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ただひたすらに清らかで美しい音楽

つれづれ音楽雑感 第20回


今回の音楽はモーリス・ラベル作曲の

亡き王女のためのパバーヌ です。

西洋音楽だけど、どこか東洋的な神秘を感じさせます。

西洋音楽の最高峰はもちろん、ベートーヴェンと思いますけど
ベートーヴェンの到達した高みは以降の作曲家には、とてつもなく高い壁として立ちはだかったように感じます。

でも、この曲は全く異なる美しさを湛えています。

今、フランス音楽といえばラベル
を筆頭に思いつきますが、
なかなか音楽界の重鎮たちに評価されなかったのです。

しかし彼は自分の音楽を追求し続けます。
彼にとって音楽は、人生の意味と繋がるものだったと思います。

ベートーヴェンの音楽にはあらゆる要素があります。

もちろん 優しい憩い、安らぎも

しかし、それはとどまることを許されないもの
神の御心に沿った使命を果たすために、
あるべき秩序にむけ
強い意志をもち、前進し続け、
ついには勝利を得なければ
永遠の祝福には至らない。
厳しさと強さを求められます。

亡き王女のためのパバーヌ の世界は違います。

人間の賢しらな意図など、
一切、通用しない無常の安らぎの世界

もはや、あらゆる執着や捕らわれなど、なにもかも霧消する
涅槃の世界のような 東洋的な感じを受けます。

彼は、自身の劣等を意識した作曲家だった 
勝手に想像します。

劣等感こそが、彼に美を追求させたのかもしれない。

”プロポーズした女性に低身長を笑われた” 
的なエピソードを読んだ記憶が・・・

彼は生涯独身でしたが、自身の作品に強いこだわりを持ち
楽譜は一切の解釈の自由を演奏家に与えないほどだそうです。

それが、結果的に
作為を否定するかのような無常の安らぎ
表現するのは皮肉だたと感じます。

ルーブル美術館でスペインの亡き王女の絵を観た時

自分の幸福だった子供時代を重ねて
美しいい音楽を創造したい衝動が生まれたのでしょうか。

母が歌ってくれたスペインのバスク地方の子守歌
音楽へ導いてくれた父
と繋がるような
安らかで、憩いしかない
完全な美の世界
をラベルは表現したかったのでしょうか

そして結実したこの作品は

ただひたすらに清らかで美しい世界 

ベートーヴェンの音楽とはある意味正反対の美

力強く何かを貫く、強さと勇気を奮い起こすことはなく

だれにでも分け隔てなく美しい、永遠の安らぎの世界、

古風な表現を借用したことで
もはや失われた過去
でも時空を超えても
失われることなく存在する
無常感や普遍の美が立ち現れた。

ラベルにも
今、聞いている僕たちにも

 ”幸福で美しかった彼の子供時代“ の思い出のような
彼の永遠の憧れ、理想の世界。

確かに、この上なく美しい音楽がある。

もはや、西洋音楽の枠など無意味になる。

最晩年に、この曲が ”自分の作曲” 
とすら分からなくなる病気になり

「美しい曲だね。これは誰の曲だい?」
と尋ねたと伝えられています。

あまりにも悲劇的です。

でも、自身の曲が彼の心に
つかのまでも、安らぎを与えたのなら
救われる思いです。

ラベルのパリ音楽院時代(初期の傑作)と言われるピアノ曲


管弦楽の魔術師と呼ばれたラベルの管弦楽版もあります。(1910年)


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