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出どころ不明の喜びたち

 友達の写真展を観に行った。

 ラジオに投稿していた時に、リプライをたくさん送ってくる人がいた。会ったことのない人。会ったことないのに、友達のようなリプライを送ってくる人。それを俺は失礼だと感じなかった。度々送られてくるその人からのリプライに返事をしているうちに、俺はこれはもう本当に友達かもしれないと思った。自分で映画を撮影することになったとき、現場に呼んだら来てくれた。高円寺駅で、「あ、どうも初めまして」というようなことを言ったらその人はゲラゲラ笑った。それがヨーコちゃんだ。

 それから数年が経って、別の映画の現場でさよぴーと西邑と会った。俺が脚本を担当した映画で、さよぴーはカメラマン、西邑は助監督だった。そしてまたしばらくの時間が過ぎ去って、俺は『東京オリンピックまでにどうにかしたい七個のこと』を撮った。ヨーコちゃんがスチールで、西邑が助監督で。

 別方向で友達だった三人が繋がって、写真展をやっているだけでなんだか謎にとても嬉しくて、俺は「うわ〜」と思いながら写真を見た。『生活の詩』と題された西邑の写真群の中に、喫茶店でうつ伏せに寝る俺の写真があった。良い意味でとても変な気持ちになった。自分がいると思ってなかったところに急に現れた自分の姿は、二秒ぐらい自分だと気付かなくて、その二秒間だけは完全な俯瞰が成立していた。置かれたメガネと水の入った二つのコップ。『生活の詩』と題されたところに自分がいるのは、俺も詩を含んで生きているんだな、生きていられてるんだな、と思えて、嬉しかった。そのことを西邑に伝えた。人がいっぱいいて忙しいだろうに、「せやねんせやねん」と、真剣に聞いてくれた。さよぴーに「あの写真はどうやって撮ったの?」と馬鹿みたいなことを聞いてしまって、失礼だったかもしれない、と思った。でも、聞けてよかった。ヨーコちゃんが撮った写真の中に、横を向いた青年の写真があった。視線の先には大きな銅像があるのかも知れないし、小さな一枚の絵画があるのかも知れない。何を見てるんだろうな、と、安易なことを思って、でもそれがずっと気になって、それは聞かないでおこうと思って、聞かないまま帰った。三人とも世界をあんな風に見ているんだな、ということが知れて、いや知ってたんだけど、なんかそれはいくら言葉で「私はこれが好きで、これが嫌いで」と言うよりも伝わるその浸透率?のようなものが高い気がする、と思った。そういう状態を作れている、そういう次元に立っていられる三人が凄いと思った。俺は自分の書いた文章を見てもらうのがきっと一番の自己紹介になる。三人の場合はそれが写真や映像だったりする。それは凄いことだと思うし、なぜか嬉しい。

 展示に行く前、昨日ぺっちゃんがくれたドーナッツを食べようと思って、皿たちが入っている引き出しを開けた。プリントされた二枚の写真が置いてあった。見覚えのないその写真は、俺が彼女と寝ている写真で、ぺっちゃんが撮ったものだった。俺はそれをマスキングテープでカーテンレールに貼った。ぺっちゃんは「どうせここ開けるやろ」と想像したに違いない。俺がその引き出しを開ける瞬間を。ぺっちゃんの中に、俺が引き出しを開ける瞬間を想像した時間が流れたことが嬉しかった。友よ。

 ゲームセンターでポテサラとストファイをして、とても楽しかった。今まさに俺とポテサラは五分の実力で、ポテサラはヒット確認をしてウルコンやスパコンを出せるし、起き攻めのタイミングもバッチリだし、これはもう「センス」としか言いようがなく、俺は逆にそういうフィジカル面は弱くて、しゃがみグラップとか、めくりとか仕込みの知識だけがある、というそのお互いの状態がちょうど五分。中足波動の仕込みを覚えたのに、実戦ではうまく使えず、対空昇竜もそんなに出ない。解説します。まず、「中足波動の仕込み」とは。格闘ゲームにはボタンが6つあります。弱パンチ、中パンチ、強パンチ、弱キック、中キック、強キック。この6つ。ストリートファイターを代表するキャラクター「リュウ」は、「波動拳」という、手からビームが出る技を使えます。そのコマンドは「↓↘︎→P」です。Pというのはパンチボタン。弱、中、強、どれを押しても出ます。じゃあ「強」押せばいいんじゃない?と思うかも知れませんが、ビームのスピードが弱中強で変わるのと、全体のフレーム数(秒数)が違います。要は、弱波動拳はビームのスピードが遅いけど、隙になる時間が短い。強波動拳はビームのスピードが速いけど、隙の時間が長い。ということです。このように、無茶苦茶緻密に作られています。「中足波動の仕込み」の「中足」とは、しゃがんで中キックボタンを押すことです。そのコマンドは「↓中K」です。「↓中K」を押したあとに、「↘︎→P」を押すことを、「中足波動の仕込み」と言います。しゃがみ中キックをやってそのあと波動拳をやることです。「↓K↘︎→P」ということです。しかしこのコマンドにはある特徴があります。しゃがみ中キックが相手に当たらなかった場合、波動拳は出ません。これが「仕込み」と言われる部分です。相手にしゃがみ中キックがヒット(orガードされても)した場合のみ、自動的に波動拳が凄い速いスピードで出ます。しゃがみ中キックがヒットさえすれば、波動拳も絶対に当たる、ということです。この「仕込み」というシステムは中足波動だけではなく、他にも色々あるっぽいです。しかしこれはゲームの説明書にも乗っていないし、公式サイトで発表されているシステムとかではなく、プレイヤーたちがプレイを重ねて見つけたシステムです。ストファイには、こういうのがめっちゃあります。おもしろいです。そうです。要は、「おもしろいよ」ってことを言いたかっただけなんです。おやすみなさい。

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