辰砂の色の女の子
あたしの家の棚に、とても美しい赤色の花瓶があります。
真っ赤、深い赤、まさに深紅と言える色で、スカーレットです。これは辰砂という古い顔料を使って染めた品物。
あたしは貧乏人なので骨董屋なんかは行かず、メ〇カリで美術品を買うので、価値を知らん出品者から安く買いましたが、まともに買えば20万はするでしょう。
なぜこんな話をしているのかと言うと、今日はどうしたって深い赤色を見ていると、色々考えてしまうからです。
さて、花瓶を見ながら独り語りを続けます。
先ほどチラッと話題に挙げた辰砂というのは、主に中国で多く採れた顔料です。原料は赤い鉱物。絵の具の材料なんかによく使われたものですが、とても高価でした。力強く高貴な赤色は、その高価さも相まって多くの人を引き付けたわけです。
赤色を見るとあたしたちは明るい気持ちになったり、熱い感情がわいたりします。これは心理学でも実証されていて、「寝れなくなるから寝室に赤いものは置くな」なんて話もあるくらいです。程度の問題で人間も闘牛の牛と大して変わらんわけです。
まだ花瓶を見ています。
花瓶といっても一輪挿しですから華奢なデザインで、曲線が多くて女性的です。けれど、燃えるような赤色。力強く、堂々としていて、誇らしそうな印象すら受けます。
なにやら美術の本をそのまま真似したみたいなことを言ってますけど、あたしはオタクですから、次にはこんなことを思うんです。
せつ菜みたいな花瓶だなとか。
買ったときはダイヤの色だからとか、それもまた馬鹿なことを言って買ったのですが、今はせつ菜に見えます。
ただ、この辰砂。
実は恐ろしい鉱物でして、こいつには水銀が含まれております。
しかも、さら大変なことに、これは大昔は漢方に使われていたのです。
察しのいい人はもうお気づきかと思いますが、始皇帝が水銀を薬にして死んだというのは、この辰砂が原料の薬だったと言われています。
強く堂々とした赤は人を魅了します。
しかし、その輝きが時に毒となって人を破滅させる。
これもまた、自らの熱で同好会を一度壊してしまった、せつ菜のことを思い起こさせるわけです。
花瓶から目を離して、散らかった部屋を見ます。
あたしは赤色が好きな方ですから、何枚も赤い服が掛けてあったり、投げてあったりします。
どれもそんな高いもんではありません。
辰砂は大航海時代以降に、代用となる顔料や染料が多数出てきて、赤色のものが高級品なんてことはなくなりました。
当然、あたしたちは服屋でも雑貨屋でも、白と赤を値段ではなく好みで迷えます。
赤は特別な色でもはなく、誰にだって手に入れられる色になったわけです。
大好きに燃えるあの色は、誰にだって手に入れられる色です。
なら自分も、そんな赤色の心を手に入れたいと、そんな風に考えてしまうわけです。
ただ、今日まで見てきたステージのせつ菜は、
あの赤く赤く赤く大好きを燃やすせつ菜は、
あたしにとって、そんな簡単に手の届く赤色ではありません
今日までのあのせつ菜は、いつまでも特別な赤色
辰砂の色の女の子です
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