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人材不足時代における石巻の水産会社のDX戦略

2022年11月28〜30日に開催された「三陸水産イノベーションサミット」。三陸の水産業のトップランナーたちの登壇レポートをお届けします。

宮城県石巻市の水産業に彗星の如く新規参入したハイブリッドラボ。深刻な人材不足に喘ぐ水産加工業にAIや新技術を導入。熟練の技を超えた先端技術により品質、生産性は大きく向上。新時代の水産業の幕開けである。

スピーカー:
(株)ハイブリッドラボ 取締役社長 石橋剛氏

熟練の技はこれまで見て盗むもの、と思われていました。
知識と経験がものをいう水産業の世界は、まさにその際たるもの。
しかしあえて、そこに水産業の活路を見出す。
熟練の技術をA Iで簡便に行えるようにするだけではなく、
その先に見据えるものは……。

■人の判断を伴う熟練の技を効率化

石巻に彗星の如く現れた水産会社、(株)ハイブリッドラボ。深刻な人材不足に悩む水産業界の中で、A Iや新技術を導入することで、熟練の技を超えた品質を実現し、生産性を大きく向上させています。
ハイブリッドラボは、ホタテ、ホヤ、カキの水産加工業を柱に、水産加工事業を行う企業に向けた課題解決の提案を行なっています。中でも主力商品が宮城県産のホタテ。
取引先は市場を中心に、お寿司屋さんや高級なレストランなど目利きの優れた方達にホタテを卸しています。

「ホタテを加工する工程は、『剝き身』『パッキング』『出荷準備』の工程に分かれています。その中で大事なのが、素早く質量を測りパッキングをする工程です。
剥かれたものをサイズ選別し、当社では500グラムになるように指定の粒数に入れていきパッキングし、出荷します。剥き身にも時間を要しますが、パッキング工程が作業工数全体の42%を占めるのです。
また、ホタテは鮮度劣化が早く、身が硬くなる硬化を起こして、寿司屋など取り扱う店は非常に嫌がります。鮮度を保つためには素早く、衝撃を与えない処理が必要です。そのパッキングが、熟練の技に頼っていました。
そこで弊社の親会社であるラックランド(※1)に相談したところ、A Iを使って解決をしようと取り組みが始まりました」

■A Iで作業効率大幅向上

そこでパッキング作業に着目したソリューション開発されたのが、<A Iセレクタ>。パック詰めするホタテの質量を自動推定し、選別・組み合わせをサポートします。
トレーにホタテを並べ、カメラを搭載したAIセレクタがホタテを撮影。その画像からAIが瞬時に質量とサイズを解析し、ホタテを色分け。作業者は同じ色のホタテをパックに詰めるだけで、誰でも素早く選別からパッキングまでができるので、生産性向上・労務力削減に繋がります。

「大きさと重さが比例しないホタテを、ベテランは手で持っただけで重さがわかる肌感覚を持っています。ホタテ養殖の繁忙期には人手が必要になるんですが、最終的な質量選別するところはベテランじゃないとできませんでした。そこがボトルネックになっていました。
繁忙期に人を集めても、このボトルネックが改善されないと結局、取扱量を大幅に上げることができない問題がありました。
ホタテの一粒一粒は重さも大きさも違うけど、A Iセレクタを導入したことで、A Iが質量を計り、色わけされたホタテをパレットに詰めるだけなので、繁忙期にアルバイトの高校生を入れても通常の2倍の数量を取り扱うことができ、パッキング工程で30%作業効率が向上しました」

■エンパワーメントで、水産業を明るく照らす

従来の作業を機械が取って代わることには、水産業に限らず抵抗が生じます。
D XやA I導入というと、行末はフルオートメーション化が頭を過ってしまいますが、A Iを使って生産量を上げるというより、機械が補佐して人の能力を上げていく。人に優しい仕組みづくりを考えた結果、A Iセレクタの導入に至りました。「プロの技術を尊重しながら付加価値をつけるというところに主眼を置いていていますが。職人の技を言語化することに時間を要しました。トライアンドエラーを繰り返すことで精度を上げていきました。

実際、機械とはいえ本当のプロフェッショナルの方と比べたら変わらない。新しく作業をする方でも、できるだけ容易に出来る環境をつくることが非常に大事だなと思っています。
機械を使って生産量を上げるというよりは、その人の能力を機会が補佐する人に優しい仕組みづくり、エンパワーメントを目指しています。ベテランの方には、これまでの経験からさらに他の作業にも効果的な手法がないか考えていただく時間ができました。
水産業は成長産業です。資源という目線で見たときに、まだまだ水産業は成長できる余地がある。DXで付加価値をつけ、水産業界を魅力的な業界にしたいなと思っています」

人の経験を数値化した作業を機械が行い、機械が考え及ばない手法を人が生み出す、人と機械のハイブリッド。人を補うエンパワーメントで、水産業を進化させていきます。

※1 ハイブリッドラボの親会社の株式会社ラックランドは、『食』に関連する商業施設・店舗の設計および商空間制作を手掛けています。

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