初老なお洋服日記 1.29〜2.4
1.29(月)
きのうまで居た《庭》の余韻が
まだ、カラダに残っていて、
パートに行くバスのなかで、
朝陽を浴びる辛夷の
銀いろに光る花芽をたくさんつけた
枝を見て、
まるで、燭台ね
あなたは朝を照らしている
と、思わず、呟く。
働きにいくとき、
乗客がほとんどいないバスに乗り、
ちいさなトンネルを抜けて
そこ、へ行くこと
その間に、
開店前に忙しそうな
クリーニング屋さんや
古梅がたくさん、の庭や
りっぱな辛夷の木があるおうちや
菜の花が育つ畑を
通り抜けて行くこと、
わたしをよく理解してくれている
神さま、の采配だと思う。
1.30(火)
朝、起きたら
なにもかもが、
ふと、面倒臭いような、
頭のなかに、
薄い膜がかかっているような、
嫌な感じが、カラダに
湧いていた。
嗚呼、これは、春の憂鬱ですね
(カフンショウ!)
と、ポケットティッシュを
鞄に3つ入れて、パートに行った。
案の定、鼻水ずるずるの日となった。
喉もいがいが。
帰宅して、シャワーを浴び
夕食をつくり、
ようやく、春の憂鬱は落ちつき、
アップルティーを淹れ、
家族の帰宅を待っているあいだに
本を読んだ。
江國香織さんの
《ホリー・ガーデン》
beautifulで、bitterで、
スキトオッテイル、大好きな小説だ。
春の憂鬱と、このオハナシは
何故か合う、と思った。
1.31(水)
休日。
(春の憂鬱用のオクスリを半量飲んで)
八代亜紀さまを慕ぶため、
友人とカラオケに行った。
なみだ恋
おんな港町
もう一度会いたい
などを、歌い
亜紀さまの歌唱の素晴らしさ、
美しさ、優しさ、多才さを語り合った。
歌い終えて、
カラオケルームを出れば
花粉舞い飛ぶ令和の世で、
しかし、
わたしたちは、
マゴウコトナキ
昭和の子だね、
ほんとうだねー、
いつのまにか、令和にいて
びっくりだわー
と、友人と
昭和な喫茶店へ向かい
昭和なカフェオレを
ゆっくり飲みながら
(とても美味しい)
楽しい時間を〆た。
2.1(木)
《春の憂鬱》がひどかった日。
鼻水、くしゃみ、
喉いがいが、が
屋内で、働いていても
勤勉に、襲ってきた。
なんとか、勤務を終え、帰宅。
そういえば、お洋服日記の
写真を撮っていなかった、
と、コートを脱ぐまえに
よろよろしつつ、撮影。
花粉パワーに
茫然自失…の、日暮れ顔。
2.2(金)
今日から3日間は
外へ出ず、
《春の憂鬱養生》をしよう
と、決める。
来週の朗読会の準備もあるので
ちょうど良い。
部屋をすこし片付けてから、
部屋と一緒に、お洋服日記の
写真を撮る。
このあと、ちいさな本を
おうちプリンターで、
かたかたかた、と印刷、製本。
夜、夫が
胃腸の調子が悪い、と
会社から帰宅してくる。
ご飯はいらぬ
休むが勝ち、と
水分だけ摂って、
すぐに寝ていた。
互いに初老なので、
養生が肝心。
2.3(土)
《春の憂鬱》は、
家にこもっていると
調子が多少、良い。
朗読会の栞をつくり、
しばし、読書。
江國香織さんのホリー・ガーデン。
若いひとばかりが出てくるので、
甘い桃みたいな、匂い、が
漂ってくる。(気がする)
🕯️
読んでいたら、
23才の頃、自宅なスタジオで
マクロビオテックな教室を
ひらいていた54才の男のひとに
(わたしは先生だと思っていた)
月に10万円くらいはあげられる
から、そういう仲にならないか?
と、率直に問われ、
無理です、と
明るく答えたことを思い出す。
(先生には、別居している奥さんがいたし
お着物が似合う長年の愛人もいた。
年頃の娘さんもいた)
わたしはあのころ、彼から見たら
水蜜桃みたいだったのかもしれない
と、55才になったわたしは思う。
若いひと、に、性的にコミットして
近づく老い(それはかたちを変えた死)を
払拭したかったのかもしれない、
とも、思う。
その、一年後
わたしは、今の夫と結婚した。
ああいうことを、
知り合った男のひとから、
言われなくなる、のが
この国でする《結婚》の
良いところのひとつ、である
と、若かったわたしは思った。
父の干渉、束縛からも
大手を振って逃れられた、のも
もうひとつの《良いところ》だった。
2.4(日)
立春。
窓べでお世話していたヒヤシンスさんが
蕾をひらきはじめて、
あなたは立春を感じたのね
と、話しかけて、
楽しいいちにちのハジマリ。
いちにち、印刷したり
製本したり、して
日暮れに、夫と
スーパーマーケットに行った。
夫は、お雑煮が食べたいと
ひらめいたらしく、
わたしも、食べたくなり、
ふたりで、お餅を買って
帰って、つくって食べた。
来週へ続く。
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