【ラブライブ!服飾史シリーズ】ユニットシャッフルの衣装を読む! 90年代で〝リンク〟するコーデ お茶会はヴィクトリアンに


巧みに散りばめたコンテクスト

  1カ月に渡って話題をさらった蓮ノ空のシャッフルユニット。その集大成の2月度フェスライブも大成功に終わりましたが、ここはこのシリーズらしく、その衣装に注目していきましょう。
 3ユニット共に個性あふれる衣装です。花帆と慈は可愛いを体現するかのようなピンクのフリルドレス、綴理と瑠璃乃は部屋着風のパーカーが印象的、梢とさやかは瀟洒なドレスで上品にまとめています。キャラクター、ストーリー、曲調によくあっている衣装で、表面だけを見ても十分にメッセージが伝わってきます。
 ただ、服飾的な知見で見れば、さらに深い意味がこの衣装には隠されているのです。実は真逆のように見える花帆・慈と綴理・瑠璃乃の衣装には、意外な共通点がある。梢とさやかの衣装に垣間見える英国文化の香りとは。
 今回はこの二つに焦点を当てて解説していきます。


花帆・慈と綴理・瑠璃乃 90年代原宿の二つのトレンド 「結局仲良し」を服で知る

 まず、花帆と慈から見ていきましょう。
 テーマが「可愛い」「楽しい」なだけに、女の子の夢を詰め込んだような全身ピンクのドレスです。裾に向かって段をつけてフリルがあしらわれた、いわゆる姫系のシルエット。ここからイメージするのはただ一つ、「ロリータファッション」でしょう。
 

可愛いを体現するピンクとフリル


 ロリータファッションは日本が世界に誇る「KAWAII」カルチャーの代表例の一つです。ディズニーやおとぎ話の世界のような、西洋風のプリンセススタイル。諸説あれど70年代頃に萌芽の兆しがあり、90年代に発展期を迎え、0年代頃に雑誌「KERA」や様々なムック本を通してさらに広まったと言われています。派生形も多く生まれ、ゴシック様式を取り入れたダークな「ゴシック&ロリータ」、そこにタータンチェックやハードなアクセサリーを加えた「ゴスパン」(ゴシックパンク)などがあります。

90年代頃と思われるロリータファッションの女性


 服以外の注目点はキャンディなどのお菓子を模したアクセサリー。これは02年に設立し、原宿を拠点に大ブームとなったアクセサリーブランド「キューポット」の影響を感じます。スイーツを模したアイテムが人気で、アラサーからアラフォーの女性には思い出深いのではないのでしょうか。二人の打ち出したテーマにぴったりなブランドです。

キューポットのアクセサリー


 それと首に巻かれたチョーカー。ハートのモチーフを取り入れることで可愛く昇華しているとはいえ、ピンクのドレスに合わせるには少しハードな印象。ここにゴスパンの要素も感じて、より原宿感が際立っています。
 一方、つづるりの衣装。二人が打ち出したゆるい楽しさを表す部屋着風のパーカーがメインのスタイルです。とはいえ、それだけでは本当にただの寝間着に毛が生えた格好になってしまうので、チェックのネルシャツをパッチワークにしたような服を中にレイヤードし、華やかさと立体感を出しています。足元はコンバースのオールスターのようなスニーカーで再び脱力感、カジュアル感を出しています。

部屋着とネルシャツを組み合わせた衣装


 ネルシャツから想起するのは昔ながらオタクでしょう。それがインドアで一人が好きという要素にもつながるわけですが、ネルシャツには別の意味合いもあります。
 それは古着、アメカジの定番アイテムということ。こちらも90年代の古着ブームで大流行し、渋谷を拠点に原宿にかけてを闊歩した若者の人気アイテムになりました。また同時期にカリスマ的な存在だったロックバンド「ニルヴァーナ」のボーカル、カート・コバーンがヨレヨレのネルシャツとダメージジーンズを好み、音楽ジャンルである「グランジ」がそうしたファッションのスタイル名として確立した点も見逃せません。要するにこちらも非常に90年代的かつ、原宿的なわけです。

90年代は古着、グランジファッションが流行


 今回のストーリーの根幹は仲良しなみらくらぱー!の意見のすれ違いにありました。それを反映するように衣装も真反対のテイストになっています。しかし、服のトレンドの歴史を紐解けば、ほぼ同時期に同じ場所で流行ったファッションにルーツを持っている。すれ違っても二人の根っこは同じ。そんなメッセージを衣装に込めたのであれば、天才的な采配だったと言わざるを得ません。

梢とさやか お茶会は優雅に ヴィクトリア朝のティードレス

 続いて、梢とさやかの衣装です。
 落ち着いた色調にしたメンバーカラーの緑と青のドレス。ウエストは高い位置でキュッと絞られ、胸元、袖、裾にはシンプルで品の良いレースという、正統派なお嬢様スタイル。優雅なお茶会にぴったりな衣装です。

瀟洒なドレススタイル


 お茶会と言えば紅茶、紅茶といえば英国。ゆえにこの衣装には英国、それも大英帝国が最盛期を迎えたヴィクトリア朝の時代の要素がふんだんに盛り込まれています。
 注目すべきは詰まり気味でレースのあしらわれた襟元、ウエストを絞りつつ下半身にド派手なボリュームを出しすぎないシルエット。これはヴィクトリア朝の1870年代頃から出てきたコルセットを使わないで(または緩めて)着るドレス、ティードレスに由来すると思われます。その名の通り、お茶会を楽しむ用の少しリラックスしたドレスです。

ヴィクトリア時代のティードレス


 それまでの女性のドレスと言えばコルセットでアホみたいにウエストを締め上げて、裾にクリノリンと呼ばれる骨組みのような物を入れて膨らませるスタイルが多かったので、ティードレスは斬新な衣服でした。お茶会を開くような貴婦人の服ですから、当然カジュアルな服とは言い難いのですが、そんなお嬢様が少しだけ一息つけるドレスは、〝休日〟のテーマに相応しいでしょう。

おわりに

 今回は蓮ノ空のシャッフルユニットの衣装を服飾史的な観点から解説しました。
 とはいえ、あたしがお見せしたのは見方の一つでしかありません。他にも様々な視点、知識からのアプローチがあります。例えば先日、ツイッターでは梢とさやかの衣装が英国の茶器メーカー「ウェッジウッド
」の定番品と同じという指摘がありました。見比べてみると、本当に全く同じです。
 こうした衣装の見方は本当に楽しい。
 いや、見るのに加えて、自分の持っている知識や経験で〝読む〟と言った方がいいかもしれません。
 みなさんも自分の好きな物への知見を生かして衣装に向き合うと、思ってもみない発見があるかもしれません。
 見つけたら教えてくださいね!
 

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