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「宮古の奇才『イカ王子』が見据える三陸の未来」。

2022年11月28〜30日に開催された「三陸水産イノベーションサミット」。三陸の水産業のトップランナーたちの登壇レポートをお届けします。

岩手県宮古市の水産業を救うために自分が広告塔になる。そう決意して『イカ王子』となった鈴木氏。その姿勢には一点のブレもない。しかしその裏には綿密な戦略があった。イカ王子の成功の軌跡と見据える未来を追う。

スピーカー:
共和水産(株)代表取締役 鈴木良太氏
1981年生まれ、岩手県宮古市出身。東北学院大学を中退後、仙台市内の飲食店に勤務。2005年、家業である水産加工会社で働くため宮古へUターン。東日本大震災で甚大な被害を目の当たりにし、「故郷のためにできること」を考え始める。自ら王冠を被り商品をPRする「イカ王子」というキャラクターで、イベントや地元ゲストハウス主催の『「イカ王子」といく魚市場ツアー!!市場食堂での朝食付き!』で案内役を務めるなどを通して、宮古の魅力を発信し続けている。

2021年、日本の総広告費のうちインターネット広告費がマスコミ四媒体広告費(新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディア)を初めて上回りました(※1)。中でも多くの人が体感しているように、Instagram、Twitter、Facebook、TikTok、YouTube等を利用したソーシャル広告は、インターネット広告媒体費の35.4%を占めるまでに急成長しています。
けれど、何をどのように発信するかが最も重要。岩手県宮古の水産加工会社がとった手段とは……?

■地域で消費できる食文化を

共和水産は、岩手県で水揚げされるイカを買い付け、最終加工まで一貫生産することで産地のストーリー性を出し、首都圏を中心に販売する水産加工会社。けれど、スルメイカの水揚げは徐々に低迷。原料が高騰する中で、工夫を凝らし商品を開発。トレイ入りだったイカそうめんをカップ入りに変え、家庭では切れない2.5ミリ幅にカット。食べやすい個食に特化することで、今では一番の売れ筋商品になっています。

素材は日本一でも、そこで暮らす地元の人は知らなくて、関わりのある産業の人たちと行政しか知らないことは食産業の世界では往々にしてあります。
例えば、仮に宮古駅前でインタビューしても数年前までは一般消費者の口から出ることがなかったかもしれないのが、<鱈(タラ)>。実は宮古湾のマタラ水揚げ量は、6年連続本州一(2016年は釧路港にトップの座を譲りますが、その後は本州一を継続)。

宮古ではタラは通年で水揚げされ、家庭ではお刺身で食べています。しかし、商品として考えたときに、刺身を作ってもある一定の年齢層しか購入してくれません。しかし、できるだけ港町での消費を促進し、その様が観光資源にもなって外から人を呼び寄せ、そして地域でまた食べられる食文化を鈴木社長は作りたいと考えていました。
歩留まりを100%近くにして、加工品でもあたかも家庭で作ったような手作り感のあるもの、地域で愛される商品をと考えたのが、タラフライ。サクサクの衣を頬張ると、雪のように白いタラの身の旨みが口の中で雪解けのように広がります。すべてハンドメイドのタラフライは、子どもからお年寄り、外国人にも好まれるフライで、今や宮古のソウルフードになりました。

■発信力を高める

『王子のぜいたく至福のたらフライ』と名付けられたタラフライが知名度を上げたのは、もちろんその美味しさが地域の人に愛されるようになったから。しかし、鈴木社長自らが広告塔となって、忙しい業務の中でもイベント会や物販で積極的に広報PR展開したからに他なりません。

「鮮度のいい魚がある。でも、毎日は食べられない。当たり前の食卓にあがるようなものを自分はつくっていきたいと思っていました。自分は加工会社として、その存在意義を常に導き出したいと思っています。港町で愛されるものをずっとリリースできていないというところで認められていないと自分ではあ思っていたから、真鱈やタラフライと出会うまでは結構しんどかったですね。加工することで簡単便利でおいしくなって、手作りで主婦が作るよりも美味しいものをつくって食文化にしたい思いがあります」

岩手県宮古市の水産業を救うため、自分が広告塔になると決意して王冠を被り『イカ王子』となった鈴木さん。目指すべきは愛されるヒット商品をつくり、宮古を盛り上げたいという思いが根底にあります。
「イベント告知など何千何万のフォロワーに向けて発信し、SNSで“いいね”をしても実際には来ない。一般の消費者に向けて、自分の思いや魚市場のライブ感を、ファンに届けていく方が近道。僕は、例えば盛岡でイベントがある時には、メールなどで個別にアナウンスを送っています。私自身、土日を返上してやってる以上、一人でも多くの人に食べてもらいたいし、やる以上は納得したいので……。

人生ってどこで伏線を回収するか、わからない。自分が11年間やってきた活動がご縁にもなったなと思っていて、無駄なことをあえてやるようにしている。わからないことが楽しいし、無駄なことに意味がある。やってみることが大事」
東日本大震災をきっかけに、地域のど真ん中に立っていることを意識し覚醒。三陸の美味しい水産物をさらに加工し、「逃げない、芯食ったモノをつくり」を武器に、その発信力をさらに増幅させています。

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