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初老なお洋服日記 2024.1.8〜1.14

1.8

パートの日。

昨年末、突然辞めてしまった
60才の嘱託社員の方の代わりに

一年前に退職された70才と
74才の男性が、日替わりで
勤務されることになった、と知る。

お久しぶりです、とご挨拶する。

一気に、平均年齢が
上がった職場である。

なので、55才のわたしなぞ
若造扱いされるのだが

(まだまだ若い、人生の余りは
たくさんある、と言われる)

しかし、わたしの母は
60才で病を得て、4年闘病し、
65才で亡くなった。

(母本人は80才まで
ピンシャンと生きる
未来を信じていた)

つまりは、
そういう人生もあり、

55才のわたしは、
母の人生の長さから計れば、

けっして《若くない》のだ。



と、

無事に70才を迎え、
未だ、働く体力のある大先輩たちの横で

思いながら、黙々と働く。

パートの日は、黒なコーデが多い。
店員は黒子であるから、に、して。


1.9

引き続き、パートの日。

朝、弁当をつくり、
新品では無い、着古した洋服たちを
優しい気持ちで、
身につけ、出かける。


いま、
お洋服日記を付けているのは

ジブンをネグレクトしないため

で、ある。

似たようなまいにち、
古びていく持ちもの
限りあるお金
尽きぬ心配

のなか、でも

まいにちのわたし、を
大切に、すること

を、お洋服からも。


1.10

父の病院の付き添いの日。

年始明けで、とても混んでいた。

朝10時前に出て、
帰宅は、16時過ぎ、であった。


おおきな車椅子を押すので
病院の日は、ごついブーツを履いて

手荷物も軽くして、

そんなお洋服コーデである。

おおきな水玉のセーターは
着ると、楽しい気分になる。


1.11
木曜日パートの日。

初老は、顔や首などは痩せるが
腹部や腰回りは太くなる。

長らく、お腹周りがきつくて
履いていなかったキュロットの
釦の位置をつけかえて、

履くことに、した。

痩せたら、と言っていたら
人生が終わってしまう(可能性がある)

きょうの《わたし》を
わくわくと、良い気分にさせること

それに、知恵を使いたい。

写真と撮るのは、早業で。
構えると、老けて写るから。


1.12

陸奥A子、田渕由美子、桂むつみ
大島弓子、めるへんめーかー

など、むかしの少女漫画が好きである。

そのなかに出てくるファッションが
好きである。

なので、初老になっても

用事が無く、誰にも会わない日は
コスプレなキブンで、

そんなコーデをして、

喫茶店や図書館、本屋さんで
ジブンらしく、寛ぐ。


パート先の、60才で、
急に辞めてしまった男性は、

これを言ったら
あなたは笑うかもしれないけど、
俺はおしゃれがしたい。
会社では出来ない

と、おっしゃったときがあり、

それは、ジブンらしく在りたい

という意味だったのかな、と思う。

(髪を、アッシュブルーに染めてきて
注意されて、自由が無い、と、憤慨していた)

そのとき、わたしは、

休みの日に存分に
好きな服を着たら良いですよ

と、答えてみた。

60才のひとは、黙っていた。

もしかしたら、
それでは足りないくらい

ジブンになりたかったのかもしれない。

内側と外側、の、
問題は深い。

田渕由美子風、コーデ。



1.12

いちにち、アパートで
過ごすつもりだったが、

冷たい一月の雨に
娘が、傘を忘れた、と

職場から、LINEをしてきたので

近くの町まで、迎えに行くことにした。

そうして、ふたりで
夜ごはんを食べて帰ろう、と。

ジーンズより、裏地のある
パンツが、暖かいので、
履き変えて、出かけた。

途中、雨は小降りになり、
町はいっそう冷え込んだ。

居心地の良い町中華に入り
熱々の小籠包を頬張り、

ビールを飲んだ。

珈琲店にも立ち寄り、
わたしはコーヒーを、
娘はココアを、ゆっくり飲んだ。

寒い夜は、寒さを凌ぐこと、が幸福で
他の不幸は寄り付けない、と思った。

一月は白が着たくなるなー。


1.13

いちにち家にいようと思ったが、
(ヒキコモリたかったが)

来週、久しぶりに庭へ行くので、

カイガラムシが棲みついている薔薇を
救うべく、クスリを買いに行った。

小川洋子さんの《密やかな結晶》を
もうすぐ読了のところまで
読み進んでから、出かけたので

なんとなく、

記憶狩りに遭わないように

みたいな、しん、とした
透明なキブンで、

ホームセンターのなかを歩いた。


わたしたちは
記憶狩り、に、すでに
遭っているのかもしれない、

とも、思いつつ。

平かな安心、とか、
温かなひたむきさ、とか
分け合う、とか、は、狩られてしまった。

黒コートは娘のを、拝借。


来週に続く。 
(人生も続く)

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