Kindle本改訂稿「船員職業安定法」の概要
現在kindle版で公開中(ペーパーバック版で販売中)の海の法律専門職「海事代理士」~国家資格と法定業務の概要~の船員職業安定法に関する記述を改訂予定のため該当部分を先行公開いたします。
船員職業安定法
労働者派遣事業を行うためには、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(派遣法)により厚生労働大臣の許可が必要になりますが、船員の派遣事業を行う場合には船員職業安定法により国土交通大臣の許可が必要とされています。
船員派遣事業とは、船舶所有者が自己の常時雇用する船員を、他人の指揮命令を受けて、この他人のために船員として労務に従事させることを業として行うことを指します。
船員派遣事業では、供給元(派遣元)と船員の間には雇用契約関係のみがあり、供給先(派遣先)と船員の間には指揮命令関係のみがある形態を適法と認め許可されますがこれ以外の形態、たとえば供給元(派遣元)と船員の間に支配的な関係がある、供給先(派遣先)とも雇用関係がある、供給元(派遣元)・供給先(派遣先)双方と雇用関係があるような場合は船員労務供給事業として禁止(第50条)されています。
船員職業安定法では、政府が船員職業紹介等を行うことや、政府以外の者が行う船員職業紹介事業等の適正な運営の確保を通じて、船員への就職の機会を与え、海上企業に対する労働力の適正な充足を図り、我が国の経済や社会の発展に寄与することを目指しています。
同法第2章では、まず政府の行う船員職業紹介等について規定し、第3章で政府以外の者の行う船員職業紹介事業等について規定しています。
政府の行う船員職業紹介等(第2章)
政府の行う船員職業紹介等として国土交通大臣は、海上企業における船員募集計画、失業対策、海上労働力の需供の調整、職業指導及び部員職業補導に関する政策等の企画及び監督を行い(第8条)船舶所有者等から援助を求められた場合には必要な助言その他の措置を行わなければなりません。(第13条)
地方運輸局長は、公共職業安定所の業務について協力義務を負う(第10条)と共に出頭困難な求職者の取次、求職者の身元や資格の調査、求人や求職に関する通報の周知等を公共職業安定所に依頼することができます。(第14条)また新たに船員に就職しようとする者等に対して、特別の指導を加えることが必要なときは職業指導を行わなければなりません。(第23条)
政府以外の者の行う船員職業紹介事業等(第3章)
政府以外の者は、船員職業紹介事業の許可を受けた者及び学校等の行う無料の船員職業紹介事業を除いて船員職業紹介事業を行えません。(第33条・第40条)政府以外の者の行う船員職業紹介事業では、いかなる名義での報酬も受けてはなりません。またその業務についての帳簿の作成や、事業報告書の提出等が規定されています。(第37条・第38条・第39条)
船員派遣事業(第4節)
船員派遣事業は国土交通大臣の許可を受けた者を除いては、行ってはなりません。(第54条)船員派遣事業の許可申請には様々な添付書類が必要になると同時に、適正な雇用管理態勢・個人情報保護の態勢・財産要件・組織要件・事務所要件などの整備が求められます。(第57条)許可の有効期間は3年で更新が必要です。(第60条)許可は国土交通省における審査・実地調査等、交通政策審議会の意見聴取等を経て行われます。
海事代理士は申請書類の作成を代理するのみではなく、申請者の事業計画と行政機関の審査等のスケジュール調整などにも配慮し、十分に時間的な余裕を持った申請を行うことに注意が必要です。
船員派遣契約の締結に際しては、従事する業務内容、船舶の名称等及び航路や操業海域、派遣船員を指揮命令する者に関する事項、派遣期間、基準労働時間、安全衛生に関する事項、苦情処理、契約解除の際の雇用安定を図るために必要な措置に関する事項等を定めなければなりません。(第66条)
船員派遣元事業主は雇用する派遣船員等の教育訓練の機会や、労働条件の向上等に努めなければなりません。(第69条)また船員派遣をしようとするときは、あらかじめ派遣船員に対し就業条件等を明示(第73条)しなければならないなど、労働法的な規定も多く置かれています。
船員法、船員職業安定法は海事代理士業務でありながら、海事法令のみではなく労働関連法令にも精通していることが求められる専門性の高い分野です。必要に応じて社会保険労務士等の労働関連法令の専門家も交えながら業務を進めていくことも大切です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?