警察史研究(警察OB編)

はじめに

 今回は、警察史研究の中でも、元警察官による研究に焦点を当てて紹介していきたいと思います。
 警察史研究に関する書籍、論文に目立つのは、警察OBによるものです。その理由も含め、1980年までの警察史研究の概要は、一橋大学名誉教授の渡辺治「警察関係資料文献紹介」(同著作集3巻『戦後日本の治安法制と警察』旬報社 2021年所収)が戦前、戦後の警察研究を詳しく扱っています。
今回は渡辺氏が挙げた書籍の中でも自分の研究に用いたものと、80年以降のOB編をまとめていきたいと思います。

代表的警察史研究

    戦後における警察史研究の代表と言えるのは、高橋雄豺による『明治警察史研究』4巻全5冊だと思われます。高橋氏は、1909年に警視庁巡査を拝命し、その後警保局の様々なポストや知事を歴任した、現場を知る内務・警察官僚といえます。
 主に警察練習所や、2巻では1905年の日比谷焼き打ち事件、3巻では「露国皇太子の遭難事件」や「李鴻章狙撃事件」などの警察関連事件を取り上げ、4巻では警保局長25人の変遷をまとめており、警察史研究の先駆的業績といえます。
 ちなみに私は都市民衆騒擾期の警察行政を研究したため、国会図書館で2巻を用いて警察の動向調べの参考にさせていただきました。
 京都に旅行に行った際、京都大学前の古本屋に1巻だけ販売されていたので、1000円で購入しました。状態は良くなかったですが貴重な1冊です。4巻全揃いで買おうと思ったら4万はいくので買えずにいますね。

特高警察

 当時を知る人物という視点で特高警察の分野を見ると、元特高警察官の宮下弘『特高の回想』(田畑書店 1978年)、大橋秀雄『ある警察官の記録』(みすず書房 1967年)などがあり、ともに特高警察の内部を知ることができます。また近著では、戦争末期の大阪府警、特高警察官であった井形正寿『「特高」経験者として伝えたいこと』(新日本出版社 2011年)があり、日本における特高警察の独自性を知る一冊といえます。この井形氏の書籍だけ新品で購入しました。特高に関しては今回の研究であまり触れなかったので、そのほかもいずれ読みたいですね。

警察史の概括

 渡辺忠威『日本警察史点描』(立花書房 1977年)などがあり、近代における警察史を概括しています。立場的には戦前警察の伝統を重んじる部分もあると思われます。この著書は1500円ほどで購入した記憶です。

 さらには岡忠郎『明治時代警察官の生活』(雄山閣 1974年)、著者は元愛知県警の警部、明治期の衛生、公娼制度と売春取締りを概括し、そのほか西南戦争や大津事件などをまとめています。日本の古本屋で1000円程度で購入した記憶です。
 また中原英典『明治警察史論集』(良書普及会 1980年)も挙げられます。著者は元警察大学校教授、明治期警察史の研究をしてきた著者の遺稿となっています。備警兵構想や自治体警察設置試案などの制度や立法案、審査などを分析しています。名古屋の古本屋に立ち寄った際、500円で販売されていたので即決しました。買いでしたね。

警察史研究部会

 その他、元警察官僚や法学者などが集まり、警察行政や治安立法を研究する警察政策学会には、警察史研究部会があり、最近ではその研究実績を論文としてホームページに発表したり、学会誌『警察政策』に掲載されるものもあります。
 近年では「明治期の警察に関する諸考察」(警察政策学会資料第101号 2018年)、「近代警察史の諸問題ー川路大警視研究を中心にー」(警察政策学会資料第110号 2020年)などがあります。ただ対象は川路利良個人や明治初期に限局されることが多く、まだ研究できる余地は多くあると言えるでしょう。今後も期待したいです。
 その中でも論文を書く際、先行研究として、松尾庄一「内務省の警察政策の変遷ー大正期・昭和戦前期を中心に」(『警察政策』第22巻 警察政策学会 2020年)は取り上げました。著者は、愛知県警本部長や近畿管区警察局長などを歴任した元警察官僚。大正期の善導主義や警察の動向を、史料をふんだんに用い検討した研究であり、大いに参考にしました。

おわりに

 このほかにも警察を分析した書籍は沢山ありますが、OB編はここまでにしたいと思います。1980年までに刊行された書籍は、先にあげた渡辺治「警察関係資料文献紹介」(同著作集3巻『戦後日本の治安法制と警察』旬報社 2021年所収)が詳しいです。

 こうまとめてみると、結構旅行した先で本と巡り合えていますね。やっぱり研究は足で稼ぐもの(どんなやり方があってもいいと思いますが。)
 しかし、自分の論文の出来は置いて、納得のいく論文となったのは、足で稼いだ結果といえます。しかしまだ読めていない書籍は沢山ありますし、正直書きたいこともいっぱいあります。研究職ではありませんが、どこかで論文を書きたいなと思っています。
 また不足する点などあればコメントいただけるとありがたいです。

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