【ラブライブ !服飾史シリーズ】 衣装の読み方を知ろう 組み合わされたコンテクスト 隠された意図を導き出せ!

衣装とはコンテクストの組み合わせである

 ライブの楽しみの一つに衣装があります。いつもとは違う推しの姿を拝めるものであり、キャラとキャストの境界をより曖昧にするツールでもありますね。
 衣装も身につけるものですから服の一種なわけですが、日常で私たちが着ている服とはデザインや使う生地の派手さがかなり異なります。どんな美人であれイケメンであれ、コスプレ以外でライブ衣装を着て外を歩いてたら確実に周りから注目を集めることでしょう。
 ただ、この注目を集めることがライブ衣装の一つの目的です。ステージに立って踊るわけですから、何千何万のオーディエンスから注目されなければなりません。曲や作品のテーマにもよりますが、基本的には派手な方がいいわけです。
 さらに、衣装にはもう一つの大切な役割があります。それは着ている演者のパフォーマンスを象徴するというものです。キュートな曲をやるならキュートなドレスを、クールな曲ならシックなスーツを着るかもしれない。これがチグハグだとパフォーマンス自体がチグハグになる。
 この象徴するという役割をハイレベルに全うするためには服飾全般の深い知識が不可欠になってきます。デザイナーってのはその道のプロですから、日々それをどう打ち出すか頭を悩ませているわけです。例えば、可愛い曲と言っても可愛さには色んな形がある。それを服に落とし込むためには、服というものがそれぞれ持っているコンテクスト(文脈)を読み、組み合わせていくことが重要になってきます。
 話が難しくなってきましたね。ただ、案外みんな普段から無自覚にやっていることです。
「昔ながらのオタクを頭の中に思い浮かべて!」
 はい、今あなたの意識の中にメガネをかけてチェックシャツを着てビミョーな色落ちのジーパンと運動靴を履いたオタクが現れたでしょう。
 今あげたアイテムの一つ一つは取りに足らないただの服です。ただ、こうして組み合わせるとオタクというキャラクターが成形される。これが服のコンテクストの組み合わせです。
 さて、実感してもらったところでここからが本題です。今回はラブライブの中から私が選んだ三つの衣装の「読み方」をご紹介していきましょう。

Aqours『Sky Journey』 空を飛ぶための服

下半身にかけて丸みとボリュームがある

 まず見ていくのはAqoursの『Sky Journey』 の衣装です。
 腰から下に向かってボリュームと丸みを帯びていく独特のシルエットが特徴的。発表当時はその攻めたデザインで話題になったのを覚えている人も多いでしょう。
 ぱっと見感じるキーワードとしては「スポーティー」「近未来」「ストリート」などでしょうか。ただ、あたしが感じたのはフライトジャケットっぽいなということでした。
 フライトジャケットとは何か?これはミリタリーウェアの一種で、戦闘機乗りや爆撃機乗りが機内で着るジャケットです。代表例は何といっても『MA-1』でしょう。定番だし定期的に流行るし持ってるよ!って人も多いはずです。
 50年代に米空軍が採用したジャケットで、最大の特徴は着丈が短く丸みを帯びたシルエットです。これは狭いコックピットで邪魔にならないようにする工夫だと言われています。
 パイロットの服?丸みを帯びた?
 そう、ここがSky Journeyと絡むコンテクストです。空の向こうの新しい場所を目指して旅に出る歌詞と極端に丸みを帯びたシルエット。MA-1とSky Journeyに関連性が見え始めてきます。
 さらによく見ると衣装のトップスは丈が短く袖にゆとりのあるブルゾンタイプで、そこも少し似ている。しかもキャストが着用する3次元版では、MA-1に似たナイロン生地が採用されていました。
 ディテールも無視できません。胸元から腰にかけて伸びているコードに注目。実はMA-1は初期の物のみ、無線機のコードを通すための小さなパーツが縫い付けられていました。これはヘルメットの技術革新と同時に無くなるので、ビンテージオタク的にはちょっと刺さるディテールです。このコードはそれをオマージュしてつけたのかもしれません。

無線コードを通すパーツはかなりマニアックなディテール


 空の向こうへの旅をテーマにした曲だけに、フライトジャケットに着想した衣装にしたというのは、決して考えすぎではないと思っています。

上原歩夢『Walking Dream』 ストーカー?いいえ、探偵です!

探偵を思い浮かべる衣装

 続いて見るのは上原歩夢のソロ曲『Walking Dream』。
 「怖いと思うのは愛が足りない!」とキャスト自らお怒りになったとはいえ、どう聞いてもストーカーなのでめちゃくちゃ怖いんですが……となる曲ですが、故に衣装が本当にいい仕事をしています。
 これはめちゃくちゃわかりやすい部類なので、意図を読み取れた人も多いんじゃないでしょうか。
 バーバリーのノバチェックを思わせるチェック柄のついた小ぶりのケープに、同じくバーバリーのトレンチを連想させる淡いベージュのワンピース。ウエストをベルトで締めるのもトレンチコート風。
 ここから連想されるのはインバネスコート(マント型のケープのついたコート)をはためかせてロンドンを歩くあの男。そう、名探偵シャーロック・ホームズです。ちなみにホームズが原作でインバネスを着ている描写はないので、これは後年の二次創作設定が定着した結果のイメージだと言われています。
 とにかく、あたしたちはこの英国風のケープ付きコートを見るとコンテクストの蓄積によって、探偵を想起してしまう。探偵といえば?尾行だね。ワトソンくん。

ホームズといえば……


 つまり、明らかにストーカーの曲をやるにあたって、探偵風の衣装を着せることで尾行ってことにしてしまったわけです。探偵の小道具として有名な虫眼鏡を双眼鏡にしちゃうところも洒落がきいてます。
 そう思うと「なんだぁ、探偵だったのか」となって怖くなくなり、ませんね。

桜坂しずく『オードリー』 憧れのファッションアイコンに捧ぐ

 最後は桜坂しずくのソロ曲『オードリー』です。テーマは言うまでもなく大女優オードリー・ヘプバーン。往年のスターを想った曲らしく、クラシックなトレンチコートと傘が特徴的です。
 さて、オードリーですが大女優としてだけでなく、時代を超えて愛されるファッションアイコンとしても非常に有名です。サブリナパンツ(細身のクロップドパンツ。『麗しのサブリナ』の衣装に由来)など、その影響は数えきれません。
 当然、オードリーの衣装にもその影響が見られます。何よりも赤いコート。これは恐らく、「オードリーといえば?」でまずあげられることの多い、ジバンシィの真っ赤なスタンドカラーコートに由来していると思われます。

オードリーといえば真っ赤なコート


 ただ、衣装の形はスタンドカラーではくトレンチコートタイプ。ここにも理由があります。「私が選ぶトレンチコートのベストドレッサーといえばオードリー・ヘプバーンだね」と話したのは、かつてバーバリーのデザイナーを務め、見事にブランドを再生させ、あたしも愛してやまないクリストファー・ベイリー。「オードリーといえば?」のもう一つのアイテムにはトレンチコートがあるのです。つまりこの衣装はオードリーのイメージを形作る二大アウターのミックスなのではないでしょうか?
 となれば、靴はフェラガモのストラップ付きフラットシューズ、その名もまさに「オードリー」を合わせたいところですが……、そうすると146.5センチくらいになっちゃいますね。可愛いけど!

終わりに

 今回は衣装とはコンテクストを組み合わせてパフォーマンスも象徴するものであるという視点で、三つの衣装の読み方を解説してきました。
 このシリーズでは毎回最後に言っていることですが、私の読み取ったことが正解かは、デザイナーさん本人にしかわかりません。
 ただ、せっかくのライブでせっかくの衣装です。「この衣装にはどんな意味が込められているのかな?」なんて思いながら観ると、ちょっとだけ楽しみが増える。
 皆さんもぜひ挑戦してみてください!

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