総務部社内恋愛課特命係長鷺ノ宮惣一郎
「いつも階段から二車両離れたところで乗るんです。階段すぐは混んでますし、到着してもエスカレーターが近いから」
仲野は唐突に語り始めた。この新人は3分以上沈黙か続くと、文脈もお構いなしに喋り始める。
鷺ノ宮はスマホで報告を打ち込み続けているが、お構いなしだ。
「それで、一ヶ月ずっと同じ時間の電車だったんですけど、なんか変なんです。」
報告を打ち込み終わり、相槌を打つ。
「変って?」
興味を持ってもらえたのが嬉しいのか、仲野が身をのり出した。
「同じ人が居ないんですよ。車両の中の顔ぶれが毎回違うんです。少なくともここ一週間、意識して顔を覚えるようにしてからは一人もです。」
「それは確かにおかしいな。」
これには鷺ノ宮も舌を巻いた。仲野の記憶力が並外れているのはわかっていたが、満員電車でそこに気がつくとは。
頼もしいが、まだ真相を知られるわけにはいかない。
まずは既婚者にしてからだ。
(続く)
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