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日記 5 舞茸おこわと督促状

 午前一時三十八分。シャツの胸ポケットにiPhoneを入れて、最大音量でannkwを聴きながら自転車を漕いだ。若林さんと春日さんが下積み時代の話をしている。「下積み」という言葉は好きだ。いつか高くなることを信じている言葉だから。セブンイレブンで舞茸おこわとuccの缶コーヒーを買って、飲み食い飲み食いしながら自転車漕ぎ漕ぎ。アメフトのユニフォームを着てただただぶつかり合うネタをやっていた話を聴く。家に帰ってきたらポストに国民健康保険の督促状が来ていた。ごめんなさい。払います。払いますけど、夢を追いかけているので払えません。少し待ってほしい。でも絶対待ってくれない。夢を追いかけているので払えません。その夢っていうのは、自分の書いた話を大勢の人、しかもとんでもなく大勢の人に見たり聴いたり読んだりしてもらって、「おもしろい」とか「感動した」とか「生きていてよかった」と喜んでもらうことです。しかも書く話はいつだって真実を貫いていて、何より、書いている本人が常にそこに喜びを見出しています。これが夢です。払えません。払いますけど。払いますけど、「払えないよ」と思いながら払っています。

 毎日、家を出る前、視界が歪むぐらいの音量でカネコアヤノさんの曲を聴きながらコーヒーを飲む。そして悔しくなる。カネコさんに対してではなく、なんか凄く大きなものに対して。怒りの音楽、怒りの文学。怒りをエネルギーにしてどこまで行けるんだろう。高校生の時、周りがJのPOPSばかりを聴いている中、俺はピーズやゆらゆら帝国を聴いてとても誇らしげだった。いいコになんかなるなよ、いいコになんかなるな。高円寺でハルさんを見た。高架下の向こうからハルさんが歩いてきて、俺は動けなくて、ただただハルさんを見つめ続けた。これはどういう種類の涙なんだろう、と思いながら、わけもわからず、俺は黙って泣きながら自転車を漕いだ。とにかく怒っていた十七歳は、今も怒っている。でも、笑っている奴に勝てない。それは「怒り」を創作のガソリンに用いることを罰されている気分で、とても苦しい。メルセデスベンツに軽油を満タンに入れている。それは壊れます。じゃあ、壊れていいから、壊れたこと笑えや。壊れた様を見て、見下して腹抱えて笑ってくれよ。クソが。笑えない。だって、自分の全てを片栗粉みたいにふわふわな物として扱うの嫌なんだもん。気難しくて我儘で頑固な奴だと思ってくれて構わんよ。でも、内臓ひっくり返るぐらい本当でありたいし、そうじゃなかったら呼吸の意味ないし。過程にも結果にも拘泥して。だから愛してくれとは言わんけど信じてほしい。

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