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Genarchopsis属吸虫

私たちは、当初の目的であるオヤニラミの吸虫の中間宿主発見のために、カワニナに寄生する吸虫の塩基配列リストを作っていました。この時に、調査地点のカワニナにGenarchopsis属吸虫の幼虫が寄生していることが分かりました。それは同時に、調査地点の近くにGenarchopsis属吸虫に寄生されている淡水魚が生息しているということです。そこで、まずはGenarchopsis属吸虫について調べることにしました。

和名 ゴッポ吸虫(これは Genarchopsis属の1種のG. goppoのみをさす)
学名 Genarchopsis sp.
分類 扁形動物門吸虫綱
生息 関東から九州まで幅広く生息している(四国除く)
解説 Genarchopsis属吸虫は,Derogenidae科に属する動物です。主に淡水魚,まれに爬虫類や両生類に寄生しており,日本を含む東アジア,東南アジア,南アジアに分布しています(Ozaki, 1925)。このグループの吸虫は、1925年に広島県東広島市西条町の小川に生息するドンコから見つかりました。この時発見されたGenarchopsis属吸虫の第一号の吸虫がGenarchopsis goppoです。G. goppoは他にもナマズ,ヨシノボリ属魚類,オヤニラミなどが宿主になっています(Shimazu, 2015)。意外とメジャーな吸虫のようで、かなり研究されています。

左がドンコで右がヨシノボリ(兵庫県のある河川にて)

Genarchopsis属吸虫のこれまでの研究

G. goppoの中間宿主の初めての報告は,山口(1971)によるもので、第一中間宿主としてカワニナと,第二中間宿主としてカイアシ類を報告しています。生活環の研究については,奈良県奈良市内の小川に生息するカワニナ, カイアシ類, , ヨシノボリ属(Rhinogobius sp.)を用いた感染実験が行われています(Urabe, 2001).一方,自然環境下での中間宿主については,第一中間宿主がカワニナであることが分子系統解析により確認されています(Urabe, 2013).しかし、第二中間宿主の報告は,自然環境下ではありません。先述したように、多くの魚類が報告されていますが、これらの魚は終宿主ではなく,3番目の中間宿主になっている可能性も示唆されています(Shimazu, 2007, 2015)。このように,G. goppoは,研究室内では発育に必要な中間宿主は判明していますが,自然環境下での中間宿主は第一中間宿主のカワニナしか分かっておらず,終宿主となる魚類の宿主範囲も定かではありません。


ヨシノボリの腸管に寄生していた吸虫(右が頭)

タイトルでは、Genarchopsis属吸虫としているのに、ここまでその中の1種のG. goppoの話しかしていません。Genarchopsis属吸虫には、G. goppoだけではなくG. fellicolaや琵琶湖固有のG. gigiなど5種ほどが日本で確認されています。これまで、G. goppoは日本全国に広く分布しており、分布域が西日本、中央日本、琵琶湖の3グループに分けられることが分子データで示されていました(Urabe,2013)。その後、この3つのグループのGenarchopsis属吸虫は形態的な違いがあることがわかりました。それによりG. goppo, G. chubuensis , G. gigi の3種でに分けられました(Shimazu, 2015)。

【参考文献】

Y. Ozaki, 1925. On the new species of trematodes, Genarchopsis, and a new species of Asymphylodora. Japanese Journal of Zoology; 1:101-108
T. Shimazu,2007. Digeneans (Trematoda) of Freshwater Fishes from Nagano Prefecture, Central Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A (Zoology), 33: 1–30.
T. Shimazu,2015. Digeneans Parasitic in Freshwater Fishes (Osteichthyes) of Japan. Ⅳ. Derogenidae. Bulletin of the National Science Museum. Series A, (Zoology) 41(2):77-103
M. Urabe, T. Nishimura, T. Shimazu, 2013. Taxonomic revision of three species of the genus Genarchopsis (Digenea: Hemiuroidae: Derogenidae) in Japan by molecular phylogenetic analyses. International Parasitology, 61: 554-560

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