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パブリックコメント(家族法制の見直しに関する中間試案に対する意見)


 

 

 

家族法制の見直しに関する中間試案に対する意見

 

 

認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ


 

目次
前提
前注について
第1 親子関係に関する基本的な規律の整理
第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し
第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設
第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
第6 養子制度に関する規律の見直し
第7 財産分与制度に関する規律の見直し
第8 その他所要の措置

 

家族法制の見直しに関する中間試案に対する意見

 

2023年2月8日

認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ

 

法制審議会家族法制部会が2022年12月6日に公表した「家族法制の見直しに関する中間試案」について、ひとり親家庭と子どもたちを支援する認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむは以下のとおり、意見を述べる。

 

 

はじめに 

 離婚後であっても、いわゆる共同親権・共同監護と同様に、父母が協力して子のために共同決定・共同監護をすることはいまの法律でも可能であり、父母の関係が良好であれば現実に行われている。そのため、法改正の必要性には疑問がある。さらに、2011年に民法766条が改正されたのち、2012年以降家庭裁判所では「原則面会交流実施」論に基づき子の監護に関する事件(面会交流)の運用は激変したが、それによって多くの監護親と子どもが、離婚後も非監護親のDV・モラハラ・虐待等に苦しみ、中には子・監護親が殺される事件も起こった。その反省と振り返りなしに共同親権・共同監護を決めてはならない。養育費の確保に集中すべきである。

 

 

1,共同親権・共同監護の立法事実に疑念

 離婚後の子どもの養育に関しての家族法の改正について、法務省法制審議会家族法制部会で20回の議論を踏まえて、中間試案がとりまとめられた。

 この家族法の改正について、わたしたちは共同親権・共同養育監護に関しては立法事実に疑念があるということをまず伝えねばならない。

 2011年民法766条が改正され、面会交流と監護についての費用の分担については、子の利益を最優先に考慮しなければならないということが決まった。また協議が調わないときは家庭裁判所が定めるとされた。

 これに基づいて、子どもの養育に関するあり方は、大きく変わった。家庭裁判所では、原則面会交流実施論に基づく調停委員、調査官の研修が行われてきた。そのため、監護親や子がDVや虐待を主張しても、面会交流ありきの調停運営がなされ、DVの危険は矮小化され、子の面会拒否の意思は軽視されてきた。その後、2013年に別居親が子を道連れに親子心中をしたり、2017年には長崎で子の面会交流に付き添った監護親が非監護親に刺殺され、伊丹市では面会交流中の子が非監護親に絞殺され、2019年には東京家裁の敷地内で調停に来た妻が夫に殺害される事件も起こった。このような流れの中で、子や監護親の安心・安全を軽視する原則実施論の行き過ぎが広く知れ渡るようになり、家庭裁判所の実務も変化していった。

 一方で、令和3年司法統計によると、家庭裁判所で面会交流の取り決め件数が宿泊ありも含めると11917件に上っており、現在の民法においても、双方の合意があれば、共同の養育をすることも可能であるし、実際に円満に離婚した元夫婦の間では、子のために相談しながら子のために重要な事項を決定している親も少なくない。現に、いまも良好に頻繁に面会交流を行い、子どもの事に関しあるいはそれ以上に話合いを続けている元夫婦がいる。取決めあるなしに関わらず、日本の(単独親権制度下であっても)共同養育が不可能となっているわけではない。にもかかわらず、制度としての共同親権・共同監護を導入すれば、夫婦間で協力・信頼関係が築けていない場合や、離婚後の関係変化に関わらず、当該制度の利用を強制・継続することになりかねず、子や監護親の安心・安全が脅かされかねない。

 

2,家庭裁判所の2012年以来の体制への振り返りが必要

 当団体を含むシングルマザーサポート団体全国協議会が2022年6月から7月にかけて、ひとり親2524人を対象に行った調査によると、家庭裁判所の調停を経験した1147人のうち家庭裁判所での対応で、DVや虐待を訴えても「面会交流は実施することになっている」という調停委員の対応や、子に対する調査官調査において「面会交流実施」の誘導が行われていることがわかった。裁判所は中立的な対応をしていないという主張が多かった。

 いまも多くの同居親たちから、そして子どもたちから、裁判所で面会交流が決まったが、子どもがいやがっている、子どもの安全が守られない、などの不安の声が聞こえてくる。一方、協議離婚で、面会交流をしているケースでは、子どもにとってよい影響がある、としている人がかなりいることもわかった。つまり、家庭裁判所を経由した面会交流の決定は、協議離婚に比べて子どもの利益になっていない可能性が大きいことがわかった。

 (「家庭裁判所の子の監護に関する手続きを経験した人へ の調査結果ならびに家庭裁判所への要望」https://www.moj.go.jp/content/001383775.pdf

 離婚事件における家庭裁判所の果たす役割や、その中で調停に関わる調停委員・調査官、さらには裁判官の研修、さらには裁判所の体制についても、振り返りと評価が必要であり、その振り返りの上に現在の検討がなされるべきである。

 

3,家庭裁判所は中立的な決定ができるのか

 中間試案によれば、共同親権制度が導入された場合は、面会交流のみならず、離婚後も親同士が共同で、子どもに関する決定を行うこととなる。それは財産や身分行為の代諾だけでなく身上監護についても含まれうる案なのである。

 裁判所によって決定した面会交流でさえ、多くのトラブルを抱えており、裁判所は全くアフターフォローに関わらない状況で、さらに離婚した元夫婦が子どもについて共同での意思決定をするための話合い・子についての資料提供など、決定以前に起こりうる紛争や、共同決定そのものについて争いになった場合、きちんと対応することが可能なのだろうか。現在、離婚調停を申し立てても、実際に調停が行われるまでに少なくとも1ヶ月以上はかかる。このような家庭裁判所の体制を見ると、とても子のために迅速・適切な当事者間の話し合いの援助が可能とは思えない。

 「なんのために離婚したのか」「これでは離婚した意味がない」という叫びが聞こえてくる。

 今回の中間試案では、当事者間に合意がない場合においても、家庭裁判所の審判において共同親権・共同監護とする決定が可能であるとされている。しかし、そもそも合意のない当事者に共同親権・共同監護をさせるのであれば、その後の紛争についても子の福祉に沿った迅速・適切に決定できる仕組みが不可欠である。そのような仕組みなければ、共同親権・共同監護を導入することはできない。

 共同養育計画を定めれば、すべて計画どおりに子どもの養育を行えば紛争は生じないという主張があるが、これは絵に描いた餅にすぎない。たとえば誰がコロナ感染拡大を予見しワクチン接種について共同計画を立てられただろうか。こどもの進路の希望進学の予定や部活の予定が計画で立てられるわけもない。計画を定めればその通りやれば紛争は生じないという主張は人間存在そのものの非予見性を理解していないきわめて皮相な人間観しかもっていないということになる。

 

 

4,養育費の取決めと支払い確保が必要

 いっぽう、養育費については、令和3年全国ひとり親世帯等調査によると、28.1パーセントが養育費を受けていると答えており、46.7%が養育費の取決めをしていると回答しているが、いまだに非常に低い割合である。

 こうした状況を踏まえ、まずは養育費についての支払確保の体制の構築が必要である。

 よって、共同親権・共同養育に関する法整備に先立ち、養育費支払い確保の支援体制の整備などが行われることが望まれる。具体的には、取決め支援、支払い確保、不払いの場合の手段などの支援及び養育費の立替払い制度である。

 

5,法律援助や税制社会保障に関する省庁横断会議の必要性

 最後に、この中間試案の補足資料の「はじめに」「中間試案に盛り込まれなかった意見について」(P5)で示されている通り、審議会では「①司法の役務提供に係る情報提供や費用支弁の支援、家庭裁判所の人員体制強化が必要であるとの指摘や、②税制・社会保障制度・教育支援との関係を整理する必要があり、その検討のための省庁横断的な検討会を設置すべきである」という意見が表明され、多くの委員の賛同を得た。しかし、これらは補足資料に位置付けられたにとどまっている。(「法制審議会家族法制部会の審議状況について(意見表明)」https://www.moj.go.jp/content/001383990.pdf

 もしも家族法の改正を行うのであれば、以上の体制がなければ、経済的に脆弱な立場にある者が法的な主張ができず取り残される恐れがある。

 また、税制・社会保障・教育支援の制度との関係が適切に構築されなければ、離婚後等の子どもたちの不利益が助長され、さらには社会福祉の削減・予算の削減が行われる危惧すらある。

 共同親権・共同監護を議論する場合には、これらの点についても平仄を合わせた体制整備が不可欠となる。令和5年4月にはこども家庭庁が発足し、こどもをまん中にという掛け声があがっているが、両親が離婚した子どもたちの社会保障費が削られるような(そのような提案も共同親権を推進する側からは主張されている)ことがあれば、本当に悲惨なことが起こるのではないだろうか。

 しっかりと子どもたちの声を聴き、子どもたちの最善の利益が実現するような慎重な議論が行われるべきである。


 

前注2について

(前注2)本試案で取り扱われている各事項について、今後、具体的な規律を立案するに当たっては、配偶者からの暴力や父母による虐待がある事案に適切に対応することができるようなものとする。  

【意見】

1,    配偶者からの暴力は例外として扱うべきではない。

2,    配偶者からの暴力の定義を明確にすべきである。

3,    アセスメントの方法を明文化すべきである。

4,    証拠が提出できない被害者も多いことを考慮した認定にすべきである。

5,    家庭裁判所の関係者の研修においては、精神的暴力を含めたDVの研修を行うべきである。

第16回の中間試案のとりまとめ案では子どもへの虐待や配偶者からの暴力に関する記述が一切なく、第17回、第18回の審議を経て、上記のような項目が入ったことには一定の評価をする。

法務省は中間試案とりまとめの解説で「DVや虐待に対する配慮をした中間とりまとめである」とするが、果たして十分なものであるのだろうか。

 近年英国、オーストラリア、アメリカでは、離婚後の子どもの養育に関する法制を検討するにあたり、ドメスティックアビューズ(DA,家庭内の暴力、配偶者からの暴力と子どもへの虐待を含めた概念)への配慮をより重視する方向での検討が行われている。DAは離婚後の子どもの養育に関する各ステージにおいて、重要な課題とすべきものである。
しかし、本法制審議会家族法制部会では、残念ながら検討が確実にされたとは言い難い。

離婚の理由に子どもの虐待を上げている件数が司法統計では現れていない。

そこで、当団体の調査をみると上図のように、「子によくない影響があった」を理由に離婚に踏み切った者が全体の37.2パーセントに上るのである。

さらに、家庭裁判所における調停・裁判等の申立動機別割合でも、暴力を振るう27.9%、精神的に虐待する24.0%、生活費を渡さない28.5%など、配偶者からの暴力に定義されることでの離婚の申立動機が多いことがわかる。

これらに加えて、協議離婚の実態も知りたいところだが、当団体2524人の調査(協議離婚・家庭裁判所経由の離婚含む)では、以下のようであった。(図略)

 

以上のように、離婚後の子どもの養育に関し、配偶者からの暴力や虐待を例外とするには、被害を受けている者の割合が多いこと、また、DV・虐待を適切にアセスメントする具体的な方法が確認されていないという点に危惧がある。

法制審議会の議論では、配偶者からの暴力(DV)や父母による虐待についての議論が非常に弱く、具体的な検討がされたとは言いがたい。

 シングルマザーサポート団体全国協議会の調査では、DVが家庭裁判所で軽視されているといった意見がかなりあった。

 また、配偶者からの暴力防止法の改正が論議されているところであり、「精神的暴力」についても保護命令の対象となることが予定されている状況をかんがみ、詳細な検討がなされるべきである。

 この問題は、日本でも面会交流中に無理心中事件が起こり、4歳の子どもが犠牲になっているなど、家庭裁判所の決定後にいたましい事件が起きていること、各国では、DVに関する相談体制が手厚く監視付き面会交流支援も多いにもかかわらず、同様の事件が起きていることを考えると、DV被害に対する各法律手続きにおける配慮をこまかく検討する必要がある。


 

第1 親子関係に関する基本的な規律の整理【意見】

親子関係に関する基本的な規律の整理
1 子の最善の利益の確保等
⑴ 父母は、成年に達しない子を養育する責務を負うものとする。
⑵ 父母は、民法その他の法令により子について権利の行使及び義務の履行をする場合や、現に子を監護する場合には、子の最善の利益を考慮しなければならないものとする(注1)。
⑶ 上記⑵の場合において、父母は、子の年齢及び発達の程度に応じて、子が示した意見を考慮するよう努めるものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。
2 子に対する父母の扶養義務
⑴ 未成年の子に対する父母の扶養義務の程度が、他の直系親族間の扶養
義務の程度(生活扶助義務)よりも重いもの(生活保持義務)であること
を明らかにする趣旨の規律を設けるものとする。
⑵ 成年に達した子に対する父母の扶養義務の程度について、下記のいず
れかの考え方に基づく規律を設けることについて、引き続き検討するも
のとする(注)。
【甲案】
子が成年に達した後も引き続き教育を受けるなどの理由で就労をする
ことができないなどの一定の場合には、父母は、子が成年に達した後も相当な期間は、引き続き同人に対して上記⑴と同様の程度の義務を負うものとする考え方
【乙案】
成年に達した子に対する父母の扶養義務は、他の直系親族間の扶養義務と同程度とする考え方

【意見】
子どもの最善の利益

 裁判所は子どもの最善の利益を掲げつつ、子どもの声を選択的にしか聞いていないことがしんぐるまざあず・ふぉーらむの調査で明らかにされた。

 子どもが面会交流をするといえばそのまま受け入れられ、しないと言った場合は理由を聞かれ、説得される。以上のような行為を選択的リスニングという。

 子どもの意見はどんな年齢にあろうとも尊重されるべきである。

  

 2 甲案に賛成である。

成人年齢が18歳に引き下げられ、高等学校在籍中に成人に達するものもいること、成人年齢の引き下げが子にとって不利益にならないようにする必要があること、大学進学率の上昇、学業を続けることにより将来の可能性を広げる機会を奪うべきではないことなどから、成人後も就労することができない一定の場合には、父母の扶養義務が継続していることを明記する必要がある。

 


 第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し

1 離婚の場合において父母双方を親権者とすることの可否
【甲案】
父母が離婚をするときはその一方を親権者と定めなければならないことを定める現行民法第819条を見直し、離婚後の父母双方を親権者と定めることができるような規律を設けるものとする(注)。
【乙案】
現行民法第819条の規律を維持し、父母の離婚の際には、父母の一方の
みを親権者と定めなければならないものとする。

 

1, 乙案に賛成である

  父母双方を親権者と定めることができるとする甲案には反対である。

  そもそも、単独親権の場合であっても、父母間に話し合いができる関係性があれば、子に関する事項についてはこの意思を尊重しつつ、父母が相談して決めている実態がある。にもかかわらず、これを共同で行使しなければならないとすれば、親権者の双方の合意形成のプロセスにおいて、DVや虐待、支配が再燃する危険があるだけでなく、合意形成ができないケースで子どもの利益が侵害される恐れがある。また、離婚後の父母の関係が変化したり、一方が子に関する関心を失ったり、子の監護に関する費用負担回避から、子のための合意形成ができない可能性がある。親権を共同にするということは、共同でなければ決められないということにつながり、子のために迅速・適切な決定が損なわれる可能性が生まれるのである。親権者の変更について、すでに離婚している者にも適用するのについては、強く反対する。

 

 

2 親権者の選択の要件
上記1【甲案】において、父母の一方又は双方を親権者と定めるための要件として、次のいずれかの考え方に沿った規律を設けるものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注)。
【甲①案】
父母の離婚の場合においては、父母の双方を親権者とすることを原則とし、一定の要件を満たす場合に限り、父母間の協議又は家庭裁判所の裁判により、父母の一方のみを親権者とすることができるものとする考え方
【甲②案】
父母の離婚の場合においては、父母の一方のみを親権者と定めることを原則とし、一定の要件を満たす場合に限り、父母間の協議又は家庭裁判所の裁判により、父母の双方を親権者とすることができるものとする考え方

(注) 本文に掲げたような考え方と異なり、選択の要件や基準に関する規律を設けるので
はなく、個別具体的な事案に即して、父母の双方を親権者とするか一方のみを親権者
とするかを定めるべきであるとの考え方(甲③案)もある。他方で、本文に掲げたよ
うな選択の要件や基準がなければ、父母の双方を親権者とするか一方のみを親権者
とするかを適切に判断することが困難であるとの考え方もある。

  

【意見】  

1, 前2において、乙案を支持したところであるが、甲①、甲②、(甲③)にも意見を述べる。

父母双方の真摯な合意に基づき、双方を親権者とすることができることにとどめておくべきである。父母の合意がないにもかかわらず、家庭裁判所の裁判により決定することには反対である。

2, 双方が親権者となる要件については、それが子どもの最善の利益となること、片方が相手からのDVや子の虐待被害を訴えている場合は該当しないこと、相手の連絡先がわかり、相手とのやりとりにストレスを感じずに行えること、平和なコミュニケーションができること、などを想定すべきである。そして、双方が親権者となることが子の利益のためになることを、家庭裁判所が確認する必要がある。


3 離婚後の父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律
(本項は、上記1において【甲案】を採用した場合の試案である。)
⑴ 監護者の定めの要否
【A案】
離婚後に父母の双方を親権者と定めるに当たっては、必ず父母の一方を監護者とする旨の定めをしなければならないものとする。
【B案】
離婚後に父母の双方を親権者と定めるに当たっては、父母の一方を監護者とする旨の定めをすることも、監護者の定めをしないこと(すなわち、父母双方が身上監護に関する事項も含めた親権を行うものとすること)もできるものとする(注1)。

【意見】
双方が親権を有する場合の親権行使について、乙案に賛成ではるが、念のため意見を述べる。

1, A案に賛成である。必ず一方を監護者とする旨の定めをすべきである。

   理由 子どもの身上監護は日常の生活であり、日常生活のこまごまとした事項を共同で行うことは、父母の意見が相違した場合などに子供が混乱し、子どもの不利益となる。

⑵ 監護者が指定されている場合の親権行使
ア 離婚後の父母の双方を親権者と定め、その一方を監護者と定めたときは、当該監護者が、基本的に、身上監護に関する事項(民法第820条から第823条まで〔監護及び教育の権利義務、居所の指定、懲戒、職業の許可〕に規定する事項を含み、同法第824条〔財産の管理及び代表〕に規定する財産管理に係る事項や、財産上・身分上の行為についての法定代理に係る事項及び同法第5条〔未成年者の法律行為〕に規定する同意に係る事項を含まない。)についての権利義務を有するものとする考え方について、そのような考え方を明確化するための規律を設けるかどうかも含め、引き続き検討するものとする(注2)。

【意見】
1, 身上監護に関する事項の権利義務を有することに関し明確化する規律を設けることに賛成。

 なぜなら、監護及び教育の権利義務・居所指定等は、子と日常生活を共にする監護権者が、子との日常生活の中からその子にふさわしい監護方法・教育方針と内容を決めるべきであるから、監護権者にそのような権利義務があることを明確に規定すべきである。さらに、生活の本拠地も子を日常的に養育する監護者が子との生活の維持のためには変更する場合もあり、これらについて他方親権者の同意を必要とすれば、子の安定した生活が確保できず、さらに監護方法・教育方針等の決定が迅速になされず、かえって子の利益を害することになるからである。


⑵ 監護者が指定されている場合の親権行使(続き)
イ 離婚後の父母の双方を親権者と定め、父母の一方を監護者と定めたときの親権(上記アにより監護者の権利義務に属するものを除く。)の行使の在り方について、次のいずれかの規律を設けるものとする。
【α案】
監護者は、単独で親権を行うことができ、その内容を事後に他方の親に通知しなければならない。
【β案】
① 親権は、父母間の(事前の)協議に基づいて行う。ただし、この協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、監護者が単独で親権を行うことができる(注3)。
② 上記の規律に反する法定代理権及び同意権の効力は、現行民法第825条〔父母の一方が共同の名義でした行為の効力〕と同様の規律による。
【γ案】
① 親権は父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは他の一方が行うものとする。
② 親権の行使に関する重要な事項について、父母間に協議が調わないとき又は協議をすることができないとき(父母の一方が親権を行うことができないときを除く。)は、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、当該事項について親権を行う者を定

【意見】1,  単独親権制度に賛成だが、共同親権となった場合の意見を申し述べる。

α、β、γ案の中ではα案がまだましである。

しかし、α案であったとしても紛争を増やす可能性がある。なぜなら、DV.・虐待があった場合には、そもそも一方の親が居所を秘匿していることも多く、他方親に通知することすら困難な場合もある。さらに、通知をするべき内容・時期等をめぐって争いになる可能性があること、通知内容に不満のある他方親による監護親に対する介入のおそれがあり、新たな紛争を生じる可能性があるからである。

 

β、γ案では、双方の信頼関係が維持され、父母としての子の養育についての協力の程度が婚姻時と同様に高い場合に限り、父母の同意のもと、選択すべきである。

 

⑶ 監護者の定めがない場合の親権行使(注5)
ア (上記⑴【B案】を採用した場合において)監護者の定めがされていないときは、親権(民法第820条から第823条まで〔監護及び教育の権利義務、居所の指定、懲戒、職業の許可〕に規定する身上監護に係る事項、同法第824条〔財産の管理及び代表〕に規定する財産管理に係る事項や、財産上・身分上の行為についての法定代理に係る事項及び同法第5条〔未成年者の法律行為〕に規定する同意に係る事項を含む。)は父母が共同して行うことを原則とするものとする。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは他の一方が行うものとする。
イ 親権の行使に関する重要な事項について、父母間に協議が調わないとき又は協議をすることができないとき(父母の一方が親権を行うことができないときを除く。)は、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、当該事項について親権を行う者を定める(注6)。
ウ 上記の各規律に反する法定代理権及び同意権の効力は、現行民法第825条〔父母の一方が共同の名義でした行為の効力〕と同様の規律による。

 【意見】
子の安定した生活のために、監護者の定めは必ず行うべきであることは、既に述べたとおりであるが、念のために意見を述べる。

(3)ア、イの場合を考えると現実的には実行できるか不安となる。

財産上の行為、身分上の行為は多くはないが、監護及び教育・居所指定等の事項は、子と日常生活を共にする親でなければ、迅速かつ柔軟な決定ができない。

例えば、子の進学について、どの時期にどの範囲で共同して決定すべきなのか、子が志望校を決めたときなのか、その後現実に願書を提出するときなのか、複数合格したときにどこに進学するかを決定するときなのか。決定について、子の意思はどのように反映されるのか。迅速な決断が必要なことも多く、いちいち他方親権者と相談して共同決定することは現実的でない。また、医療を考えても、未成年の妊娠中絶の決定などにおいて、父母の協議が調わないときには時期を逸する恐れがある。

いずれの場合も、協議が整わない場合、現在の家庭裁判所の体制(申し立てから実際の調停・審判まで少なくとも1か月以上が必要である)では、裁判所に申し立てをしても、必要な時点までには子の進学先は決められず、子は医療を受けられなくなる。子を共同決定の犠牲者にしてはならない。また、子の意思の反映の仕組みも整備しなければならない。緊急時の規定などが必要となる。

 

⑷ 子の居所指定又は変更に関する親権者の関与
離婚後に父母の双方を親権者と定め、父母の一方を監護者と定めた場合における子の居所の指定又は変更(転居)について、次のいずれかの考え方に基づく規律を設けるものとする。
【X案】
上記⑵アの規律に従って、監護者が子の居所の指定又は変更に関する決定を単独で行うことができる。
【Y案】
上記⑵アの規律にかかわらず、上記⑵イの【α案】、【β案】又は【γ案】のいずれかの規律により、親権者である父母双方が子の居所の指定又は変更に関する決定に関与する。

【意見】

【X】案に賛成である。

    居所の指定の変更に一方の非監護者が関わることになる場合、親の転職・転勤、子どもの進学・転校、そのほか親の介護等で転居するなどの事情による居所の変更にも他方親の合意が必要となり、多くの弊害を生む。

また日本は転勤命令がある国であり、そうした状況も踏まえた制度にすべきである。

 なお、子の居所指定になぜ他方親である非監護親の同意が必要となるのか。その理由は、おそらく子と非監護親との交流の確保や他方親の親権行使の利便性にあると思われる。とするなら、非監護親の転居によっても同様の問題は起こるのであるから、非監護親の転居についても子及び監護親が関与すべきとすることが必要となるはずである。これが不合理であるとするなら、監護親とともに生活をする子の居所指定に非監護親をかかわらせることもまた、不合理なのである。

 

 

 

5 認知の場合の規律
【甲案】
父が認知した場合の親権者について、現行民法第819条を見直し、父母
双方を親権者と定めることができるような規律を設けるものとした上で、
親権者の選択の要件や父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する
規律について、上記2及び3と同様の規律を設けるものとすることについ
て、引き続き検討するものとする。
【乙案】
父が認知した場合の親権者についての現行民法第819条の規律を維持
し、父母の協議(又は家庭裁判所の裁判)で父を親権者と定めたときに限り
父が親権を行う(それ以外の場合は母が親権を行う)ものとする。

【意見】
1,認知の場合の規律は、乙案を支持する。

 認知という父性確定の方法は、胎児認知以外は母親の承認なしにできる。そのため、甲案では、一方的に認知をして父親となった者が、母と共に親権者になる可能性がある。

未婚の出産について、しんぐるまざあず・ふぉーらむが2018年に行った未婚の母対象の調査では、妊娠期のパートナー(恋人)からの肉体的・精神的暴力を受けているケースは2~3割に上り、その結果、子の父親と交流を断ち、子をもうけるに至ったのである。

にもかかわらず、甲案の規律の手続きによっては、全く子どもとの同居関係あるいは交流の関係がない父親についても、離婚と同じように扱うことになるが、父母の関係は離婚の場合と全く状況を異にするのである。

事実婚関係の夫婦にとってはメリットがあるという議論もあるが、事実婚で婚外子をもうけた夫婦は、そもそも「婚姻関係」にあるため、単独親権下であっても協議がスムーズにできているので、あえて甲案の規定を設ける必要性があるのかという問題もある。

一方、父親側が婚姻関係にある配偶者がいた場合の認知による共同親権の取り扱いについても、父親の配偶者との関係について、検討を要する。

一方的な認知の悪用もありえることを考えると乙案を支持する。

まずは、認知制度について、この出生後であっても母親の合意が必要な制度に改めるなどをまず行ったのちに検討すべきであり、ここに盛り込むべきではない。

第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し

 

1 離婚時の情報提供に関する規律
【甲案】
未成年の子の父母が協議上の離婚をするための要件を見直し、原則として、【父母の双方】【父母のうち親権者となる者及び監護者となる者】が法令で定められた父母の離婚後の子の養育に関する講座を受講したことを協議上の離婚の要件とする考え方について、引き続き検討するものとする(注1)。
【乙案】
父母の離婚後の子の養育に関する講座の受講を協議上の離婚の要件とはせず、その受講を促進するための方策について別途検討するものとする(注2)。

【意見】乙案を支持する

子の養育に関する受講の促進は行うことには反対はしない。しかし、要件とした場合、DV等により迅速に離婚をする必要がある場合に、協議離婚時のハードルが上がることになる。オンラインによる受講もできるが、その実効性に疑問があり、講座の受講を促すとしても、受講内容について、ひとり親、非同居親、専門家の意見を入れたものが作成されるのが望ましい。離婚について罪悪感を抱かせるようなものは避け、自己肯定感を上げ、子どものための行動がとれるような講座にすべきである。

担い手としては、ひとり親家庭支援センターなどが適切だろう。ひとり親の生活情報支援情報、就労支援情報などをオプションで入れたほうがいい。

無料の弁護士相談に紐づけるなど受講促進の工夫が必要である。

 なお、念のため、甲案についての意見を述べる。受講対象者を「子の親権者となる者及び監護親となるもの」と限定することには、強く反対する。離婚後には、非親権者・非監護権者であっても、養育費の支払い義務はあるし、子との面会交流が行われることもある。そのような、非監護親としての義務や、面会交流等においてどのように子と接するかといった非監護親として知っておくべきことも多い。そのため、父母双方が講座を受講する必要がある。

第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
2 父母の協議離婚の際の定 め
⑴ 子の監護について必要な事項の定めの促進
【甲①案】
未成年の子の父母が協議上の離婚をするときは、父母が協議をすることができない事情がある旨を申述したなどの一定の例外的な事情がない限り、子の監護について必要な事項(子の監護をすべき者、父又は母と子との親子交流(面会交流)、子の監護に要する費用の分担)を定めなければならないものとした上で、これを協議上の離婚の要件とするものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注1)。
【甲②案】
【甲①案】の離婚の要件に加えて、子の監護について必要な事項の定めについては、原則として、弁護士等による確認を受けなければならないものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。
【乙案】
子の監護について必要な事項の定めをすることを父母の協議上の離婚の要件としていない現行民法の規律を維持した上で、子の監護について必要な事項の定めがされることを促進するための方策について別途検討するものとする(注3)。

 

【意見】

9割を占める日本の協議離婚の実態について、甲①案、甲②案については、同居親、非同居親の離婚前後の状況、行動、話合いの有無・可否などのデータが不足しているので、結論づけるのはむずかしい。

 

議論の前提として、協議離婚経験者である非同居親の調査、同居親の調査を行っていくべきである。

当団体が2022年6月に行った「離婚後の子どもの養育に関する調査」では、なんらかの要件をつけることに対し、協議離婚経験者の意見はわかれていた。

 


この大多数を占める協議離婚の実態の把握はまったくまだ手がついていない。

シングルマザーサポート団体全国協議会の「協議離婚のシングルマザーに関する分析」では、最も協議して協議離婚をしたと思われるグループであっても、現在提案されている進学先決定への双方関与、医療決定への双方関与、居所指定については否定的な見解が多いことは注目に値する。また、ほとんど協議できないで協議離婚した当事者には、現在の提案自体に具体的な想像力を持って考えることすら難しそうである。さらに、DV経験者にとっては、元配偶者と対等に協議をすること自体が現実的に極めて難しいことについては特段の配慮が必要であろう。

 

 今回の法制審議会家族法部会は、離婚の中では1割程度しかない家庭裁判所での離婚調停裁判を経験し、面会交流回数が少ない、あるいは子どもと会えないという非同居親からの強い要望で開かれ、離婚時に面会交流や養育費を取り決めることや、共同親権共同監護が議論されているように見受けられる。しかし、離婚のうち9割を占める協議離婚者の実態について、話し合い可能であったか、可能であったとしてどのような話し合いがなされたか、話し合いが進まなかったとしたらその理由は何なのか、どのような援助があれば話し合いができたのか等の調査はなされていない。また、協議離婚経験者のこの問題への理解もまだ進んでいない状況であり、ブラックボックスであるにもかかわらず、抽象的に規律を設けるのではなく、まずは実態把握が必要である。

時間をかけて検討すべき課題であることを再度指摘したい。

 

 


第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
⑵ 養育費に関する定めの実効性向上
子の監護に要する費用の分担に関する父母間の定めの実効性を向上させる方向で、次の各方策について引き続き検討するものとする。
ア 子の監護に要する費用の分担に関する債務名義を裁判手続によらずに容易に作成することができる新たな仕組みを設けるものとする。
イ 子の監護に要する費用の分担に関する請求権を有する債権者が、債務者の総財産について一般先取特権を有するものとする。

【意見】
アについて 債務名義を裁判手続き寄らずに、容易に作成できる新たな仕組みを設けることには賛成である。

 

次の(3)の法定養育費制度についての意見であるが、法定養育費の具体的金額は記述されていないが、審議会では子ども1人について1万円程度という説明がなされたしかし、1万円ではあまりにも低額であり、ひとり親の意見では、せめて3万円程度にしてほしいという意見が強い。

イについて 債務者の財産についての一般先取特権についてだが、現在でも給与債権に対する差し押さえでは、将来債権に対する取り立てが可能であるため、1回で済むと説明されている。しかし、転職すれば取立は不可能になってしまう。そのため、転職先の追跡等、現在でも行われている給与債権に対する差し押さえの制度の充実がまずは求められる。

そのうえで、一般先取特権の制度を新たに創設するにしても、先取特権の申し立てをする場合でも、申立書類の作成には専門性が必要であり、実効性があるかは不明である。

養育費の立替払いについては補足資料にあるが、行政による立替払いを行っている自治体もある(明石市)。限られた期間とはいえ、児童扶養手当受給者=(ほぼひとり親家庭の数)2500人の自治体での予算は100万円程度であったことを考えると、国が養育費の立て替え払い制度を導入することを考えるべきである。(参照:令和3年4月 報告書「明石市こども養育支援ネットワークの奇跡」https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/soudan_shitsu/kodomo-kyoiku/youikushien/youikushien.html

 

 

第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
3 離婚等以外の場面における監護者等の定め
次のような規律を設けるものとする(注1、2)。
婚姻中の父母が別居し、共同して子の監護を行うことが困難となったことその他の事由により必要があると認められるときは、父母間の協議により、子の監護をすべき者、父又は母と子との交流その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定めることができる。この協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の申立てにより、当該事項を定めることができる。

 【意見】
別居については議論が多いところである。

 「婚姻中の父母が別居し、共同して子の監護を行うことが困難となったことその他の事由により必要があると認められるとき」という定義があいまいである。

そもそも「別居」といっても、一時的に家を出ている場合を含むのか、相当程度の別居期間を必要とするのか、単身赴任や里帰り出産などとで夫婦が同居していない場合との違いは何であるのかなども不明確である。また、現在も婚姻中の夫婦の間でも監護者指定の手続きは行われていることを考えると、特段の見直しの必要性はないのではないか。

また、別居中であっても、婚姻費用が払われていれば非同居親が税の扶養親族とすることができ、社会保険の(多くは妻と子どもを)被扶養者としておくことができ、児童手当を世帯主が受取ることができる。一方では、十分な婚姻費用が支払われていない場合もあり、そうした場合にもひとり親として社会保障を受け取ることができないという過渡期の問題がある。子の監護に関して、「別居」を離婚類似の場面として制度設計をするのであれば、大多数の者が経験する離婚の前段階であるこうした税や社会保障の問題の解決こそが喫緊の課題であることを付記しておく。


第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
4 家庭裁判所が定める場合の考慮要素
⑴ 監護者
家庭裁判所が子の監護をすべき者を定め又はその定めを変更するに当たっての考慮要素を明確化するとの考え方について、引き続き検討するものとする(注1)。
⑵ 親子交流(面会交流)
家庭裁判所が父母と子との交流に関する事項を定め又はその定めを変更するに当たっての考慮要素を明確化するとの考え方について、引き続き検討するものとする(注2、3)。

【意見】
家庭裁判所が子の監護をすべき者を定め又はその定めを変更するに当たっての考慮要素を明確化するということであるが、家庭裁判所では民法766条に基づき、子どもの最善の利益に従って、監護者の指定・面会交流の実施の可否・頻度を決定している。

今回の監護に関する事項の考慮要素の明確化について、特に注1にあるように「①の子の生活及び監護の状況に関する要素については、父母の一方が他の一方に無断で子を連れて別居した場面においては、このような行為が「不当な連れ去り」であるとして、当該別居から現在までの状況を考慮すべきではないとする考え方がある一方で、そのような別居は『DVや虐待からの避難』であるとして、この別居期間の状況を考慮要素から除外すべきではないとの考え方もある。」とされているがこの「そのような別居は「DVや虐待からの避難」であるとして、この別居期間の状況を考慮要素から除外すべきではない」という考えに賛成である。

「連れ去り」あるいは「不当な連れ去り」の定義はいまだに不明確であり、日本における配偶者暴力防止の対策では、加害者に退去命令を出して被害者と子どもの居住を守る制度はほとんど使われておらず、実際には被害者と子どもが家を出るという選択肢しかないという実情を鑑みれば、「不当な連れ去り」という概念を使うことでDVからの避難である事例を排除してしまう。

また配偶者からの肉体的・精神的暴力を裁判所で十分アセスメントすることができないのみならず、逆に軽視されていることは、当団体の調査でも明らかであるときに、「不当な連れ去り」という概念を監護者指定において使うことは事態の把握を誤り、子及び子とともに家を出た監護親と子どもたちを危険に陥れることになりかねない。

注1の5「、⑤他の親と子との交流が子の最善の利益となる場合において、監護者となろうとする者の当該交流に対する態度を考慮することについては、これを肯定する考え方」には反対である。これは、「フレンドリーペアレントルール」と呼ばれるルールであり、他方の親との面会交流を友好的に認める親が監護者としてふさわしい、と判断する基準をいうが、このルールを設けていたオーストラリアは、既にこのルールを削除するなどの改正をしている。その他の国でも、このルールにより、相手方によるDV・虐待・性的虐待等を主張すると親権が得られないので、相手方によるこれらの行為を訴えた場合には子どもの親からの性被害を訴えた側が親権を失うという弊害が指摘されている。フレンドリーペアレントルールが広く適用されているとされるアメリカでも「父親からの性的虐待」を訴えた母親がこの条項によって親権を失い父親側に親権が渡る裁判所の運用において、子どもが地獄のような生活を送ったという子ども自身からの訴えがされており、非常に危険な概念である。

注2、注3についても同様の考え方である。


 第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設

第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設
1 第三者による子の監護
⑴ 親以外の第三者が、親権者(監護者の定めがある場合は監護者)との協議により、子の監護者となることができる旨の規律を設けるものとし、その要件等について引き続き検討するものとする(注1、2)。
⑵ 上記⑴の協議が調わないときは家庭裁判所が子の監護をすべき者を定めるものとする考え方について、その申立権者や申立要件等を含め、引き続き検討するものとする。

【意見】

反対する。

子との関係性を限定することなく、広く第三者が子の監護者となる規律を設けることには反対する。第三者については、監護者の責任の下、監護補助者とすれば足りる。

2 親以外の第三者と子との交流
⑴ 親以外の第三者が、親権者(監護者の定めがある場合は監護者)との協
議により、子との交流をすることができる旨の規律を設けるものとし、そ
の要件等について引き続き検討するものとする(注1、2)。
⑵ 上記⑴の協議が調わないときは家庭裁判所が第三者と子との交流につ
いて定めるものとする考え方について、その申立権者や申立要件等を含
め、引き続き検討するものとする。

【意見】

反対する。
主体を限定することなく、広く第三者とすることになれば、離婚後も他方親の関係者が子との交流を求めてくることを認めることになかねない。その結果、子とその監護親は第三者からの交流の求めに対応せざるを得なくなり、子の生活の安定を損なうことになる。

 

 

 


 

第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し【意見】

第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
1 相手方の住所の調査に関する規律
子の監護に関する処分に係る家事事件手続において、家庭裁判所から調
査の嘱託を受けた行政庁が、一定の要件の下で、当事者の住民票に記載され
ている住所を調査することを可能とする規律(注1、2)について、引き続
き検討するものとする(注3)。

【意見】
養育費の支払い義務者については、提案の規律の検討が必要であるが、それ以外の場合には、提案の規律を設けることに反対する。また、たとえ養育費に関する手続であっても、DV・虐待等で住所を秘匿している親の住所については、他方親に知らせないように特段の保護が必要である。【意見】

2 収入に関する情報の開示義務に関する規律
養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に関して、当事者の収入の把握を容易にするための規律について、次の考え方を含めて、引き続き検討するものとする。
⑴ 実体法上の規律
父母は、離婚するとき(注1)に、他方に対して、自己の収入に関する情報を提供しなければならないものとする。
⑵ 手続法上の規律
養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に関する家事審判・家事調停手続の当事者や、婚姻の取消し又は離婚の訴え(当事者の一方が子の監護に関する処分に係る附帯処分を申し立てている場合に限る。)の当事者は、家庭裁判所に対し、自己の収入に関する情報を開示しなければならないものとする(注2)。

【意見】
実体上の規律とすることについては反対するが、手続法上の規律とすることについては賛成する。実体法上の規律とすると、対等な話し合いができない関係にある当事者の間で、力の強い者からの圧力で一方的に収入を開示させられる可能性がある。しかし、家庭裁判所の手続の中であれば、双方に対して同等に開示を促せるため、賛成である。それでも、家庭裁判所が強制的に収入の資料の提出をさせることはできないため、あくまでも規範的な規定に過ぎないと思う。

 


第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
3 親子交流に関する裁判手続の見直し
⑴ 調停成立前や審判の前の段階の手続
親子交流等の子の監護に関する処分の審判事件又は調停事件において、調停成立前又は審判前の段階で別居親と子が親子交流をすることを可能とする仕組みについて、次の各考え方に沿った見直しをするかどうかを含めて、引き続き検討するものとする(注1)。
ア 親子交流に関する保全処分の要件(家事事件手続法第157条第1項〔婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分〕等参照)のうち、急迫の危険を防止するための必要性の要件を緩和した上で、子の安全を害するおそれがないことや本案認容の蓋然性(本案審理の結果として親子交流の定めがされるであろうこと)が認められることなどの一定の要件が満たされる場合には、家庭裁判所が暫定的な親子交流の実施を決定することができるものとするとともに、家庭裁判所の判断により、第三者(弁護士等や親子交流支援機関等)の協力を得ることを、この暫定的な親子交流を実施するための条件とすることができるものとする考え方(注2、3)
イ 家庭裁判所は、一定の要件が満たされる場合には、原則として、調停又は審判の申立てから一定の期間内に、1回又は複数回にわたって別居親と子の交流を実施する旨の決定をし、【必要に応じて】【原則として】、家庭裁判所調査官に当該交流の状況を観察させるものとする新たな手続(保全処分とは異なる手続)を創設するものとする考え方
⑵ 成立した調停又は審判の実現に関する手続等
親子交流に関する調停や審判等の実効性を向上させる方策(執行手続に関する方策を含む。)について、引き続き検討するものとする。

【意見】(1)のア、イともに、強く反対する。

面会交流が申し立られた場合、その調停の結論が出る前に一定要件(子の安全を害するおそれがないことや面会交流の認容の蓋然性が認められる場合など)が満たされる場合は、調停又は審判申立から一定期間内に面会交流を行うというものであり、これまで家庭裁判所で行われていた試行面会とは異なる手続の提案である。

しかし、面会交流が実施されない理由はさまざまであり、一律に必要性の要件を緩和することは、まさに「面会ありき」といった従前行われていた面会原則実施論の運用を復活させるものであり、原則実施論の反省が活かされていない。一定の審理を経て実施される試行面会であれば、、家庭裁判所調査官が面会を観察して、家庭裁判所の判断の資料とすることができるが、本提案では調査官以外の第三者に立ち会いをさせるということでもあり、本規律の目的も不明であるので反対ある。また子どもの身体が安全であることが確認できたら面会交流命令を出すとしているが、子どもの身体の安全の決定、決定する場合の規律について具体的説明もない。また言葉の暴力などを軽視し、身体が安全のみを取り立てていることも、ことばによる威嚇や暴力を軽視していると見受けられる。裁判所決定の面会交流であっても、過去には心中事件が面会交流中に起きていることを考えると、非常に危険性が高いと言わざるをえない。

イでは、さらに一定期間経過したら面会交流を命令するというものであり、これはさらに無謀である。まさに「原則実施論」そのものに他ならない。家庭裁判所の原則面会交流実施の方針が「ニュートラルフラット」に変わったという旨の当審議会の委員でもある東京家庭裁判所の細矢郁判事の発言があったが、それにも違反していると思われる。さらに、一定期間が経過したら面会交流を1回または複数回実施するというが、この論理的根拠も薄弱である。また、審議会での議論では、裁判所がこのようなケースに調査官を立ち会わせる余裕があるかは不明のままであった。

加えて、アとも重なるが、仮に第三者に立ち会いを依頼するとしても、監視付き面会交流もしくは面会交流の援助機関の利用については、費用負担などの交渉が終わっていなければ監視もしくは援助を受けることもできないため、きちんとした手続や裁判所の関与がない限り、監護親の負担や子及び監護親の危険が大きいので反対である。

 

第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
4 養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に係る金銭債権についての民事執行に係る規律
養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に係る金銭債権についての民事執行において、1回の申立てにより複数の執行手続を可能とすること(注1)を含め、債権者の手続負担を軽減する規律(注2)について、引き続き検討するものとする。

【意見】

賛成である。

注2にあるように手続きの負担を軽減する規律(預金保険機構)を通じ個人番号が付番された口座の存否を一括して把握することが可能となる仕組みを設けるべきである。 


第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
5 家庭裁判所の手続に関するその他の規律の見直し
⑴ 子の監護に関する家事事件等において、濫用的な申立てを簡易に却下する仕組みについて、現行法の規律の見直しの要否も含め、引き続き検討するものとする。
⑵ 子の監護に関する家事事件等において、父母の一方から他の一方や子への暴力や虐待が疑われる場合には、家庭裁判所が当該他の一方や子の安全を最優先に考慮する観点から適切な対応をするものとする仕組みについて、現行法の規律の見直しの要否も含め、引き続き検討するものとする。
暴力や虐待が疑われる場合には、家庭裁判所が当該他の一方や子の安全を最優先に考慮する観点から適切な対応をするものとする仕組みについて、現行法の規律の見直しの要否も含め、引き続き検討するものとする。

【意見】
いずれも、賛成である。

子の監護に関する家事事件等において、濫用的な申立ては、当団体の調査でも2524人中11%が受けたあると回答していた。リーガルハラスメントの一種である。自由記述も多く、「裁判、調停、合わせて9つやっています。裁判では6000万円の請求(根拠のない言いがかりの金銭要求)がなされています。裁判で、相手の言い分が通ることはほぼないと分かっていても、裁判をしなければならないこと自体が苦痛です。DV加害者に、DV被害者を相手に裁判をさせることに制限を与えてほしいです。次々と裁判を起こされ、終わりが見えません」という記述も見られ、制限についての検討が必要である。その手法も、新たな損害賠償請求をする、裁判官を忌避する、管轄の裁判所の移送を申し立てるなど、合法であるが単なる引き延ばしやいやがらせになっているものがある。

 なお、暴力には、身体的暴力のみならず、精神的暴力・モラルハラスメント・性的暴力も含むことを明記されたい。


 

第6 養子制度に関する規律の見直し【意見】

「2.未成年養子縁組の成立要件につき、父母の関与の在り方に関する規律も含めて、引き続き検討するものとする(注3)。」については反対である。

1 未成年者を養子とする普通養子縁組(以下「未成年養子縁組」という。)に関し、家庭裁判所の許可の要否に関する次の考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。
【甲案】
家庭裁判所の許可を要する範囲につき、下記①から③までのいずれかの方向で、現行法の規律を改める。
① 配偶者の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする。
② 自己の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする。
③ 未成年者を養子とする場合、家庭裁判所の許可を得なければならないものとする。
【乙案】
現行民法第798条の規律を維持し、配偶者の直系卑属を養子とする場合や自己の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする。

2 (上記1のほか)未成年養子縁組の成立要件につき、父母の関与の在り方に関する規律も含めて、引き続き検討するものとする(注3)。

3 未成年養子縁組後の親権者に関する規律につき、以下の方向で、引き続き検討するものとする(注4、5)。
① 同一人を養子とする養子縁組が複数回された場合には、養子に対する親権は、最後の縁組に係る養親が行う。
② 養親の配偶者が養子の実親である場合には、養子に対する親権は、養親及び当該配偶者が共同して行う。
③ 共同して親権を行う養親と実親が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方(注6)を親権者と定めなければならない。裁判上の離婚の場合には、裁判所は、養親及び実親の一方(注6)を親権者と定める。
4 未成年養子縁組後の実親及び養親の扶養義務に関する規律として、最後の縁組に係る養親が一次的な扶養義務を負い(当該養親が実親の一方と婚姻している場合には、その実親は当該養親とともに一次的な扶養義務を負う)、その他の親は、二次的な扶養義務を負うという規律を設けることにつき、引き続き検討するものとする。

【意見】

子どもの同居親が新しい配偶者を得た場合に、同居親の新しい配偶者から子の虐待を防ぐためには父母の関与の在り方の規律を設けるべきであるとする議論があるが、例えば2018年に東京都目黒区で起こった虐待死事件では、被害児童の父親は離婚後子どもを守る行動をするどころか母親に金をせびっていたという。これは一例だが、児童虐待防止のため養子縁組に父母の関与をすることが必要というエビデンスは知るところではなく、児童虐待防止のためには児童相談所の体制についてこそ検討すべき問題である。

 さらに、実の父母の関与として、同意・承諾を必要とした場合、それらが得られなかった場合には同居親の新しい家庭の中で、当該子のみが新たな配偶者の子ではないことになり、新しい家庭の中で当該子に必要な養育にかかる費用やさまざまな事項の決定に支障が生じるおそれがある。子の同居親と新しい配偶者が希望すれば、速やかに新家族が形成されることこそ、当該子の福祉に合致する。

 

 


 第7 財産分与制度に関する規律の見直し

第7 財産分与制度に関する規律の見直し
1 財産分与に関する規律の見直し
財産の分与について、当事者が、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求した場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその協力によって取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮し、分与させるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めるものとする。この場合において、当事者双方がその協力により財産を取得し、又は維持するについての各当事者の寄与の程度は、その異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。

【意見】

離婚時の財産分与については、結婚あるいは出産時に仕事を中断する女性がいまだに5割を占める状況を鑑みると、離婚後扶養の考え方を明確に位置づけるべきである。また子どもの最善の利益のため、居住用財産の保護や、一定時期(子どもの小学校卒業までなど)までの居住権保護についての仕組みを取り入れ、子どもが離婚後、環境の変化を最小限にできるようすべきである。

 

 第8 その他の所要の措置

第8 その他所要の措置
第1から第7までの事項に関連する裁判手続、戸籍その他の事項について所要の措置を講ずるものとする(注1、2)。
(注1)夫婦間の契約の取消権に関する民法第754条について、削除も含めて検討すべきであるとの考え方がある。
(注2)第1から第7までの本文や注に提示された規律や考え方により現行法の規律を実質的に改正する場合には、その改正後の規律が改正前に一定に身分行為等をした者(例えば、改正前に離婚した者、子の監護について必要な事項の定めをした者、養子縁組をした者のほか、これらの事項についての裁判手続の申立てをした者など)にも適用されるかどうかが問題となり得るところであるが、各規律の実質的な内容を踏まえ、それぞれの場面ごとに、引き続き検討することとなる。

【意見】

改正前に離婚した者などに改正後の規律が適用されるかどうかについては、適用しないとするべきである。なぜなら、既に離婚している元夫婦の改正時の関係はさまざまであり、遡及効を認めれば、いたずらに混乱をもたらすことになる。特に、婚姻期間中にDV・虐待等があった事例であっても、時間が経つことでその立証が難しくなり、(前注2)において「具体的な規律を立案するにあたっては、配偶者からの暴力や父母による虐待がある事案に適切に対応することができるようなものとする」との規定があっても、そもそも当該事案としての対応を受けられないおそれがあるし、新たないやがらせ、DV・虐待を引き起こすことにもなりかねないからである。



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