うそぶいたのは
「見て!流れ星!」
今日の3限のこと。"今日は流星群が見られるかもしれない"なんて、目の前に座っていた初々しいカップルが話していたから。
「あー、ごめん。見逃した」
最近の日本は夏が長いとはいえ、10月の夜はさすがに冷える。
寒さに肩を抱きながら、燥ぐ彼女に近づいた。無理やり自宅に押しかけては、"大学のテラスなら星見えるよ!"なんて、寝巻きのまま連れ出されたこちらの身にもなって欲しい。
いくら夜も更けているとはいえ、道中ですれ違った人たちの視線が服装に向けられている気がして、いたたまれない気持ちになったのだ。帰りに肉まんくらい奢ってもらわないと割に合わない。
身を縮こませながら彼女に視線を向けると、広くないテラスをくるくると回りながら空を眺めていた。
目、回りそう。
「あっ」
そう思った矢先、お気持ち程度に置かれたベンチに足を取られる彼女が目に入って、咄嗟に手を伸ばす。
間合い良く、腕の中に収まった華奢な身体は、少しぽかぽかとしているような。
幾分か身長の低い彼女は、申し訳なさそうにこちらを一瞥して、きゅっと服の裾を摘む。
"ねぇ"と呼びかけた小さな声はなんだかすごく震えてて。きっと寒さのせいだろう。
「…月も、綺麗だね」
あれだけはしゃいでいたのが嘘みたいに、静かな声がコンクリートに落ちて、どろどろと足元を這い鼓膜を揺らす。
なんだろう。
月明かりに盗み見されているような、付きまとわれているような。そんな感覚がなんだか居心地悪くて、誤魔化すように辺りを見回すと、まだ何部屋か明かりがついていた。
4回生になったら、こんな時間まで研究をする羽目になるのかな、なんてこれは現実逃避だ。
あぁ、言わなきゃ。
気の所為かもしれない、自意識過剰かもしれない。
それでもずっと感じてた視線は、どうにも友達と言い切るにはあまりに熱を帯びていたように思えて。
"でも"の声は掠れて、喉が詰まって、溶けて消えてしまいそうだった。
「次の流星群はお互いに"彼氏"と見れたらいいね」
綺麗とは決して言い難い薄月の明かりに照らされて、彼女はすごく寂しそうに笑った気がした。
"月が綺麗ですね"
系がずっと好きでどの界隈に行っても書いてしまうんです。
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