家族を捨てた元夫③
元夫の死亡記載のある戸籍やら何やらと、役所で相続関係が証明できるものを取り寄せ、元夫の銀行口座の入出金履歴の明細を入手した。その口座は給与振込などに使われていて、某ネット銀行に移管されていた。私が預金全額を未払い養育費で差押ができないよう知らない口座を作成し、推測が及ばないように用心したのだろう。
口座の開設は死亡以前の約5年半前にあった。そこから、様々な生活の有り様が、案の定うかがい知れることになった。毎月の給与が幾らだったのか。車はローンを組み、所有していた。在住していた某市役所で、銀行口座と同時に、軽自動車の納税証明を取り寄せたのでわかっていたが、車がどの程度の金額かが明らかになった。それから、自宅のローンは妻の名義でローン返済口座へ振込んでいた形跡があった。やはり、妻名義の土地戸建てであっても実質的には半々か、または元夫がローンを肩代わりしていたことが判明した。私が死亡の1年前に勤め先の給与を差押した後、すぐに勤め先の会社から退職の旨の通知があったが、それは真実でその後の収入は途絶えていた。以後、転職した形跡はなく、失業保険の振込だけが収入であった。
そして、元夫は私が一度の給与差押をしたことで、退職の決意をしたのだ。その時点で銀行口座には預金が30万円程しかなく、心許なく感じたのだろう。裁判所の差押執行命令が到達し、不安でかつ動揺したに違いない。そこで、思いついたのは、生命保険かまたは老後資金は知らないが、保険会社からの振込が1月経たないうちに160万円程入金されていた。解約返戻金を受取り、失業保険の途絶えるうちに転職し、また私の知らない職場で、差押を回避して働こうとしたのだということが分かる。
その1年後、本当に死ぬことになるとは。運命のいたずらとしか言いようがない。本人も元夫の妻もそんなことは全く予測だにしなかったに違いない。もし、毎月、給与を差押されながら、親として逃げずに、養育費を誠意をもって払える限り払っていれば、元夫の妻はその1年後、死亡保険金を満額受け取ることができたはずだ。二人で住んでる一戸建ては、差押を回避することなく元夫の名義か共有名義にしておけば、ローンは死亡同時に団体信用保険で少なくとも半分は終わったはずだ。天罰とはまさに。
その9か月後、私が預金口座差押をしたの時には、残高は30万円を切っていた。死亡時の残高は1万円もない。こうして、結果は病死だが、ある日突然、元夫は人生を終えた。私の知らないところで、知らないうちに。
元夫の死亡について、何の感情もない。私との婚姻期間中は、きっと楽しいことや嬉しいこともあったはずだけど、全く思い出すことはない。ただ、離婚後10年以上たって死亡したという事実を前に、子どもたちには、自分はひどい親だ、心からすまない。幸せになって欲しい。そう謝って欲しかった。私にもせめて、重度障害者の娘を一人で育てさせて、本当にごめん。苦労しているだろうと言って欲しかった。裁判を通じて、元夫を何年もかかって、追い詰めたと思う。悪いとは思わない。親として当然のことをしたと思っている。でも、もう二度と謝罪の言葉も感謝の言葉も聞くことは出来ない。あるのは、今、毎日がとても大変で、娘の世話に四六時中追われていて、仕事がパートでそれも短時間でしか出来ず、3人家族は愚か、自分の生活費すら稼ぐことが出来ず、預金を行き着く先まで、すべて取り崩したら、あとは生活保護申請をするかないという現実だけだ。
それでも、どこまで行けるのか、娘と息子と共に自分ができるだけのことはして、生きてみようと思う。もし叶うことなら、重度の娘を置いたまま、私が先立つことはなく、娘の人生を見届けてから私の最後の時を迎えたい。心からそう願っている。
終
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