業を開始。現在も魚種によっては制限があるものの、多品種の魚種を出荷できている。
しかしながら、2021年4月13日、福島第一原発で発生している「ALPS処理水」の処分方法を2023年を目途に海洋放出とする基本方針が決定された。

 またしても福島県の水産業は逆風に立たされることになった。

 そのような福島の地で、水産業に従事している2名が登壇した。1人目の高橋氏は、東日本大震災以降に東北の農水産物の販売支援を続ける活動をしている。この活動を通して出会ったのが今回登壇する福島県相馬市の底引き網漁師、菊地氏。 

 トークセッションの冒頭、ALPS処理水について問われると高橋氏は「安全は科学。安心は人。」と答えた。背景には、”安全”は科学的に担保されるべきではあるが、人々が”安心”と感じるのは”安全”とは全く別物である、という考えがある。科学的なデータで示された食の安全をメディアを通して発信し訴えたとしても、全ての人々が安心して食べるとは限らない。「安心が人であるからこそ、安心を得るために、生産者の声を聞いてほしい。」と高橋氏は訴えた。

 菊地氏もこのテーマに対し、「情報を作るのは現場であり、メディアではない。メディアだけの情報に左右されることなく、自分の目で安心なのか・安全なのかを精査してほしい。」と述べ、メディアの在り方に対しても「政府の公表だけではなく、消費者が食材に対して審査しやすい情報を発信してほしい。」と言及した。
 
 続けて、菊地氏は未来に向けて、人々の価値基準が変化することの必要性についても触れ、「地球温暖化や人々の食生活の変化が、海の生態系を変化させている。価値のある魚だけを獲るからこそ、海の生態系のバランスが崩れている。ドンコのように、一般には価値が普及しづらい魚にも価値が付けることを目指す。この変化が、海の生態系のバランスを保ち、人の食生活にも変化が生まれる。」と述べた。

 トークセッションの終盤、「日本全国で福島の人間は1番”食”について考えてきた人」と菊地氏。続けて高橋氏は「これまで長く助走をとってきた福島だからこそ絶対に私たちは高く飛べる」と、未来の福島の水産業に対する大きな期待をのぞかせた。

画像4

DAY3第2部『副業で水産業を支える③』では(株)布施商店 代表取締役 布施太一氏、副業兼業者新庄祐樹氏、インターン生(大学院生/磯部高弥さん、大学生/河田愛依さん)の4名が登壇。

 今回のGyosomon!はこれまでの2日間と異なり、副業兼業者とインターン生とのハイブリットな形で事業を進めている。

 副業者と学生を同時に受け入れることに対して布施氏は「立場の異なる両者にそれぞれの強みを生かし活躍してもらえている。」と魅力を述べた。副業兼業者の新庄氏は、本業でIT企業に勤め、データ分析のスペシャリスト。一方、学生は、学生ならではの視点を生かしYoutubeの企画を行う。布施氏はこのYoutubeの企画に出演者として参画している。

 布施氏は副業者を受け入れることに対して「本業以外で入ってきてくれる方に、魚払い以上の価値を提供できるか分からなかった」と当初の不安を述べたものの、副業兼業者の新庄氏はこの話題に対し「本業とのバランスをとることが難しいこともあるが、ゼロからの立ち上げに関われることは非常に面白くて、楽しい。」と魅力を述べ、布施氏の不安は払拭されていると感じた。

 学生インターンとして企画に関わっている磯部氏は「何も経験のない学生が企業の力になれるのか」とインターンとして企業に関わり始めた頃は不安を感じていたものの「学生という立場でも主体的に動けば挑戦できるフィールドはあり、日々成長できている。」と充実感をのぞかせた。同じくインターン生の河田氏は「一歩踏み出したことで大変なことも多いけど、苦労の分、成長も実感できている。(インターンを)やってみて損はない。」と述べた。

 最後に布施氏は「中途半端な気持ちで副業者もインターン生も起用するべきではない。起用するなら経営者が本気で彼らに向き合わなければならない。本気で向き合えている今は、十分に魚払い以上の価値提供ができている。」と外部人材を受け入れる前の自身と同じ境遇にいる人へメッセージを送った。

画像5

DAY3第3部『水産業特化型インターン』と題し、受入れ企業八葉水産(株) 経営企画・業務推進課長 清水健佑氏、インターン生(大学生/川内唯空さん、大学生/栗原慧太さん)の3名が登壇。

 清水氏は「学生の働きが社内の刺激になり、社内に活気を生んだ。社員の内に秘めた考えを引き出すきっかけになった。」と学生が企業に入ることで生じる変化について触れ、インターン生に感謝を述べた。

 一方、インターン生の川内氏は、「水産加工会社の現場には最新の機械が導入されていたし、人の負荷は少ない。現場の働く環境に変革があったことに驚いた。」と実際に現場に赴き抱いたイメージを述べた。同じく学生の栗原氏は「営業資料の作成など実践的な経験を積むことができ、自身の成長につながった。また、震災の影響を受けたはずなのに、工場が再建されていたり、販路の開拓があったりと、水産業の力強さを感じた。」と述べた。

 トークセッションの終盤、清水氏は学生との関わりを通して「学生のやる気をブーストできるような大人になりたいし、そのような魅力ある企業に成長させたい。」と自身の、そして会社の展望を述べた。

画像6

 最後に、主催者である東北経済産業局 藁谷尊氏は「本サミットを契機に、三陸の海から世界へと水産イノベーションを実現したい。」と挨拶。

 続いて、本サミットのファシリテーターを務めた津田氏は「本サミットの3日間を通し、三陸から世界の水産業に変革をもたらす可能性を十分に感じることができたのではないだろうか。海というテーマ。本当に大きく深いテーマ。日本そして世界の海洋環境を守り、持続可能な水産業の実現が世界中の人に幸福をもたらす日を願っています。」と閉会の挨拶をした。

本サミットにご尽力・ご協力頂いた関係各省庁の皆様、ご参加(視聴)頂いた皆様、この場をかりて御礼申し上げます。

文:小澤琳

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?