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壊れかけのレイディオ改め、わたし。

喘息もちの2歳児と24時間、365日、一緒に過ごす。
2歳までに喘息で10回近く入退院を繰り返す次男の咳が二つ、三つ続けば、眠れない夜が続く。


ウン年前、わたしは総合病院で看護師として勤務していた。

山の中にある病院は夜になると小さな街灯がポツポツとつくだけで周りは暗幕を被せたように真っ暗になる。ナースステーションの嫌に明るい蛍光灯がより一層、辺りの暗さを引き立たせた。

交感神経と副交感神経がぐちゃぐちゃになっているのか、夜勤は日勤よりも神経が過敏になる。なんというか、夜は『命』がより一層鋭利に感じた。

そのためか、俗に言う心霊現象なるものも幾度となく経験した。
誰も乗っていない車椅子が廊下の向こうから近づいてきたことも、無人の部屋からナースコールが鳴ったこともあった。
だけど、そんなものは車椅子を戻して、ナースコールを止めるだけでいい。というか、そういう人?霊?知らんけど、のんびりした昼間にやって来い!!!いくらでも相手してあげるから!!
無人の車椅子押して病院観光してあげるよ!!
ここは〜めっちゃ働く我らが師長のデスクです〜できれば金粉振りかけておいてくださ〜い。
ここは〜全然仕事しないクソ医者の机です〜呪っといてくださ〜い。
売店にアイスクリームも買いに行こ!!ばあちゃん家の冷凍庫にありそうなみぞれとか、あずきバーとかのラインナップしかないけど!しかも霜ついてる!!
レントゲンだって撮ってみる?なにうつるか知らんけど!!
無人の車椅子に話しかけるヤバい看護師だって噂されたっていいから、マジ頼む、夜はやめて。忙しいから。


そんな心霊現象よりも、規則的に刻まれる心電図モニターの音が不規則になり、予測不能な人工呼吸器アラーム音が鳴ることの方が一万倍怖い。

静寂に鳴り響くけたたましいアラーム音が耳を介さず直接脳にブッ刺さってくる。
体中の毛穴が閉じ、一瞬にして血圧が上がり、背中にじっとり汗をかく。30人いる患者様のだれかの命が、この暗闇に持っていかれそうになる瞬間がなにより、なにより、恐ろしかった。

だから総合病院を退職する時、一生夜勤をしないことを誓った。それどころか、看護師さえも二度としたくないと思った。人の命を守る仕事はわたしには荷が重すぎた。
 
退職し、結婚し、二人の息子が生まれた。
長男は、先天的に血糖が下がる病気で、3歳までは心が休まることはなかった。
1日3回の血糖測定、服薬に加え、よく泣く長男に30分ごとに起こされて頭くるくるポップコーン状態だった。
長男の低血糖が完治した頃、次男がうまれた。
よく食べ、よく眠り、よく笑う次男はTHE健康体で健やかだったはずが、OH MY GOODNESS!!!喘息を発症した。なんでやねん。

というわけで、二度としないと誓った元看護師のわたしは、病院から家庭へと場所をうつして看護師として生きていく必要があった。

喘息は夜から早朝にかけて起きやすい。
日中はケロリとしていた次男が、夜中に急に咳をし出すとわたしの血圧は一気に上がる。
吸入して、加湿して、内服して、救急に行くべきか、朝まで様子を見て良いかどうか、判断をする。

病院に入院したとて、安心はできない。
普通の喘息に見せかけて、いきなりグンと悪くなる息子は、最初から標準治療をしていては追いつかない。

「え、今からそんなオーバーなことしなくていいでしょ?」

という医師に、悪化のスピードが早いからあれとあれをして欲しいと頼むが、やってくれることはほとんどない。
そして、悪化、三次救急に転院なんてことも経験した。

ほらね!!!言うたやんか!!!最初からやっといてよ!!!!

と叫び散らかしてやりたいけど、わたしの腕の中で救急車到着をまつ苦しそうな次男を見て、そんなことより母はもただ神に、先祖に祈ることしかできないのだ。

そんなわたしはここ2週間、また夜勤のような状態です。
夜中に次男の咳で目が覚めて、壁に寄りかかって観察を続ける。昼か夜かわからない状態でゾンビのようにすごし、仮眠をとる。

朝になれば次男の希望で一日中見させられるパウパトロールというアニメのおかげでテレビ番組から得られる時間の感覚もない。

パウパトロールは、ケントという人間が日本語を話す何匹かの犬と町の事件を解決していくアニメだ。
パウパト〜
パウパト〜
トラブル発見〜
という歌詞から始まるオープニングテーマを一日30回は聴いている。

ケント!!!!!トラブルここです!!!
この喘息は解決してもらえますか!!!というか、一日中同じ話を何回も何回も見させられるのも、なかなかトラブルじゃないですかね!!
どうですかね!


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