【ラブライブ服飾史シリーズ】KALEIDOSCORE『ベロア』 テキスタイルから見る歌詞の巧みさ
『ベロア』ってなんだ?
発表と同時に超高評価を受けているKALEIDOSCOREの『ベロア』。
ジャジーで大人っぽくておしゃれ。それでいて切なさを帯びた楽曲に「こう来たか!」となった人も多いでしょう。
さて、この新しい名曲の歌詞にはとある特徴があります。一度も表題の「ベロア」という単語が出てこないのです。
てか、そもそも「ベロア」って何よ?って方もいるでしょう。
これは結論から言うと、とあるテキスタイル(布)の名前です。
いったいどんなテキスタイルなのか。
実は、それを知ることでこの曲の歌詞に込められた巧みな仕掛けを読み取ることができるのではと、あたしは考えているわけです。
ラブライブ服飾史シリーズ。
今回は「ベロア」というテキスタイルの正体から、楽曲の魅力を探っていきましょう。
家のタオルを触ってみよう
何のこっちゃね、この中見出しは。
そう思うのも当然でしょう。
ただ、みんなの家にあるタオルこそがベロアの正体に至る第一歩なのです。
さて、箪笥からか風呂場からかはわかりませんが、手元にタオルは用意できましたか?その表面をジッと見つめてみてください。
表面がたくさんのループ状になった糸で構成されているのがわかるはずです。これを「パイル(輪っか)織物」といいます。タオル生地のことを「パイル地」って言いますもんね。こりゃラブライバーなら全員ご存じでしょう。
さらに織物は経糸と緯糸を交差して作ったものでして、タオルは経糸をループ状にしたものなので「経パイル」と呼ばれています。ややこしくなってきましたので、とりあえず「へ~」でオッケーです。
ここからが本題。
タオルに代表されるパイル織物ですが、このループをカットしてしまう技法があります。輪っかをカットすることで毛足が立って光沢があり、肌触りも優しい非常に高級感のある素材に仕上がります。それが「カットパイル」と呼ばれるもので、代表例が「ビロード」(ベルベット)です。学校の体育館のステージのカーテン幕を思い出してください。あれがそうなんです。
このビロード。高級素材の筆頭でして、13世紀頃より王侯貴族のお召し物に使われていました。原料もシルクが多く、南蛮から輸入して織田信長が着たなんて話もあるほど。当然、今日も高級品の地位を守り続けています。
「ベロア」はニット
テキスタイルは織物と編み物の二つに分けられます。
業界では織物を「布帛」、編み物を「ニット」と呼ぶことが多いです。ニットというとセーターや手袋だけを指すと思う人も多いでしょうが、Tシャツも靴下も織らずに編んでいるので広義のニットなのです。
さて、先ほどベルベットは非常に高級と言いましたが、時代が下るとパイル編みが可能な機械が開発されます。織るのに比べて格段に安く早く作れるわけです。その編地の輪っかをカットしてベルベットのような風合いにした生地。そう、これが「ベロア」です。
近代以降はシルクのような光沢を安価に表現できるポリエステルなどの合成繊維もありますから、ベロアはお求めやすい価格で量産できます。そのうえ、高級感と肌触りのよさ、そして何となくのエロさ(個人的感想です)があるため女性向けのパジャマで非常に人気のある素材となったのです。
歌詞に込められたギミック
もうピンと来た人もいるかもしれませんね。
KALEIDOSCOREの『ベロア』の歌いだしを思い出してください。
「ねえ、夢でまた会えたね」
寝起きの瞬間の第一声。片思いの相手と過ごした夢から覚めたアンニュイな朝。ベッドの上、温もりを思い出す身体を包むのが、柔らかくしっとりとした光沢を帯びた「ベロア」のパジャマなのではないでしょうか?
ベロアがどんな生地で、何に使われることが多いか知っていると、歌いだしからそんな光景を想起できるのです。
そして、それを直接歌詞では描写せず、タイトルだけで匂わせる。
なんという高等テクニック……
正直鳥肌が立ちました。
さらにこれは考えすぎかもしれませんが、ベロアとはある意味ではベルベットの廉価版のような立ち位置でもあります。
高級品のベルベット。たとえば西洋では美しいボーカルの声を「ベルベットボイス」なんて形容することもあるわけです。
そうすると、片思いのまま恋を完成させられないこの歌は、
ベルベットではなくベロアが相応しかったのでは。
そんな気もするのです。
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