妻よ聞いてくれ~キン肉マンと私~

せっかく書いたのに妻が読んでくれなかったので。もったいないので公開します。

妻へ 

結婚生活に不満はないのです。
私には過ぎた妻であると常々思っているのです。
同じ漫画やテレビ番組を観て、月曜日には少年ジャンプの感想を言い合えるのはとても幸せなことです。

ただ、私がいくらおすすめしても手を出してくれないものがありますよね。
今まで観たことがなかったニチアサも、私が観ているうちに時々は一緒に観てくれるようになった。そんな懐の深いあなたが判断したことなので、ごり押ししても無駄だということは承知しています。
いくら私が魅力を語っても、「あなたが早口で喋りかけてきた時は相手をしないことに決めている。」と、まともに聞いてくれないのもしょうがないことだと思っています。

でも、あなたと出会う前の私が何故、それを愛するようになったか。その背景には何があるのか。わりと歳いってから出会った我々です。子供時代のことや大学時代のこと、出会う前のことを知りたい。知ってもらいたい。共有したい。なかなか見せてはくれないけれど、私がしつこくあなたの卒業アルバムを見たがるのと根っこは同じです。
口頭ではダメでも、文章にすれば読んでくれるかもしれない。そんな期待を込めて。
妻よ聞いてくれ。何故、私はキン肉マンが好きなのか。

出会い

キン肉マンは1979年から1987年まで週刊少年ジャンプで連載されていました。
つまり、私が物心つく前にもう終わっていたということになります。
では、どうやってキン肉マンと出会ったのか。友達の兄貴が持ってた単行本?それともアニメの再放送?

いいえ。出会いは日本ではありませんでした。
1995年、日本でいろいろと大事件が起こったその年、私はフランスのパリにいました。

当時私は小学生、父親の仕事に家族でついていった形になります。せめて高校生であればルーブル美術館やら本場のフランス料理やら、いろいろと楽しめたかと思います。
でも、小学校低学年の私はカクレンジャーやドラゴンボールが観られない、その事だけでもうフランスが嫌で嫌でしょうがありませんでした。芸術や歴史を楽しめるだけの教養もなく、バターの風味が強すぎるのも苦手でしたので。

現地で暮らし始めるとそれはそれで楽しめはしましたが、フランス語ができなかったのでとにかく娯楽がない。
ドラゴンボールのアニメはフランスでもやっていましたが当然フランス語吹き替え。しかも日本ではセルが完全体になっている頃合いだというのに、フリーザ様はまだ丸いあの乗り物?に乗っていました。

そんな中、親に連れていってもらった在仏日本人の集会所のような建物にあったのです。キン肉マンが。1巻から。
最終巻まではありませんでした。サタンクロスの正体がサムソンティーチャーだということは強く印象に残っているので、多分そのくらいまで。

貪るように読みました。それはもう。砂漠でオアシスを見つけたかのように。当時は台詞もほぼすべて覚えていたんじゃないかと思います。

魅力

さて、他にほぼ娯楽が無い中で出会ったキン肉マンでしたが、さすが名作。そんなこと関係なく、小学校低学年男子に刺さりまくりました。当時の自分が感じていたキン肉マンの魅力を言語化してみます。

1. キン肉スグルという主人公

物語のスタート時、キン肉マンは天涯孤独の落ちこぼれ超人(ウルトラマンのような、超常的な力をもつ存在の総称)として描写されます。怪獣に負けたり、強い怪獣には戦う前からビビって逃げ出したり。ヒーローとしての優しさはしっかりと根っこに持ちながらも、性格は臆病でわがままでいい加減で調子のりで、見栄をはって嘘をついてしまうこともあって。
文字通りダメ超人です。世間からバカにされている彼が、様々な出会いを経てやるときはやる男になっていくのですが、そんな欠点は薄まることはあれど最後まで無くなることはありません。

大人から見ると、お前この前のシリーズであんなに格好よかったのにまたそんなダメなやつに戻ってるのか、キャラ一貫してないじゃないか!と思ってしまうところです。
でも、子供ってそんなもんなんですよね。一貫したポリシーとか、確固たる自分なんかまだ育っていない。ついその場しのぎの嘘をついてしまったり、三日坊主で続かなかったり。
だから、子供にとってはとても感情移入しやすい。体はムッキムキの大人なのに。でも、友達になれそうというか。天涯孤独というところも、言葉の通じない異国にやってきた自分の状況と重ね合わせていたのかもしれません。

2.ギャグ

特に初期はギャグ漫画のテイストが濃いのですが、そもそも変な顔のムキムキな男がパンツ一丁で普通に町を歩いてるだけでもう面白い。
そしてキン肉マンが結構頻繁にお漏らしする。敵にビビって小も大も。うんこ、おしっこ。鉄板ですね。それの何が面白いんだと思うでしょうが、子供なんてそういう生き物です。少なくとも私はそうでした。

あとは、なんかシュールなんですよね。唐突にギャグが差し込まれて本編の流れがぶったぎられることもあったり。大人になった今読み返すと私でも困惑するくらいなのですが、当時はその説明のなさがストンとはまって、唐突だとも思っていませんでした。まだ論理よりも直感で生きていたということなのかもしれません。

3.読めないシビアな展開

さて、初期はギャグ色の強かったキン肉マンでしたが、徐々にバトル漫画にシフトしていきます。決定的なターニングポイントは7人の悪魔超人編。
それまで超人オリンピックなど、バトルではあっても基本的には競技の側面が強かった(でも死人はでる)のですが、ここからは悪魔超人という外敵との生存競争の様相を呈してきます。こっからが凄い。

7人の悪魔超人(人間を遥かに越えた能力を悪いことに使うやつら)が超人オリンピックのV2チャンプとなったキン肉マンに挑んで来るわけですが、2人抜きを果たしたところで連戦のダメージでキン肉マンは戦えなくなります。シビア!!
しかし、物語のスタート時点では一人ぼっちの落ちこぼれ超人だったキン肉マンにも、親友のテリーマンをはじめとした心強い仲間やライバル達が。5人の正義超人が助けに来て、キン肉マン抜きで悪魔超人と5対5の団体戦となります。

で、3人死にます。もう一度言います。5人助けに来て3人死にます。
それも実力トップ2のウォーズマンとロビンマスクが!ウルフマンに至っては体をバラバラにされます。文字通りバラバラです。敗北どころか、死にます。
これまでも超人オリンピックでラーメンマンがウォーズマンにベアークローで脳をえぐられて植物人間になってしまうなど、戦いの恐ろしさは描かれていました。それがここで決定的になったといっていいでしょう※。
※でも、何だかんだ次のシリーズでは平然と生き返ってたりします。

初期のギャグ編からの積み重ねで、キン肉スグルという男に感情移入しているとめちゃくちゃ怖い訳です。それでも戦わなければならない。7人の悪魔超人編は序盤も序盤ですが、以降もそういう展開が続きます。
タッグトーナメント編では超人達が好きな相手とタッグを組んでトーナメント形式で戦うのですが、敵の策略により仲間達の間に亀裂が入り、親友のテリーマンも別の超人とタッグを組んでしまったりします。
またも孤立無援!!シビアすぎる・・。
この辺は大人でも楽しめる要素かと思います。

4.実は怖い漫画

先程怖いと書きましたが、当時の私がキン肉マンに持っていた印象の一つが、「怖い漫画」でした。まず、描写がグロい。先に挙げたように、ラーメンマンが植物人間になってしまったり、ウルフマンがバラバラにされてしまったり。他にも胴体を引きちぎられたり腕をもがれたり※。
※でも、何だかんだ次のシリーズでは(略

ツッコミどころが多いのでネタ的な扱いもされていたりする漫画ですが、大人ではいやいやそうはならんやろとツッコむところも、子供にはその不条理に抗う手段がなく、ただ恐怖として感じられました。
例えば、キン肉マンがスニゲーターという悪魔超人と戦った時。キン肉マンが勝利を収めるのですが、直後倒れます。そして、死にます。戦いで重篤なダメージをおっていて、相討ちに近い形になったとかではなく、突然。
敗北したスニゲーターが呪い的な力でキン肉マンを道連れにして死んだと説明が入りますが、いやいやあれだけ頑張って戦ってなんとか勝ったのに、こんな簡単に道連れにされるのかと。努力が簡単に無にされるその理不尽にとても恐怖したのを覚えています※。
※その後、ウルフマンが自分の命をキン肉マンに与えてくれたのでキン肉マンは復活します。
※でも、何だかんだ(略

他にも、タッグトーナメント編ではこれまで築き上げてきた仲間との絆がぽっと出の呪いの人形によって奪われてしまったり。とにかく理不尽。
そして、キン肉マン達はこの手の呪いじみた攻撃に対し基本的に対抗手段を持ちません。超人でありつつも、その点ではホラー映画で幽霊に教われる一般人と変わらない、不条理に翻弄される存在であるわけです。

5.それを打破する熱い展開

しかし、我らがヒーローであるキン肉マンとその仲間達は当然、翻弄されっぱなしでは終わりません。理不尽を打破してこそのヒーロー。そこにこそ読者は心を震わせる訳です。

例えば、よくネタにされがちなウォーズマンVSバッファローマン。
キン肉マン世界には超人の持つパワーの尺度として超人強度というものがあり、ウォーズマンは仲間の中で最高の100万。対してバッファローマンは1000万。超人強度は生まれながらに決まっており、訓練等では増やすことができず通常は生涯変化しません。
絶望的ですが、その差を覆すためにウォーズマンが用いたのがあの有名な計算式です。
ウォーズマンはベアークローという拳から突き出た針を武器としています。私が握りこぶしの指の間にポッキーを挟んで食べていたのを覚えてますでしょうか。あれです。
そして、そのベアークローをつき出しながらきりもみ回転で相手に飛び込んでいくのがスクリュードライバーという必殺技です。以下に計算式を示します。

両手のベアークローを使うことにより2倍の200マンパワー!→
いつもの2倍のジャンプでさらに2倍の400万パワー!!→
いつもの3倍の回転でさらに三倍の1200万パワー!!!!

これでバッファローマンの1000万パワーを一時的に上回ることができる!
ええ、言いたいことはわかります。でも、掛け算に間違いは無いですよね?論理的に何ら間違っていない!
少なくとも、友達とビームを打ち合い、バリアで跳ね返す遊びをしている小学生的には!自分達が遊びの中で、「両手で撃つからビームの威力が2倍になってバリアも突き抜ける」とか言ってるのと同じステージで、しかし掛け算をさらに2回重ねるという2歩先のことをしてくる訳です。
子供心にはめちゃくちゃ熱い展開でした。

他にも、7人の悪魔超人編の5対5の戦いでの最終戦、テリーマン対ザ・魔雲天。1勝はするものの、3人の仲間達が次々と敗れたという状況で、テリーマンが辛くも勝利をおさめます。
しかし魔雲天が最後の悪あがきにテリーマンを道連れに崖から落下。両者行方不明となります。テリーマンまで失ってしまったとうなだれるキン肉マンに近づく足音・・。ボロボロのテリーマンが微笑んで、「ただいま、キン肉マン」。大人になった今読んでも最高です。
シビアで怖くて理不尽であるからこそ、熱い展開が心にとても響くのです。


というわけで、当時の私が夢中になったキン肉マンの魅力。ご理解いただけたでしょうか。
しかし、キン肉マンは思い出の中だけの存在ではないのです。

そして現在

そして今、キン肉マンが熱い!ええ今です。今こそ熱いのです。
1987年の連載終了から24年経った2011年に続編がスタート。現在もWebで連載中です。
というか、もう9年も経ってるのか・・。9年も、今が一番熱い!って言い続けてたのか・・。
書いててちょっと衝撃を受けましたが、それほど面白いということです。
かつての連載では特に省みられることのなかった設定が伏線として立ち上がってくる感動。一貫性が与えられて大人心にも格好いいキャラクター達。かつて子供心に妄想した展開が実現する衝撃※。
※特殊能力バトル漫画とかで、序盤に出てきた敵の能力。序盤だからさくっとやられたけど実は最強なんじゃない?ってあれ

子供時代に最高だったものが、大人向けにアップデートされてなお最高!懲りずにおすすめするのもわかっていただけたかと思います。

ただし、これは子供のころにキン肉マンを読んで大きくなった大人達へのボーナスのようなもの。
少なくとも、世界の命運をかけた戦いなのに何でリングつくってプロレスで戦いを決めんの?とか、何でいちいち観客を入れんの?とかそのレベルではもう突っ込まないくらいに教育されていないときつい。恐らくあなたもその辺りで引っ掛かってしまっているのではないのでしょうか。

ええ、わかっているのです。なかなかお勧めしがたいということは。
しかし、それでも語らずにもいられないということも、ここまで読んでもらえたならば理解していただけたのでは無いでしょうか。
というわけで、KINマーク刺繍ニットシャツ買ってもいいでしょうか・・。

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