『化身少女』第三話


瑠々「昂輝、起きて? 昂輝?」
昂輝「んん……。もう少し寝かせて」
瑠々「もう、休みの日だからって、自堕落すぎるぞ」

瑠々は昂輝の布団に入り込む。
そのまま昂輝の胸元に顔を埋め、視線をやや上に向ける。

瑠々「ほら、起きて」
昂輝「瑠々……」

自然と昂輝は瑠々を抱きしめ……。

昂輝「いや、待て、なぜ布団に入り込んだ?」

瑠々「ちっ。素直に抱いておけばいいのに」「男同士にしろ既成事実は既成事実だからね」
昂輝「怖い!」「瑠々、そんなアグレッシブじゃなかったじゃん!」
瑠々「ライバル出現を見て『早く靡いてよぉ』とか悠長なこと言ってられなくなったの」「本気で落としに行く」「そのためにこんな格好もしたし」

言って、瑠々はすくりをその身を起こす。
瑠々が身に纏うは白いレースのあしらわれたサテン生地のネグリジェ。
それは瑠々の細くしなやかな四肢と、そこに浮かぶ白に美しく映えていた。

そんな瑠々の本気な態度に、昂輝はただただ唾を飲み込むしかなかった。

昂輝(いよいよもって貞操観念破壊される)

アリア「ちなみに、私もお揃いにしてみたけどどうかな?」

アリアがドアから顔を覗かせる。
瑠々と同じ格好をしているものの、その胸には瑠々にない膨らみがあり、その四肢には瑠々にない柔らかなラインがあった。

瑠々「なんで一緒に……」
昂輝「あびゃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!(かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!)」
アリア「あはは」「大げさだなあ」「でも、こういう現代チックなもの着るのは新鮮だなあ」
瑠々「昂輝? 一緒に逝こ?」
昂輝「ごめんて!」「でも、俺もよくわからんくらい勝手に脳と体が反応してしまって……」
瑠々「それってさあ! 運命の人ってことなのかな!」「アリアちゃんが昂輝がずっと言ってた運命の人だから、こんなにも昂輝は反応しちゃうのかあな!?」「だとしたら私はその運命をぶち壊すしかないのかなあ!?」「誰かにヤられる前に私がヤるしかないのかなあ!?」

瑠々に襟元を掴まれ、そのままがくがくと揺らされる昂輝の頭部。

昂輝「待って! そんな揺らされると吐く! 吐くぅ!」


朝のひと悶着の後、昂輝とアリア、瑠々は一緒に共同生活を送るための買い出しに出ていた。
瑠々はアリアに昂輝をとられまいと、両腕で昂輝の左腕に抱き着き、アリアを威嚇するような目を向けている。

アリア「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」「私はあくまで化身で、一時的に昂輝君の傍にいるだけなんだし」「それよりも瑠々ちゃんと仲良くしたいかなー」
瑠々「でも昂輝が好きっていってるんだもん」「もしアリアちゃんが靡いたらそこで終わりだもん!」「私の恋もこれまでのすべてが終わりだもん!!」
アリア「うーん、私はだぶん大丈夫だよ?」

アリアはやや意味深な言葉を瑠々に投げる。
その意味深さを瑠々が逡巡する前に、とある人影が現れる。

アリア「あ、ゼータちゃん?」
ゼータ「お、アリアに昂輝じゃん」

アリアの声に反応して昂輝が視線を向けた先にはアリアの倒したはずのゼータがいた。
昂輝はつい先日の木星最接近を思い出し顔を強張らせる。

瑠々「ねね、昂輝、誰あの人?」
昂輝「つい先日、アリアさんに倒された人」
瑠々「あ、あの動画の中で爆散してた?」
昂輝「そうそう」

ゼータは三人に歩み寄る。
服装は前回のそれとは異なり、現代的な高校生らしい私服となっている。

昂輝は危機が迫った過去を思い出し身構えるが、アリアは自然体でゼータを迎える。

アリア「ゼータちゃんも買い物ですか?」
ゼータ「ああ」「以前来たときは野原しかなかったけど、なんかすごい栄えたな」

ゼータの手には複数の買い物バッグ。
いわゆる戦利品がひしめいていた。

アリア「昂輝君、大丈夫だよ」「ゼータちゃんはもう負け確したからこれ以上は何もできないし」

アリアは笑顔で昂輝を見る。

昂輝「そ、そうなの? ほんとに?」

ゼータは肯定するように頷く。

ゼータ「決定戦脱落者は基本的に観測者という立場に変わるんだよ」「私はこのまま地球にいて、戦いの行く末を見届けることになる」「アリアと一輝の運命、私がしかと見届けてやるよ」
アリア「ゼータちゃん、カッコいい」「それで何を買ったの?」
ゼータ「まずはこれだな……」

まるで現代的な地球人女子高生のようなキラキラした会話を繰り広げた後、ゼータはキリッと顔を引き締め

ゼータ「というわけで、また近いうち会うだろ」

と言って、ひらひらと後ろ手を振りながら去っていった。


一通り買い物を終えた三人は昂輝の家に戻る。

リビングに入ると、ゼータがソファに座りながらまるで我が家のように当たり前にテレビを見ながらくつろいでいた。

ゼータ「遅かったな」「このポテトチップスっていうの、初めて食べたけどなかなかうまいな」
昂輝「いや、なんで?」
ゼータ「だって、ゼータは木星の化身だからこの地球に居住場所なんて持ってないぞ?」

ゼータは小首を傾げる。

昂輝「木星に帰ればいいのでは?」
ゼータ「ははっ、帰るわけないだろ」
昂輝「どうし……」
ゼータ「木星はな、寂しいんだ」

怒られてしまった大型犬のようにシュンとするゼータ。

ゼータ「地球はアリアもいるし、人間だっている。動物だってより取り見取りだ」「でもな、木星には何もないんだ」「なーんにも……」
アリア「でも、その何もない感じが良いって前言ってたじゃん?」
昂輝「それならなおさら……」
ゼータ「それはお前、あれだよ、強がりだよ」「一人で鍛錬しててもただただ辛い」「一人で虚空に向かって放つ技の虚しさ、知らないだろ?」「一度苛烈天球やってみたけど、すっごい虚しかった」「なんでこんな虚しい星をもう一つ生み出してしまったんだろって」
アリア「うーん、まあたしかにそれはわからないかな」
昂輝(あー、だからすぐにアリアさんのとこに来たのか)(寂しかったんだな)

昂輝は納得したように頷く。

昂輝「まあでも、それとこれとは別で……」

瑠々の感情をこれ以上刺激したくない昂輝は、ゼータにやんわりと家を出るように促そうとした。

ゼータ「もしかして……駄目だったか?」

そんな昂輝の意図を感じ取ったのか、瞳を潤ませ、下唇を噛み締めるゼータ。
まだ家を追い出されたわけでもないのに、既に捨てられた大型犬のような顔になる彼女。

昂輝「あー」

昂輝はガシガシと後頭部を掻く。

昂輝「いや、幸いうちの親は海外赴任でいなくて部屋は余ってるから、ゼータちゃんも住んで大丈夫だよ」「その方がアリアさんも嬉しいだろうし」
ゼータ「ほんとか⁉ ありがとう昂輝!」
昂輝「んぐおっ!」

昂輝に抱き着くゼータ。
自身も大きい彼女のハグにバランスを崩してしまい、近くにあったソファへと倒れ込む。
そのままゼータの大きな二つの膨らみが昂輝の顔へとのしかかる。
しかし、そんなことに気づかないゼータは嬉しさを爆発させながら昂輝をハグし続ける。
抵抗するがのけることができない昂輝

瑠々「ゼータちゃん? って言ったかな? 昂輝が死んじゃうよ?」
ゼータ「あ、すまんすまん」
昂輝「んぶはあ!」

瑠々の声掛けで無事生還できた昂輝は大きく息を吸い込んだ。

昂輝「……ありがと、瑠々」
瑠々「んっ。どういたしました」

ゼータから解放された昂輝に優しい笑みを向ける瑠々。

昂輝(ゼータちゃん相手には怒らないのか?)

瑠々「昂輝って優しいよね」
昂輝「ん?」
瑠々「私がいくら身勝手に振舞っても怒らないし、今だって、自分の命がどうなるかわからないのに人の心配してる」「そんな優しい昂輝が大好きなんだ」
昂輝「瑠々……」
瑠々「だからね、ゼータちゃんも一緒に住むことは許すけど、一瞬でも色目使ったら寝首かくからね」
昂輝「もちろんだよぉ」

昂輝はこれからの日々を思い、ただただ冷や汗を流すことしかできなかった。


同日。
夜。

空から二つの光が落ちてくる。
それはそれぞれ青と赤に煌めいていた。

メト「きゃはっ。久しぶりの地球、楽しみだね。ヘルちゃん」
ヘル「だね、メトちゃん」

仲睦まじく手をつなぐ少女二人は好戦的な光をその瞳に灯しながら、静かに昂輝とアリアの住む街へと溶け込んでいった。

#創作大賞2024
#漫画原作部門

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