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ネムラナイ庭、の日。

2023.4.14

7ヶ月ぶりに、
父がお世話になっている施設で

月一回、10分間と定められ、
《面会》が再開され、妹とふたり、
父に会いに行った。

その後、ひとり、庭へ。


着いたのは、18時過ぎていた。

10日ぶりの庭は、緑が《爆発》していた。

柏葉紫陽花も、
アナベルも、
ふつうの紫陽花(と呼んでいる)も
葉を、おおきく伸ばし、

楓などの落葉樹も
みな、葉をいっせいに
芽吹かせていた。

ギボウシは、巻いていた芽をほどき、
巨大なシュークリームのように
或いは、高貴なご婦人の帽子のように
ふくらんだように葉を重ね、伸び、

クリスマスローズの新葉は
衛星アンテナのように
わたしの顔ほどの大きさで
空へ向いていた。

百合の芽が、ぞくぞくと
タワーのように、伸びていた。

薄く、土を覆って、
可愛らしい、と思っていた
クローバーは、もじゃもじゃと
互いに茎を絡ませるほどに
密生していた。



10日ほどの前の庭とは
姿が、変わっていた。

まるで、
ひと夏で、背丈が10cmも伸びた、
高校生の男の子のような
一種の、猛々しさがあった。

ヒト、であるわたしは
この、《緑の爆発》に

一瞬、こわくなり

知らない庭みたいだ、と
すこしく、怯んだ。

新しくあがってきた蕾や
薔薇の新芽を見るまえに

日はどんどん翳り、
夜が近づき、ついに闇が訪れ、

わたしは、庭から《追放》された。

『お嬢ちゃん、今夜はおかえり』

てな、そんな感じだった。

庭は、大人になりつつあった。

紫のチューリップが咲いていた。
花穂を伸ばした、アジュガ。


冬の枯れた庭の、
こころもとなさ、が
恋しくなるほどに、

庭は、春を、急いでいた。

部屋へ入り、
ヒトであるわたしは
黙々と飯を食い、

週末の疲れを、
寝床へと、横たえた。

窓の向こうで、
庭は、今も、旺盛に伸びている、
ように、感じた。

(ネムラナイ庭)


ハルキ・ムラカミの新刊を、

6年ぶりの長編小説を
駅前の本屋で手に入れていたので

それをひらき、本の匂いに
眠った。

(ヒトはネムル)



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