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将棋の持ち時間のはなし

強くなるために一番有効な持ち時間設定は?

 以前の記事で、実戦を指すときは1手1手ちゃんと考える、ということを書きました。しかし先日、時間を取って考えるよりも持ち時間の短い将棋をとにかく数をこなして指し続ける方が実力アップにはよいという配信者の方の声を聞きました。
 そこで今日は、この強くなるために理想的な持ち時間について改めて深く考えたいと思います。

持ち時間を取るより対局数をこなす方が大事という意見の根拠

 そもそも持ち時間が長い、短いの基準が曖昧なのですが、将棋倶楽部24で言ったら15分60秒以上、将棋ウォーズで言ったら10切れという感じでしょうか。ただし、私見だとウォーズの10切れは相当に短い時間設定です。考える時間を取るという観点からは到底十分とは言えません。
 そして、持ち時間が短くてもとにかく数をこなす方がよいという意見の根拠は概ね次のようなことでした。

1.まだ実力がついていない人は、時間を使って考えたところでいい手は浮かばないので、考えるだけ無駄
2.1局1局に時間をかけるよりも、持ち時間を少なく(考える時間を減らして)数をこなして局後の反省をすることで、ダメだった所を修正したり、相手との対局から手筋などを吸収していく方が効率が良い
3.大人になってから将棋を始めて、アマ全国クラス以上になった人はみなネット将棋(とくに将棋倶楽部24)を廃人のようにたくさん指していた時期がある

 これらの主張について私の私見を述べさせて頂きたいと思います。

実力アップには、短い持ち時間の方がよいのか?

 まず、一つ目のどうせ実力のない人は考えたところで、下手な手の候補から選ぶ結果になるだけだという主張についてみていきたいと思います。
 確かに一理あると思います。まだアマチュアの低段者くらいだと、良い手も浮かぶには浮かびますが、よくない手も多く考えてしまうので、指し手を選ぶ際に悪手を指す確率が高くなります。

 それに対して、プロとか奨励会員、アマチュアの高段クラスになるとそもそも有効な手しか浮かびません。どれを指しても1局の中で突き詰めてよい手を選んでいくので、持ち時間が長い方が圧倒的に実力を発揮できるのです。
 しかし、本当に実力のない人は考えても無駄なのでしょうか?
 私個人の意見としましては、時間を使えばちゃんといい手を選ぶだけの実力がある場合は、例え下手な考え休むに似たりと言われようとちゃんと時間を使って考えるべきだと思います。
 一番大事なのはその人の実力が一番発揮できる持ち時間、環境で指すことです。

数をこなすメリットだけ見る問題点

 次に2つ目の、少ない対局数で持ち時間を多くとるより、持ち時間を短くして数をこなすことで、局後の反省や対局中の相手の指し手からいい手を吸収していくというメリットの方が大きいという主張についてです。
 
 これは、対局相手が自分より大分強い人だったら言えると思います。1局から得られることが多いので、数をこなすメリットは大きいと言えるでしょう。局後に感想戦をしてくれる相手でしたら尚更そう言えると思います。
 しかし、相手が自分と同じくらいの実力の場合はどうでしょうか?
 

そもそも負けると感想戦をやる気が起きなくなる

 実力がどっこいどっこいの弱い者同士で、持ち時間を短くしてたいして考えもせずに指し続けても、1局1局から多く学べるかというと多少疑問です。
 特に、初手から並べることもままならない実力同士だと感想戦自体ままなりません。
 確かにネットだとAIによる振り返りもできますが、短い時間で対して考えもせずに指した将棋を、さらに負けて悔しさだけが残る状態で一人感想戦を行うというのは精神的にも厳しいはずです。
 大抵の人は、負けた対局など振り返りたくもないでしょう。むしろ、早く次の対局をして勝ってすっきりしたいと思う方が自然です。
 
 奨励会を経ている人たちは、負けて悔しくても振り返るということを習慣としてやっていたからできるというのもあるでしょう。
 一般のアマチュアの方であれば、短い時間の中で適当に指して負けた将棋を振り返るのはしんどいはずです。

 一方それが、持ち時間の長い将棋だと、自分でちゃんと考えて指した将棋というのがあるので、たとえ負けたとしても振り返ることが意外と苦もなくできてしまいます。

将棋実況者の強豪たちは切れ負けばかりやってるわけではない

 また、そもそも強豪たちはいつも10秒将棋や切れ負けばかりやってるわけではありません。
 例えば、元奨励会員の方ですと、奨励会時代に有段者の場合は90分で切れたら60秒の秒読み、級位者でも60分60秒というネット将棋やアマチュア大会に比べてとても長い持ち時間で将棋を指してきています。
 
 持ち時間の短い将棋ばかりやって早見え早指しが可能になったのではありません。むしろ真逆で奨励会時代長い持ち時間でたくさん手を読むという訓練をしてきているから3切れという短い持ち時間でもパッといい手が見えるのです。
 同じ元奨励会の方でも、持ち時間のベストは15分30秒という方もいます。だから、強い人が3切ればかり指しているのを見て、それだけで強くなれると思わないことです。 

実戦派の強豪もいることは事実

 3つ目の主張の、強豪の多くはネット将棋を廃人のようにたくさん指していた時期があるということについては、将棋倶楽部24は少なくとも早指しでも1手30秒は考えることができるので、将棋ウォーズのような超早指しではありません。30秒将棋であれば、ある程度考える時間は取れるので、問題はそれほど大きくはないと思います。
 
 私が今回指摘したいのはウォーズの切れ負けのような超早指しばかりをやる問題点についてであって、実際にもウォーズの3切れと10秒将棋しか指さずにアマ全国クラスまで行った人はいないと思います。

まとめ

 かくいう私も、最近将棋ウォーズではなく、81道場で指すようになって、本当に快適に指せると感じております。まず、指していて心に余裕が生まれるんですよね。そうやって、自分が気持ちよく指せることが一番大事であると思います。
 
 また、アマ竜王戦などアマチュア全国大会の持ち時間も大体15分30秒などが一般ですので、同じような持ち時間で指すことは、将来アマ大会に出てみたいと考えている人にとって、よいトレーニングにもなるでしょう。
 
 数をこなすメリットについては私も同意見です。ただ、持ち時間を長く取ってしまうと物理的に対局数をこなすことができなくなるという話です。
 そこで、81道場の10分30秒などの少し変則的な持ち時間で試してみるなど、自分なりに考える時間を取りながら対局数も確保できるように工夫していくのがよいでしょう。 

 以上のようなことから、持ち時間についての私個人の意見としては、10分なり15分なりの持ち時間があって、さらに秒読みも最低30秒は考えられる環境で指すのが一番よいのではないか、という結論になります。

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