家出をした昨日のこと

最近のわたしと言えば、長男のネットフリックスと次男のあんぱんまんに阻まれてWBCをみる隙もなく、
タイ国民よりも微笑んでいたはずの次男に訪れた魔の2歳児期が遅れた分だけ純度を増していて毎日聞かされる泣き声にすっかり、しっかり、げっそりしていた。

そんなわたしは昨日、1時間の家出をした。
覚えてる限りでは結婚して初めての家出だった。

家出の理由は、久しぶりに会えたトトサンの何気ない一言に腹が立ったから。


「じゃあトトサンが子育てしたら!」


とキレ、レタスをシンクに投げ、親友ミヤコにもらったアイシャドウパレットで練習していたメイクを丁寧に落とし、家を出た。

ふんふんと鼻息荒く家を出たものの、マスカラを落としている時点で怒りは7割減だった。

だけど、普段から子どもたちに
「食べ物を粗末にしてはいけない。全部命があるんだよ」
と言っているわたしがレタスを投げた手前、なんとなくひくにひけなくなってしまったのだ。

車のエンジンをかけ、家を出たはいいもののどこへ行こうか。
実家までは少し距離がある。

実家へ向かう道を左折せずに直進し、実家より近い義実家の向かいにあるコンビニに車をとめた。



今晩は義実家に泊めてもらおう。


だけど・・・。義実家にいるバーニーズマウンテンドッグのことが気になる。
自分のことを子犬だと思いこんで義父にズシリと寄りかかるビッグサイズな人見知りの彼は、わたしがいるとゆっくり眠れないだろう。クマのような手で床をカリカリかきながら一晩中ワンワン鳴き続けるだろう。そしたら義父も、義母も眠れないだろうな。


そんなことを考えているうちに、我が家に着いた。

ガチャリと鍵を開け、ただいま、と言った。
第一村人がテレビクルーを発見したときのような表情で家の隅々から集まってきた子どもたちは、わたしの顔を見るなりワッと沸いて一緒に風呂に入ろうと喜んだ。 
トトサンは小さい声でおかえり、と言ったような気もしたが、よく分からなかった。

息子たちとわたしとで風呂に入り、着替えをさせ、歯磨きをして、3人で寝た。
子どもたちを寝かしつけたあとにリビングを見るとトトサンがいなくなっていたので、きっと自分の部屋で寝たのだろうと思い、わたしも寝た。


次の日の朝、休日は昼までベッドで安静を保っているトトサンが珍しく7時に起きてきた。
ぱっちりした二重がいつもの半分の大きさになり、目の下にはクマができていた。


知ってる、知ってるよ。夜中ずーーーっと仕事場から電話がかかってきていたこと・・・。
わたしは心の中で呟いた。

わたしよりずっと睡眠時間が短いトトサンは、私に気を使って一生懸命起きてきて、子どもたちを着替えさせ、歯を磨いて、あれやこれやしていた。
牛歩と言われるトトサンの歩みはいつもより1.5倍速で行ったり来たり、座ると眠ってしまうからか立ったりしゃがんだり、せわしなかった。

そして、
「昨日はごめんなさい。100パー俺が悪い。俺が最悪だった。ごめんなさい」
と言われた。


威勢を張って家まで飛び出したわたしだけど、そう言われると100パーセントもトトサンが悪くないと思えてきたし、それ以前にトトサンは最悪じゃないし、そんなに謝られたら申し訳なくなる。

開いているか開いていないか、ギリギリ開いてるくらいの薄目でトトサンを見ながら
「こっちこそ、ごめん」
と言うと、

「りりまるちゃんは謝らなくていい。りりまるちゃんにあまえていた俺が悪い」
と言われた。


結婚当時、仕事から帰ってトトサンが家にいることが信じられなかった。
幸せすぎて、明日わたしは死ぬかもしれないと何度も思った。

結婚式の花嫁の手紙では
「わたしがトトサンを幸せにします!」
と言い切った。
トトサンがしゅんとして帰ってきた日は彼を悲しませた人を呪ってやろうと黒魔術サークルに入会しようとした。これは入会金を支払ったのちトトサンに止められたのでやめた。

無類の野球好きなトトサンに喜んで欲しくてジャイアンツの応援歌は全部覚えたし、新婚旅行はシンガポール旅行の後、東京ドームで7連戦を観戦した。
結婚式ではジャイアンツの『闘魂込めて』で入場し、ジャビットくんのウエディングケーキに入刀した。


上がった球をキャッチしたらフライ!

しか野球のルールを知らなかったわたしだけど、なんとかかんとかネクストバッターズサークルと、フルカウントという言葉を覚えた。
わかる単語が増えるたびにトトサンは大袈裟に褒め、喜んでくれた。

このわたしの勤勉さはタッチアップのルールが理解できないことでゼロになるのですがそれはまた別のはなし。

そんなトトサンの口癖は
「みんな僕がやってあげるから心配しないで」
だった。
7歳年上のトトサンは、わたしにとって甘えられる親友であり、甘えられる夫だった。


それがどうだ。
結婚して7年間のうちに、甘えられる夫だったトトサンはこんなハチャメチャな私に甘えてくれるようになった!
悲しいことを言われたって、甘えてくれたトトサンをわたしは精一杯大切にして甘えさせてあげるべきだろう!!!
と、自分に喝を入れた。


トトサンに
「そうやったんか!甘えてくれてありがとう!」 
と言うとトトサンは半分しかひらいていない目をさらに半分に細めてニッコリ笑った。
トトサンの目は半分の半分になってもわたしの目より大きい。


12月16日のトトサンぎっくり腰記念日に追加して、3月20日のトトサン甘え記念日をカレンダーに書き加えた。








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