僕のグレイトジャーニー

 「2019/2/14 長かったフィールドワークも今日で最後。教授に無理やり連れてこられた場所だったけど、やっと仲良くなれた村人たちと離れるのは寂しい。ミゲウの、今度いつ会えるかという無邪気な質問が辛い。学生生活の約半分が海外生活。失ったものも大きかったけど、得るものもあった。
全ての人に感謝を!さよならアマゾン。」
 「2019/6/30 地に足がついた生活って最高!やっぱり、根無し草だとなかなか深い付き合いってできないもんだよね。転勤のない会社でホント良かった!なんか生まれ変わった気分。都会最高!」

 ポン、と佐藤真里はスマホをソファに投げた。
 「で、生まれ変わった町田先輩が何の用なんですか?」
 「なんでそれまだ見れるんだよ。どっちもすぐに恥ずかしくなって消したのに。」
 「すぐ消すと思って、魚拓とっておきました。研究室の飲み会ではいつもこれで盛り上がってます。」
 佐藤は一つ後輩で、企業に就職した俺と違って博士に進学予定。今や研究室歴は誰よりも長く、女帝として君臨している。
 「なんで酒の肴にしてるんだよ。それで、先生は?」
 「昨日、突然モンゴルに行きました。しばらく連絡は取れないそうです。」
 「またか。まあ、そんな気はしてたけど。」

 研究室の窓の外を見やる。ちょっとした広場。樹齢ウン十年の木々が並ぶ。その中のひときわ大きな一本の、根っこに腰掛けているのは。
 「なあ、佐藤。あいつ見える?」
 「あいつ?誰もいませんけど。」

 やはり、俺以外には見えていない。身長は50cm位、バナナの葉で作ったような腰蓑に、アイヌに似た文様のカーディガンを羽織った朧な輪郭を。
 「なんだか、連れてきちゃったみたいなんだよ。どこからなのかわからないけど。寝てると枕元でなにかをブツブツ言ってくるんだよ。」
 「またですか、前もそんなこと言って、現地のシャーマンに祈祷してもらってたじゃないですか。」

【続く】

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