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ミヤコとロイホ

6歳の長男が、とある番組を見てからロイヤルホストに行きたいという。一番近いロイホに行くには車で3時間強。はい行こう!と言える距離ではない。
ロイヤルホストの名を聞いて、ふと、思い出した。親友・ミヤコの言葉を。

ミヤコは、いつも大切なことを教えてくれた。
スーパーのレジ打ちは忍耐作業であり、段々と笑顔でこなせるようになること、自分に敵意を向けてくる人とは無理に仲良くしなくてもいいということ、どんなに面倒でも口紅だけは必ず塗ること。

そして、綺麗な言葉を使うこと。

15年にもなるミヤコとの時間の中で、彼女の言葉が誰かを傷つけているのを見たことがない。

彼女が話し始めるときはいつも、コーヒーにのせられたマシュマロが思い浮かんだ。ミヤコの言葉はふわりと溶けて、じんわり心にしみてくる。



「わたし、家出るん、専門学校行くわ」
18のとき、ミヤコが言った。
頭の中でベートーベンがジャジャジャジャーンを弾いた。
ジャジャジャジャーンをどこかで耳にするたび未だにモヤッとするのはあの日の衝撃を忘れられていないから、ってショパンにクリソツな友人が言ってた。


それから何年かしてミヤコに会いに行った。
地元とは違う人の多さに
「今日祭りなん?」
と聞くわたしにミヤコは少し笑って
「都会やからやよ」
って教えてくれた。

22才にして、人生初のロイホに行った。
ロイホのことをロイヤルホテルだと思っていたわたしにミヤコは
「ほんまはロイヤルホストやけど、おもしろいからそれでもいいよ」
って言ってくれた。

4年ぶりに会う彼女とたくさん話をした。一人暮らしのこと、ややこしすぎる梅田駅のこと、電車の中で知らないおばちゃんに痩せすぎやから太りなさいって言われたこと。

経験値を積んだ彼女の言葉は以前より綺麗さを増し、逞しさをそなえていた。

ミヤコのようになりたくて、ミヤコのように話がしたくて、わたしも綺麗な言葉を使おう。とロイホで決意した。
そんな出来事を、思い出した。


この春からは、綺麗な言葉を使おう。そのためにたくさん本を読んで言葉の貯金をしなければ。

けれども、本は本でも古典はだめだ。わたしに古典はまだ早い。
隙あらば少しでも賢いと思われたいわたしは野山に混じりて竹を取りつつよろづのことに使い出すだろうし、今春のあけぼのはすごいですね!とか言い出すだろうから。

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