見出し画像

水泳をサボって一緒にホルンを吹こう

問題はあなたが無職だとか収入がないとかいうことではないのです。それは多分あなたもわかっている。問題はあなたが見るべきものを見ず、考えるべきことを考えていないことではないですか。それは卑怯なこと、という言い方が悪ければ、やさしさを欠いた振る舞いだとわたしは思います。嘘のない答えなどないとあなたは思っている。そして、だから問うまい、考えまいとする。わたしはそれが、それだけが我慢ならない。あなたのそれ以外の部分は今も大好きなのに。

 これは滝口悠生さんの『わたしの小春日和』という小説にあった文章。『寝相』という本に収録されています。凄すぎて、涙が出るよ、と思って、俺は赤いペンでここを囲った。その場に留まって一点を深く掘り下げることと、前や後ろに進んで事実を展開していくことのバランスを考えた。その両方を自分の好きな塩梅に調節できるというのはとんでもなく凄いというか、とんでもなく凄いことだ。

 梅雨が長いですね。もう終わってるのか終わってないのかもわからない。感電の記憶を聴きながら高円寺を歩いていた。『性的少女』を聴いて、ATMからお金を下ろした。四人が、音の原子レベルから揃っている。これは技術的な上手さというよりかはもう本当にこの四人でしか起こらない現象じゃないでしょうかと思った。それは技術というよりか、技術ではあるけど、四人が四人でいることに重心が置かれていることで、技術のようなものとは似てるようで実は全然違うことだと思う。

 恋人と喧嘩をして、台所の前に座って朝が来るまで話していた。そうしたら、初めて会った時のことを思い出した。この人は何も悪くないのに世界から傷つけられていることがどうしても許せなかった。被害者意識、という言葉が合ってるのかわからないけど、そういうものを隠してくれていて、それは本当に格好良かった。そこに俺が君を助けてあげるよ、みたいな思いがほんの少しでも入っていたら、いや、入っていたのかもしれないけど、なんか本当にただ許せなくて、そんなのはとても悲しいことだったから、能動的に動くことがほとんどない俺にとっては珍しく、ずっと関与したいと願ったし、関与し続けるために動いた。それは別に、ただ一緒にいて、あなたが笑うところとか幸せそうにしているところを見ないとどうしても世界を許すことができない、という本当に傲慢というか、俺は自分のことしか考えてないんですけど、なんか本当に許せなくて、笑ってくれと思っていた。そのことを思い出した。結果、俺ばかりが救われた気持ちになっている。それでも、それでも、と、思います。今では。

 クリスチャンボルタンスキーの展示を観に行った。閉館間際で人が少なかった。ここに永遠におりたいと思った。並んだ大量の電球を、十五分ぐらい突っ立ってただただ観ていた。そういうことをする自分にも驚いた。もう一回行こうと思った。千代田線の中で、開票速報を観ていた。イライラするニュースがとても多くて、イライラしていた。している。『クソみてえな世界だ』とツイートした。でも自暴自棄にもならないし、考えるのをやめたりもしないし、別にこれまでと同じように生きる。冷静に見て、クソみたいな世界だな、という、饅頭食べて「うん、甘い」というような感じだ。

 ユジク阿佐ヶ谷で『台北暮色』を観て、GIONでアイスティーを飲んでいたらポテサラとまなみんが来た。クネレルのサマーキャンプはおもしろいね、とかの話をして、今は書楽で『掃除婦のための手引書』を買ってきたよ、とか穂村さんの『絶叫委員会』も読もうかな、とかも話した。ユジクに行く前に近くの自販機でペットボトルのコーヒーを買って、百円ローソンでポケットティッシュを買っていた。鼻水がどんどん垂れるからだ。ポテサラとまなみんは手を振って駅に向かって帰った。俺は家に向かって自転車を漕いだ。

 クロネコヤマトのカードを置いたまま熊本に帰ってきたからレターパックで送ってほしい、と母から言われた。レターパックにクロネコヤマトのカードと俺が書いた小説を入れた。

慎ちゃん、読ませていただきました!
最初は、何?何?時間がわからなくて…でもーほんとよかった。ほんとに。なんか、あたたかくて、泣いたり、泣いたり、泣けたりしながら読みました。とくに31は、ドキドキがとまらなくて…簡単に言えないけど つらかったね の想いです。またそちらに言って話したいです。読んだばっかりで変なこと言ってるかも?です。

 と、LINEが来た。それはとても嬉しい感想だった。

夜中、雨の降る東高円寺をうろうろしながらハライチのターンをずっと聴く。二人の声。能力者のコーナーの「グッドナイトマム」の投稿おもしろかったな。そして光のゲートの話も。あと、バカリズムさんの『銀行弱盗』がめちゃくちゃおもしろくて笑った笑った。
https://youtu.be/GchTJ_87gIc


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?