怒り尊んで踊って笑え

 新宿のタイムスでファイヤーダンス失敗とボウルに一杯のポテトサラダと落合のダッチワイフは悩んでいた。十七歳の時から脈脈と続く焦りと恐怖の日々を一度終わらせて、新しいスタートを切りたいという欲望。そのために三人の男がコントを考えている。

 デリケートを書いているとき、勝手に平八のモデルにした友人から電話がかかってきた。彼がいじめっ子のボスと付き合って、いじめていた相手に謝りに行かせた話は事実で、書かれたことが事実であるかどうかなんて本当にどうでもいいことなんだけど、あの話を初めて本人の口から直接聴いた時、視界が揺れるぐらいの衝撃で、相変わらずヤンキー上がりなのに独自の繊細さだなぁ、と思いながら電話で話した。だから題名を『デリケート』にしたんだった。繊細さだけが達成できる越境。俺は多分それによって人と結びつこうとする。良いか悪いかはわからない。半径三メートルをアクリルのカプセルで閉じていること。孤独のままたくさんの人に読んでもらいたい観てもらいたい、という願望は、矛盾を孕んで進むということだから、頑張らなきゃいけないんだな、といつも通りの帰結。怒り尊んで踊って笑え。そうして書け。と、思いながら毎日『誰かの日記』も、書いています。

 バンドのMVの脚本を担当して、撮影に同行した。午前四時に海に行って、家に帰ってきた時は朝で、へろへろで、如実に体力が落ちていることを実感した。小道具として使うために兄から原付を借りた。夜の高円寺を原付で疾走した。なんでこの街のことをこんなにずっと好きなんだろうと思った。それは連帯感というか、波長というのかわからないけど、この街だけは俺にとって近過ぎず遠過ぎず優しい気がする。『イエスタデイをうたって』を読み返そうと思って一巻を読んだらセンチメンタルがものすごくて、うわ俺大丈夫かな、と思った。相模大野に住んでいた時にずっと読んでいたから、どうしてもきつい。

 男が十人集まってフットサルをした。八幡山で。サッカー経験者が五人もいて、みんな上手だった。俺は高校の時の体操服上下を持って行ってそれに着替えた。もうへろへろで、途中ぺっちゃんが「ゲロ吐くゲロ吐く」と言いながら倒れたのに便乗して俺もぺっちゃんの横で寝た。ぺっちゃんは蝋人形ぐらい顔が真っ白になっていた。全員が「思い通りに動けなかった」と言った。思い通りに動けなかった。中学校の時ソフトテニス部で上から三番目か四番目ぐらいの強さだった俺は、この「三番目」とか「四番目」とかが猛烈に嫌で、三番目とか四番目って今思うと上の方なんだけどそれでも嫌で、そもそも順番があるということが本当に本当にショックで、高校生になったら音楽部に入ろうと思って、でももちろん、バンドにだって順番はあるし、というか生きてたらずっと順番は尾行してくるし、仕方ないんだけど、もちろん強くありたいですけど、なんか未だにずっとショックで、結構トラウマ的になってて、それで割とスポーツ全般が嫌いで、でも好きな人たちとやるフットサルは楽しかった。

 七個目のドキュメンタルを観た。手前にあるものからどんどん吐き出していってできた乱雑さ、と、理論を詰め込んでいたらできた混沌、というのは一見同じように見えてもその強度がきっと違うんだろうな、と思います。
ザコシさんが持っているのは後者で、ツッコミポイントが無数に有るものを一箇所に集中させることによってわけのわからないものができあがって、でも分解すると一個一個はわけがわかるから、ハチミツさんが「考えてもダメだし、考えなくても…」と言っていたように、縦横無尽に全方向をカバーしている最強のパッケージングだな、本当におもしろいな、と思いながら観ていました。
シーズン2で日村さんが「思ったことやれない場なんすねえ、ドキュメンタルは」というようなことを言っていて、十人のプロがストックを持ち込んでいる場においてそれはきっと本当にそうなんだろうなと思う。空間の支配率と、1ネタ1ネタの道筋。観てる人たちが「○○うざい!」とか言う対象は、その支配率が高い人ですねだいたい。
まずそもそも、「ちょっといいですか」と言い、持ち込んできたものをプレイするというだけで必然的に全体のガードは固くなるし、個人技でもあり団体技でもある空間だから、皆が必然的にこのあとの道筋をゴールまで思い浮かべてそれに向かって進んでいく中で、でも、それは予測できている道筋だから、それがフリになってしまって、そうするとプロの脳でも予測できていなかったことが起きるとそれが逸脱になってガードが疎かになっていた部位に入ってきておもしろい。だから皆が予測するゴールまで辿り着くことはほとんどない。全員がプロだから。
だからザブングル加藤さんの戦い方は無茶苦茶強いな、と思った。とりあえずスタートを切って、最低限の道筋だけ作って、ゴールを誰にもわからなくする。どうせゴールまで行くことはないから。それは全員。持ち込んできたネタがゴールまで辿り着く、ということは誰も笑わなかったということだから。小籔さんが「式だけしか持ってきてない」と言っていて、やっぱり式だけ持ってくるのはこの場においてものすごい正解というか、競技として捉えた時には本当に強くて、まあとにかくおもしろくておもしろくてめちゃくちゃ笑った。持ち込んできたものを入れ込むタイミング。誰かのターンの時に割り込むことも、可能ではあるけど、割り込んだということがノイズになる可能性はとても高い。気持ちの良くないぐちゃぐちゃ。誰かが技を出すときは受けなきゃいけないし、自分が技を出す時は全員が受けようとしてくれる。セックス。性交の類。本当に。
単独ライブで流した映像を見せる、というもうストロングもストロングの超ストロングスタイルで、「これ単独で流したやつなんですけど」と言ってガードが上がりまくってるところをそのまま真っ直ぐ叩きまくるあのサブリミナル効果の映像。震えたのでした。むしろ泣く。

 なんだか毎日わけもなくもやもやとしているけど、おもしろいものを作れたら良いなあ。完成したら観に来てください是非。


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