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髪が短くても、ウィッグを求める子どものためにできることは?

「ヘアードネーションができるかどうかと、知っているかどうかは別の話。髪が短いからとか、男性だからとかそういうので諦めないで。」

Writer:本山 幸志郎

ヘアードネーションへのさらにライトな関わり方は?

「ヘアードネーションをしました」
というSNSの投稿を見たことがある方はいるだろうか。長く伸ばした髪を美容院でバッサリ切り、切った髪と一緒に写真を一緒に投稿されていることが多い。近年ではマスメディアに取り上げられることもありその認知が増えてきたおかげか、筆者の周りでも実際にヘアードネーションをする人が出てきた印象がある。

ヘアードネーションは簡単にいえば、小児がんや脱毛症などを患い頭髪を失った子どもたちに寄付された頭髪でウィッグを作り無償提供をする活動だ。賛同サロンと呼ばれるヘアードネーションの活動に共感した美容院でカットされることが安心感もあり利用される場合が多いが、たとえセルフカットでも規定の髪の長さや条件をクリアできれば寄付することができる。カットした後は、ウィッグ提供の取りまとめをしているNPOや企業に自身で郵送すれば完了となる仕組みだ。

肝心の髪の長さだが、フルウィッグを作るのに原則として31cm以上の長さが必要になる。髪の毛付きインナーキャップ作成用に15cm未満からの髪の毛を受け付けている団体もあり、31cmに満たない場合でもヘアードネーションに参加することは可能だ。一方でロングウィッグと言われる50cm以上の頭髪を利用して作るウィッグが、伸ばすこと自体が大変ということもあり寄付数が少ないという現状がある。

頭髪提供をする多くの人は髪を長く伸ばすことができる女性だ。もちろん男性もいるが、髪を長く伸ばした状態を保たないといけないので元から髪が長い人は良いが例え15cm未満からの長さでも「髪をいつもより伸ばしてまでヘアードネーションはしない...」と多くの人が考えるだろう。筆者自身もその内の一人であり、自分のヘアスタイルを無理に変えてまで活動に参加する必要はないと考えている。

ただ、現状として頭髪を失って困っている方がいる中で、髪が短く直接的にヘアードネーションに参加はできない人たちでもライトな関わり方でもできることはないか?ということを実際にヘアードネーションに参加された方や賛同サロンの方々にお伺いした。

周りに伝えることもヘアードネーションの活動

賛同サロンの一つで二子玉川にある55JET ai HAPPY MAKE HAIR 代表の當間さんは、約10年に渡ってヘアードネーションの活動に携わっている。多い時は1日で7〜8人もの人がヘアードネーションのために訪れるそうだ。

55JET ai HAPPY MAKE HAIR 代表 當間紀之さん

「坊主にすればできるかもしれませんが、それも極論で多くの男性はヘアードネーションをすることは難しいと思うんですよね。でもヘアードネーションを知っているかどうかは別の話で、実際に髪の毛を切って寄付するかしないかの前に、同じくらいにそのことを周りに伝えることはできる。

「例えば、長い髪の毛の子が周りにいて、『髪の毛を切ろうかな』なんて聞こえたら『ヘアードネーションっていうのがあるよ』って言ってあげるだけで、それはヘアードネーションの活動をしているのと同じなんですよね。だから髪が短いからとか男性だからとかそういうので諦めないで、心の隅のどこかに置いておいて、ふとしたタイミングで引き出してもらえたら嬉しい。

當間さんが優しく語るその答えは、「適切なタイミングで教えること」。情報発信を無理に頑張るのでもなく、ドネーションの価値や困っている子供達の現状を伝えるでもなく、然るべき時に選択肢の提示をする。「知っていればドネーションしたのに」という人が自分の周りで少なくなることがヘアードネーションに関わる人を増やす近道なのかもしれない。

周りに伝え、少しずつ広まる循環を生み出す

今回初めてヘアードネーションに参加される奥山大地さんが55JETで髪をカットされたので、どのような経緯で髪を伸ばされたのか伺った。

奥山大地さん(30代 / 初めてのヘアードネーション )

「元々髪を伸ばしていて、それを切ろうと思っていたので切るタイミングを探していたんですけど、たまたま学生時代の後輩がFacebookでヘアードネーションしたっていうのをあげていたのを見たんです。そこでドネーションするのに必要な髪の長さが31cm以上っていうのを知って、もう少し伸ばしてどうせ切るならその長さになったタイミングでドネーションをするという名目で髪を切るというのもアリだったのでそれがきっかけでした。」

奥山さんは直接的に言われていないものの、知人のSNS発信経由で少し伸ばしていた髪の毛をドネーションできる長さにまで伸ばそうと決意する。知人の人もドネーションをしている本人ではあるが、まさにその活動を周りに伝えることでドネーションに関わる人を増やしたと言える。

どうせ切るならそのついでに、という気持ちでヘアードネーションしようと思っていたのでハードルも全然なかったし、すごく気軽な感じでのドネーションでした。」

奥山さんの情報の受け取り方もすごく印象的だ。「困っている誰かのために」よりも「長い髪の毛を切るんだったらドネーションしよう」というライトな動機で始まっている。

そもそも現代の子供の世界で「頭髪を失う」という経験における辛さや苦しさに対して想像はできるものの当事者意識に至るまでは身内や知人に当事者がいない限りなかなか難しい。しかし当事者意識がないといけないということは全くなく、寄付活動に対して真面目な気持ちでやらないといけないとか、ヘアードネーションにあたって綺麗に丁寧に髪を伸ばさないといけないとか(もちろんできるに越したことはないが)考えすぎる必要はないのだ。

「ちょっと頑張ったらヘアードネーションできるからどうせならやろう」という気持ちで良く、ちょっと頑張ったらヘアードネーションできそうな人が周りにいたら一声教えてあげる。本人に無理がなく、その結果ウィッグを求める子どものためになる。そんな関わり方ができる人こそ増えたら良いなと思う。

「髪を切る前から周りにシェアをしていて、周りの人もきっかけがなくてやっていないだけでヘアードネーションを認識している人は増えているし多いというイメージはある。やるんだったらまた感想聞かせてよとか、それ次第で自分もやってみたいっていう人がたくさんいて、引き続き良いよというのをみんなにシェアしていきたい。

もう一人、2回目のヘアードネーションをされた長谷川良子さんにもドネーション後の発信についてお話を伺った。

長谷川良子さん(50代 / 3年前に初めてのヘアードネーション )

「発信をすることによって、初めて知ってくれる方たちの反響がすごく大きかった。それで、『私にもできるのかな』なんて広がっていければ良いかなと思っているのでまた今回もSNSを通じて発信をしていきたいなと思っています。」

実際にカットを終えた奥山さんも長谷川さんも、SNSを通じてヘアードネーションについて発信をする。発信でヘアードネーションを知って寄付した人が、自身で発信をし、また別の誰かに伝えていく。発信のバトンを繋ぎ続けることで活動は少しずつ広まっていく。

そしてこれこそどんな人でもヘアドネーションの活動として一番ライトにできることだ。「ドネーションしました」という他の人のSNS投稿をシェアするのも良いし、直接会って話をする機会のある人とふとした時に「ヘアードネーションっていうのがあるよ」って教えてあげるのでも良い。小さなコミュニケーションから巡り巡ってウィッグの作成に繋がっていくのだ。

ヘアードネーションをもっとありふれた普遍なものに

「ヘアードネーションが最も広まりやすいところはリアルのコミュニティです。学校とか会社とか。」

20年以上に渡ってヘアードネーションをサロンの中で関わり続けてきた當間さんはヘアードネーションという一般市民活動の理想をこう語る。

「これは実際にあった話なんだけど、学校で髪を伸ばしている男の子がいて。」

『○○くんもしかしてヘアードネーションするの?』
『うん、そうなの』
『隣のクラスの△△ちゃんもやったらしいよ。頑張ってね!』

「これが今の最新のドナースタイル。だから周りの人たちもみんな知っていて、髪の長い子がいたら『もしかしたらヘアードネーションなのかも』って思ってくれるようになった。これまでのメディアだとヘアードネーションって大変だってことばかり伝えられてきたけど、僕はそういうことを伝えたいんじゃなくてこのようにもっとみんなが知って応援するような文化であって欲しい。彼らにとってはこれが普通になっているんですよね。

「応援する」という小さなコミュニケーションがコミュニティの中で「当たり前」という文化を作っていく。「ヘアードネーションは大変だ」という偏った見方を変えてもっと気軽に関われる人が増えるためにも、「周りに伝え」「応援する」ことが私たちができる第一歩だ。

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ヘアードネーションに関する詳しい情報は、寄付された髪だけで作ったメディカル・ウィッグを頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもたちに無償提供している日本初のNPO法人・JHD&C(Japan Hair Donation & Charity)さんのサイトでご覧いただけます。賛同サロンの検索や髪の毛の送り方なども記載されています。

取材協力55JET ai HAPPY HAIR MAKE 當間紀之さん
JHD&C(Japan Hair Donation & Charity)
奥山大地さん
長谷川良子さん
制作
Producer: 仲渡春菜
Movie Director / Shooter / Editor / Writer : 本山幸志郎
Shooter: Alex

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