前核部、核音調それぞれに出る部分下降の検討

大注意!!本noteの筆者は素人なので本noteの学問的正しさは全く保証できません!!引用部分以外の地の文は参考程度にしてください。

本note以外で、部分下降調に関して扱ったネット上の記事。(サラさんhttps://twitter.com/salah_backpack?s=21&t=7ikbDkR704XzOjadSSLkxQの記事です)

部分下降調のピッチ曲線

話者の声域のうち、最低のピッチレベルまで下がらず中途半端な高さで下降が終わるのが特徴。
部分下降調は、ほかにも、半下降調、下降平坦調などの呼び方がある。


渡辺(1980)「現代英語のイントネーション」p4
渡辺(1994)「英語イントネーション論」p30
根間(1986)「英語の発音演習」p164
牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p94


部分下降調は前核部にも核音調にも表れる。


GAの頭部での部分下降調はおそらく、意味上はGBのデフォルト頭部とされる高頭部(complex含む)に対応し、GAの中平坦調が複合頭部になったときの前核型として、平坦調の異形と見れそうな一方で、
核音調の位置に出ると、GA・GBともに、下降上昇調の異形と見れそう。
根拠は以下。

核音調に出る部分下降調


①SSBにおいて発話速度の影響で下降上昇調がclippingされたことによるもの

この時、segmentalのconnected speechで起こるような子音連続での子音脱落のように、省エネの結果として、super segmentalにおいても、low pitch がomitされていると考えられる。(結果的にhigh→low→midから、high→midとなる)

Geoff Lindsay (2019)「English after RP」p106 

contemporaryとあるので、RPではそうではなかったのかを確認するために、渡辺(1980)「現代英語のイントネーション」を参照した。このころのGBが純粋なRPだったかの議論はいったん端に置く。
第七章BBCニュースのイントネーションで、文末以外の音調群の647例中、部分下降調は1例とのことだった。そのほか小説朗読や詩朗読についても、それぞれ数例ほどであり、全体として確かにほとんど用いられていなかったことが分かった。
ただし、natural running speechの典型であるダイアログの調査はなかったため、絶対にRPでは非文末の部分下降調が用いられることが稀であったと結論づけることはできない。

②pre fortice clippingによって下降上昇が変形したもの(GA,GB共通?)

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」 p118

音調句最末音節で、無声子音をcodaにとる核音節に出た下降上昇調もclipping によって、部分下降になる?
この場合は、low pitch が省略されるというよりは、low pitch に至る前に声が切れてしまうから?(high→(mid→)→low→mid2の、(mid→)までで切れる。)
セグメンタルレベルの環境によるものであるから、GAだけでなく、GBでも同様の現象は想定できそうである。


③GAの部分下降調

GAの部分下降調については、以下の記述がみられる。

渡辺(1994)「英語のリズムとイントネーションの指導」p134
渡辺(1994)「英語イントネーション論」p151

GBに比べて、非文末核として多く用いられるうえ、さらには文末核としても多く用いられることがあることがわかる。

④核音調としての部分下降調は下降調・平坦調・下降上昇調のどれが近いか

④-1音響的(ピッチ曲線的)側面
最初に示した、牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p94からは、(高)下降調の一種と読み取れる。
渡辺(1994)では、(高)下降調の一種と考えられるとしている。平坦調の一種とする解釈も示されている。

渡辺(1994)「英語イントネーション論」 p151

根間(1986)の説明では、発話速度の影響によって下降上昇調と部分下降調の現れ方に傾向があるとして、下降上昇調を引き合いに出している。これは、Geoff Lindsay(2019)の説明と似ている。
そもそも、下降上昇調のlow pitchが、早い発話ではレベル1からレベル2にまで上がりがちであるとあり、これを加味すると、3or4→1→2といった下降上昇調の底のlowピッチの1が、発話速度の影響で2まで上がれば、3or4→2→2となって、部分下降調が現れるというのは妥当な説明といえそうである。
また、平坦調の異形と考えられる可能性もまた読み取れる。
(ちなみに付属カセットの吹き込み音声の部分下降調の音調記号がある音声をwasp2でピッチ曲線を確認したところ、ほとんどが綺麗な下降上昇調であって、表記と異なっていた。残念。)

根間(1986)「英語の発音演習」p164
根間(1986)「英語の発音演習」p165


根間(1986)「英語の発音演習」p166

渡辺(1995)の下降上昇調の図も参考になる。

渡辺(1995)「コミュニケーションのための英語音声学(改訂版)」p122

笹原(1956)「英語イントネーションの構造」でも発話速度との関連の指摘。

文中で起る休止前の2ー3は2-4-3となる場合が非常に多い。これは特にゆっくり説明する場合に起るもので、教室では教師がゆっくりと読んでやる場合などに用いられる。

笹原(1956)「英語イントネーションの構造」p93



④-2意味的側面
非文末の位置に出る部分下降調に関しては、

この音調の聞かれる場所は何といっても非文末位置であり、「未完」「継続」を表す。

渡辺(1994)「英語のリズムとイントネーションの指導」p134

働きは下降上昇調に似て、やや含みを感じさせる。

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p94

とあり、非文末での意味としては平坦調や下降上昇調や上昇調に似ていると言える。
文末核に出る意味としては、

1、「ためらい」の意味が含まれていることもある。~中略~
2、陳述文とか命令文をやわらげる働きもあるので、この音調は命令文を一層丁寧な「依頼」に変えることもある~中略~
3、文末核でも「未完」の印象を持つことが多く、疑問を投げかけた直後自分で答を提示するような形式の中で用いられることもある~中略~
4、<米>では「警告」的な意味を持つときに用いられるが、~中略~「おどけた」感じを出す。~中略~
5、「脅し」のふくみがあるとこともありうる

渡辺(1994)「英語イントネーション論」p152

このなかで、1・5は含意的下降上昇調の機能に似ていそうである。
2も、例えばDon't cry baby.などでfrendly やreasuringの意味でつかわれる上昇調やpleading やpersuadingの意味で用いられる分離下降上昇調に似ている。
3は非文末同じく、平坦調や下降上昇調や上昇調に似ており、
4は他ではどの核音調の機能に近いだろうか。私はパットは思いつかなかった。完全に部分下降調特有の機能だろうか。

文末におけるこの音調は<米>では中・高の教科書にもよく出てくる日常慣用表現、たとえば、別れの挨拶(So long, Good night)、呼びかけ語、感謝の言葉の返答(You’re welcome)、軽い謝罪(Sorry)などでも比較的ひんぱんに用いられるので、アメリカ英語の習得には必須の音調である。

渡辺(1994)「英語のリズムとイントネーションの指導」p134

渡辺(1994)では実際の音声が示されていないので判断が難しいが、米で特有と示されてはいるものの、私は、これはJ.C.Wells(2006)にあるような、様式化された高平坦-中平坦型に該当するものではないかと思った。

J.C.Wells(2006)「English intonation」邦訳版p362

するとこの部分下降調もまた、下降上昇調の異形としてとらえられる可能性がある。

J.C.Wells(2006)「English intonation」邦訳版p364


J.C.Wells(2006)「English intonation」邦訳版p364

また、別れの言葉は、池本(1977)によると、米語で下降上昇調をとる場合もある。そういった意味でも下降上昇調の異形と見るのは正しそうである。


④-3まとめ
④-1音響的(ピッチ曲線的)側面からは、分類として、(高)下降調の異形、下降上昇調の異形、平坦調の異形のすべてが想定できる。
ただし、下降上昇調が、発話速度の影響で変形したものであるという説明は一定の妥当性があるように思われる。
④-2意味的側面からは、下降上昇調に似たような機能が多いと考えられる。

これらを合わせると、部分下降調は、下降上昇調の異形であるという見方がそれなりに妥当そう。

前核部に出る部分下降調


➀GAでは部分下降調(の繰り返し含む)の前核部は典型的?

松坂ヒロシ(1986)「英語音声学入門」p186

松坂ヒロシ(1986)p186は、ようは内容語全部にアクセントを置くもとで、デフォルトな前核部について、
GAでの部分下降調を繰り返すのと、GBで階段頭部で言うのとに互換性がある(セグメンタルの異音などに相当するような異形頭部とでもいうべきもの)
と言う主張に思える。
ところで、この主張の下では、GAの「部分下降の繰り返し」を、単純高平坦頭部と対応させるのはまずい。
後に述べるが、cuttenden(1997)「intonation(second edition)」や、J.C.Wells「English Intonation」では、独自のピッチ変動を持つかどうかがアクセントを持つかで重要である。
単純高平坦頭部はアクセントがオンセットのみだが、「」はアクセントを複数持つ複合頭部。
つまり、対応させるべきは階段頭部(複合高平坦頭部)。

以下の渡辺(1980、1995)でも似たような記述がみられるが、GAのデフォルト頭部については、レベル2ピッチの平坦調の繰り返しと、その単調さを避けるために部分下降の繰り返しが用いられ、特にwh疑問文の疑問詞に部分下降が来るパターンは頻出であることがわかる。

渡辺(1995)「コミュニケーションのための英語音声学(改訂版)」p118


渡辺(1995)「コミュニケーションのための英語音声学(改訂版)」p119

cuttenden(1997)や、J.C.Wellsなどの定義でのアクセントは、ピッチが話者の前頭部によって定められるベースラインより上に来た最初の語彙項目が来たとき、ピッチ変動を持っているとみなしてオンセットにする。
が、米語の場合、前頭部から頭部へのステップアップは典型的には起きないため、このようなアクセントの定義では、riverのriのみにアクセントがあることになってしまう。(swimにピッチ変動によるプロミネンスがないため)
これでは、イギリス英語の前核部と対応が取れないため、形式的に、最初の内容語(ここではswim)にアクセントがあるとみなすのがよさそう。
すると、渡辺(1995)p119での子の平坦な前核型は、swimがオンセットをもって、中平坦調をとった単純頭部といえそうである。(ちなみに、牧野(2021)の転写だとこの図の型はおそらく第一アクセントの連続となりそうで悩ましい。)

以下は笹原(1956)「英語イントネーションの構造」の記述である。
デフォルトとしての前核部は3ー平坦調の平坦調であり、さらに潜在的アクセントをもつ音節を2-3の部分下降に変えることで、リズムを作り単調さを改善することができるとある。
このとき、長めのY/N疑問文あるいは陳述疑問文では、部分下降(2-3)を持つ強勢のピッチを下げる、すなわち部分下降の型線をそのまま下にスライド(低下降調(3-4))し、その前型線のピッチもそれにともなって3ーから4ーに下げるとされている。
ここでは、4のピッチが最低。

2-4と共に用いられる前型線は3ーが意味の上で最も色彩がなく無難なものである。しかし、長い前置きになる部分、即ち、無強勢あるいは強勢が抑制された音節群に、こればかりを用いると単調になりやすい。特に、その部分をゆっくり発音する場合は単調になってしまう。~中略~
この単調は「未終結」を意味する2-3を最後の語以外に用いることによって救われる。~中略~
2ー3は文尾に来る語以外の強勢のある語どれにも用いることができる。~中略~
疑問詞で始まらぬ疑問文で、最後の主型線の前に来る音節の中で強勢の置かれるものが全然抑制されて3ーでおおわれては不自然になり易いからである。この強勢を置かれる音節には3-4をもちい、その前型線として4ーを用いることがこの不自然さを救う。

笹原(1956)「英語イントネーションの構造」p76



以下は渡辺(1980)のアメリカ英語のニュースでの記述である。ただし、笹原(1956)とは、pitch phonemeの番号づけの高低が反転していることに注意。上記アクセントの定義のもとでは、かなりdeaccentされている語彙項目が多いことに注目


渡辺(1980)「現代英語のイントネーション」p147
渡辺(1980)「現代英語のイントネーション」p148


以下はアメリカ英語の小説朗読での記述である。

渡辺(1980)「現代英語のイントネーション」p205


渡辺(1980)「現代英語のイントネーション」p195


渡辺(1994)「英語イントネーション論」p181

Teschner & Whitley (2004)「pronouncing English a stress based」 approach」はアメリカ英語について書かれた文献であるが、部分下降調と見られる前核部が示されている。
弱音節だけでなく、may(第3強勢?)も谷に落ちている点にも着目。


Teschner & Whitley (2004)「pronouncing English a stress based approach」p79

Speaking very generally,the melodic line of English rises on a strong-stressed syllable.English intonation rises two or more notes ,but on a null-stressed syllable it falls a note or more.

Teschner & Whitley (2004)「pronouncing English a stress based approach」p79

②前核部で、部分下降調か平坦調かは微妙なことがある。?

以下、牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」の記述を引用し解釈する。この文献は、全編アメリカ西部アクセントのナレーターによって吹き込まれているため、GAに関する記述であると判断した。

まずpre primary stressに関しての以下の記述から。

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p27
牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p32

語アクセントは、単独で語を発話するときの文アクセントでもあるため、p27は前核部では、文アクセントにおいても、文アクセント
を受けている音節は中程度の平坦調を取る可能性が高そうだと読んだ。
p32では、矢印をつけないのは、前核部に現れる音調として、平坦調が最も普通であるからではないかと思われる。事実、第二部実践編の例では、7.4下降上昇調アクセント+下降調による交替リズム、7.5反復リズムの章を除き、前核部の第一アクセントでは平坦調が最も出現頻度が高くなっている。

ここまで牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」 p32、33

ここでは、牧野 武彦(2021)では、文アクセントにおける第二アクセントは、4段階強勢の典型的な定義における、第三強勢に相当するものがほとんどであることに注意する必要がある(全てではない。)。独自のピッチ変動を持たないという点は、弱アクセントと共通していると言える。このことは、第二部の例の検討と、以下のpost primary stressの記述から私が判断したもの。

強アクセントを2つ含む単語:第一アクセントが先の場合~中略~
第一アクセントはもちろん音調の開始点となります。第二アクセントはピッチ変動という観点からは弱アクセント同じく独自の動きを持たず、第一アクセントから始まる音調の動きの一部となります。~中略~
実際上、この位置の第二アクセントと弱アクセントの違いは、~中略~含まれる母音が強母音なのか弱母音なのかで決まると言えるでしょう。

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」 p26,27

ここでwantからmoreのピッチ曲線をみると、下降があり、freeやusで見られる最低ピッチを1レベルとすると、declinationを加味しても、wantからmoreに3→2の下降、すなわち部分下降のラベリングをすることも可能でありそうである。が、ラベリングは平坦調になっている。

他の例をしめすと、

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p87

のsavedからenough、

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p105

savedからthe childs

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p97

mindからshowing me the

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p102

eからver get

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p120

what からkind of 

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」

hand からme the

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p199

there からis a limit to 

牧野 武彦(2021)「文レベルで徹底 英語発音トレーニング」p161

soonからas I said 

など、部分下降調でラベリングしてもよさそうだが、平坦調でラベリングが行われている例が多く見つかる。
これは、牧野 武彦(2021)は基本的に部分下降調を核音節だけに用い、また前核部では、第一アクセントに比べて第二アクセントと弱アクセントに対して、ステップダウンを認める体系にしているためと考えられる。

第三強勢(牧野 武彦(2021)の第二アクセントの多くに相当)に第一第二強勢(牧野 武彦(2021)の第一アクセントの多くに相当)に対してステップダウンを認める記述は、伊達(2021)にもみられる。

伊達(2021)「実践的な英語の学び方.教え方:通訳修業、GDM教授法、 イントネーションの視点から」p301

池本(1977)「リズム論を中心とした英語音声学」にも、同様の記述がみられる。前後の文脈から、すくなくともGAにおいては適応できる記述だと判断した。ここでの四段階強勢は、竹林(1996)やcruttenden(1997)などとは多少異なるものであると思われるが、第三第四強勢に第一第二強勢よりステップダウンを認めている点は、牧野(2021)や伊達(2021)と共通している。

池本(1977)「リズム論を中心とした英語音声学」p96

強勢の弱化は、長さの短縮と同時に、pitchの下降をひき起こす。~中略~
普通のスピードで話された場合は、weak stressのsyllable(isとa)はtertiary stressのsyllable(he)よりやや下位にあり、secondary stressのsyllacle(good)はtertiary stressよりやや上位にくる。ところが、音素論的には、すべて/2/となるのである。

池本(1977)「リズム論を中心とした英語音声学」p97


池本(1977)「リズム論を中心とした英語音声学」p116


ところで、この体系の下では、松坂ヒロシ(1986)のアメリカ英語の例は、特にall、wayは平坦調と見れる可能性がある。




➂前核部の部分下降調は下降調・平坦調・下降上昇調のどれに近いか。


ここまでの議論を考慮に入れると、核音調の時と違って、前核部では下降上昇調の異形と見る意味は特にないように思われる。
下降調とみるとすると、かなり強調的とされる高下降調の繰り返しとなるような頭部の異形と見ることもできるかもしれない。
しかし、これと部分下降調の繰り返しでは含む意味がそれなりに変わってしまう。
ということで、
1、GBでは階段上の高「平坦調」が複合頭部のデフォルトであることと
2、GAでもステップダウンのない中平坦調の繰り返しがデフォルトの単純頭部として想定できること
3、ステップダウンのない中平坦調の繰り返しと部分下降調の繰り返しでは、聞こえのリズムは変化する(前者は単調)ものの、意味はそこまで変化しない。
4、渡辺(1980)p148のように、アクセントを受けている音節直後で下がるだけでなく、アクセントを受けている語全体で「平坦」に保たれたあと、下がることがある。
ことを考えると、前核部での部分下降調は平坦調の異形と見るのが良さそう。
そして、GBにおいて単純高平坦頭部が複合頭部になると階段頭部になるように、GAにおいては、単純中平坦頭部が複合頭部になると部分下降調の繰り返しになると考えられそう。
ところで、頭部で、4のようにアクセントを受けた語全体で(語末まで)平坦となって、続くアクセントを受けていない音節にステップダウンのある形も部分下降調とラベリングするとする。
このラベリングは、ミシガン式表記法に基づいていると言えるかもしれない。この表記では型線の開始点・終結点・変調点のピッチのみに注目し、これらの中間にある音節における調子の変化は意味との関連上音韻学的に対照的なものではないとして無視する表記である。よって、開始点がHigh or mid Highであること、終結点・変調点がmid lowであることだけに着目し、その間でのどこでドロップが起きるかを無視したラベリングとなる。
すると、牧野(2021)や伊達(2021)のように、アクセントを受けない音節(特に第三強勢)に対して、アクセントを受ける音節(特に平坦調)からのステップダウンを認める必要はないかもしれない。(この時、ステップダウンしている音節は平坦調の尾部ではない。平坦調のピッチ変動を引き継いではいないから。)
なぜなら、そう言ったステップダウンのある音節は副核についた部分下降調の尾部になっているとすれば良いからである。
単純頭部のときは、オンセットは中平坦調だけでなく部分下降調も想定できるが、前者でもいずれにせよThe hat patternが「へこみ」を持っていることが多いことから、「へこみ」の具合が増したとき、オンセットは部分下降調に見えると解釈することも可能でありそう。






④オンセットと核の間の語彙項目がアクセント持つか判断が難しい場合

これに関しては若干余談となるが、私が前から悩んでいることなので、個人的な記録としてこの記事に記す。
問題となるのは図1、2のようなピッチ変化を持つ発話である。
図は村上さんhttps://twitter.com/kiwiinnz?s=21&t=7ikbDkR704XzOjadSSLkxQのTuneEditor(https://mmurak.github.io/tuneEditor/)で作成させていただきました。


図1
図2


で、ここで問題にしているのが、中間のステップダウンしているpieceやtwoがアクセントを持っているかということである。
プロソディでは主に、pitch・duration・loudnessによってプロミネンスを生んでいるとされる。さらに、J.C.Wells(2006)やcuttenden(1997)では強勢とアクセントを区別していて、ピッチによる卓越(変動)がある音節がaccentedであるとされ、ピッチのみでその有無の判断がされる。(これは、牧野(2021)とは異なる。)

cuttenden(1997)「intonation」


私も、基本的にはこの体系がわかりやすいと思っている。というのも、loudnessは言わずもがなとして、durationも考慮してアクセントの判断をするのは、duraitonが影響を受けるセグメンタルによる環境要因が大きすぎるからである。(ちなみに、牧野(2021)の第一アクセント第二アクセントの運別はduraitonも加味して行われており、私には難しい。)
基本的にはこの体系で(GBは?)不都合はないのだが、図1図2などのように、onsetとなる語が語末音節に第ー語強勢を持って、第二文強勢をうけHigh pitchであって(典型的には。渡辺(1980)p148を考慮に入れると、語強勢型に縛りをもうけず、語全部がHigh pitchでさえあれば良いかも。)onset直後の語彙項目がステップダウンを持っているとき、特にGAの音声のアクセントを判定するにあたって、困難が生じるのではないかと思っている。
素直に判断すると、pieceやtwoは階段頭部の中間にいる音節である。なぜなら、onsetにたいしてピッチの変動があるから。
アクセントがないとするならば、Rule of three が適応されて、降格が行われたピッチ変化は図3図4のようになるはずである。

図3



図4

この時、pieceやtwoはピッチによる卓越を失っており、したがってunaccentedであり、典型的にはtertiary stressedである。
ここで、牧野(2021)や伊達(2021)の記述を振り返ると、少なくともGAにおいては、rule of threeなどによって第二強勢から第三強勢に降格した語彙項目はステップダウンが認められることになっている。
よって、GAの転写の際、図1や図2のような音声に出くわしたとき、pieceやtwoは第三強勢であることも想定できそうである。このときのonsetのlargeやoneは平坦調とも部分下降調ともラベリングできそうである。
ということで、pieceやtwoがアクセントを持っているかの判断が難しい。
好韻性の視点から音声を分析するとき、交替リズム(強弱強)のリズムになっているか、強強強のリズムになっているかは、重要な視点となる。
accented→unaccented→accentedなら前者であるし、accented→accented→accentedなら後者である。
なので、pieceやtwoがアクセントを持つかは結構重要な気がする。
結論としては、こういう時は、durationやloudnessを考慮に入れて判断するしかないのかなと思う。
つまり、第二強勢であるlargeやoneに対して、セグメンタルの環境を考慮に入れて差し引いたうえで、pieceやtwoがアクセント足りうる(強強強リズムを作れるような)十分なdurationやloudnessを持っているならaccented(つまり階段頭部)、そうでないならunaccentedとするのがいいのかも。


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