令和6年司法試験 民訴 再現答案

設問1

1.(1) 任意的訴訟担当とは、一定の者に権限を与え、自己に代わって訴訟を追行させることをいい、明文ある場合として、選定当事者(民訴法30条)の制度が設けられている。30条1項は、「共同の利益を有する多数の者」の中から、原告または被告となる者を選定できるとしている。同項が、訴訟担当となれる者を限定している趣旨は、弁護士代理の原則(54条)などと併せ、不当な訴訟追行により当事者の権利利益が無用に害されるのを防ぐ点にある。

 したがって、明文なき場合に任意的訴訟担当を認めるには、これを認める必要性があり、このような弁護士代理の原則等の法の趣旨を潜脱しない場合に限られる(また、担当者となる者に対する授権も前提となる)。

(2) 組合員の任意的訴訟担当を認めた判例も、組合は契約関係にすぎないものの、団体的性質が強く、組合財産は、合有という共有に近い形態で組合に帰属し、組合財産について組合員は共同の利益を有しているため不当な訴訟追行のおそれがないことを挙げる。また、組合規約において業務執行者に対し訴訟追行の授権があったといえること、業務執行者に組合財産に関する訴訟追行を認めることが、当事者にとって効率的であり、必要かつ合理的であるといえることも根拠としている。よって、判例も上記要件を求めていると解される。

2. X1 の訴訟担当が明文なき任意的訴訟担当として認められるか。

(1) 本件訴訟は、Y A 間で締結された本件建物の賃貸借契約(本件契約)について、Y を共同相続したX らが、当該契約の終了に基づき、本件建物の明渡しを求めようとするものである。

 まず、本件建物については、X らが各3分の1ずつの共有持分を有し、本件契約の賃貸人たる地位もX ら全員が承継することとされていた。そうすると、X らは、本件建物についていわば運命共同体的な立場にあり、共同の利益を有するといえるから、X1 に訴訟追行を委ねても不当な訴訟追行がされるおそれは小さいといえる。また、X 1は、従前から、本件契約の更新、賃料の徴収及び受領、本件建物の明渡しに関する訴訟上あるいは訴訟外の業務についてX 1が自己の名で行うものとされ、X1 が本件建物の明渡し請求を求めるにつき授権があったといえる。

(2) 本件では、判例と異なり、X らは団体として行動していたわけではないが、X らは、賃貸人としての地位を同一にするだけでなく、本件建物を共有しているのであるから、運命共同体的な性格は組合員と変わりがない。また、事前に、一定の者に対する訴訟追行権が授権されているのは同様である。そして、X 1は従前から契約の更新、賃料の徴収及び受領等を任されていたのであるから、賃貸借契約の状況をよく把握している点で、X 1に訴訟追行を委ねることに合理性があり、この点で、組合の業務執行組合員と類似する。また、実際に当事者として訴訟を追行することは、時間的・経済的にも負担が大きい場合があり、一定の者に訴訟追行を任せる必要性もある。

(3) 以上より、X 1に訴訟追行を委ねることの必要性があり、これを認めても、法の趣旨に反するおそれは小さく、事前の授権も認められるのであるから、X 1による訴訟担当は明文なき任意的訴訟担当として認められる。

設問2

1. 裁判上の自白とは、口頭弁論及び弁論準備手続においてなされる、相手方の主張と一致する、自己に不利益な、事実の陳述をいう。
 裁判上の自白が成立した場合、当事者間で争いのない事実はそのまま判決の基礎としなければならないという弁論主義第2テーゼが適用され、裁判所は、自白の成立した事実と反する事実を認定することはできなくなり、裁判所が異なる事実を認定しないという当事者の信頼を通して、自白をした当事者がそれと反する事実を主張することは原則として禁止されることになる。

2. これを前提に、私は、本件陳述について裁判上の自白は成立しないと考える。

(1) まず、本件訴訟は、本件賃貸借契約の終了に基づき、賃貸目的物たる本件建物の明渡しを求めるものである。賃貸借契約終了に基づく明渡しは、原告において、①賃貸借契約の締結、②賃貸借契約に基づく引渡し、③賃貸借契約の終了原因を請求原因として主張立証する必要がある。

(2) 本件陳述は、「自分の妻が、本件建物において何回か料理教室を無償で開いたことがあった。」との陳述を内容に含むものである。陳述の不利益性は、相手方が主張立証責任を負うかで判断されるところ、当該陳述は、居住用建物として賃貸された本件建物につき、用法遵守義務違反(民法616条、594条1項)として、解除原因(民法541条)となる。よって、X が主張すべき③本件契約の終了原因を基礎づける陳述として、不利益性がある。

 また、本件陳述は弁論準備手続においてなされ、かつ、X 1らがこれを援用したことによって、一致供述となっている。そうすると、本件陳述に自白が成立するとも思える。

(3) もっとも、本件陳述は、弁論準備手続(168条)においてなされたものである。弁論準備手続は、「争点及び証拠の整理を行う」ためにされるもので、手続が非公開とされることからも、当事者の主張立証活動の自由を保障する要請が強い。本件においても、裁判官が、賃料不払いによる無催告解除の可否に関して当事者間の信頼関係の破壊を基礎づける事実関係の存否につき、当事者双方が自由に議論するため、第一回弁論準備手続が設定されている。
 このような場合には、争点と直接関係のない陳述にまで拘束力を及ぼすと、当事者の主張立証を萎縮させるおそれがあるから、そのような陳述については自白は成立しない。

 そうすると、本件陳述において、争点である賃料不払いによる信頼関係の破壊の有無との関係で重要なのは、「賃料の話など一切出なかった」という点であり、それ以外の「料理教室を無償で開いたことがあった」といった点については、争点と直接関係しない。

 このような陳述については、自白の拘束力が生じる「事実」についての陳述ではなく、その背景等を説明する「事情」についての陳述にすぎないと処理すればよい。

(4) よって、本件陳述に裁判上の自白は成立しない。

設問3

1. 基準時前の事由に関する主張が遮断される根拠

 既判力とは、裁判所の一定の判断が後訴を審理する裁判所を拘束する力をいい、既判力ある判断がされた場合、原則として、後訴裁判所はこれと異なる判断をすることができなくなる。既判力は、「主文に包含するもの」」(114条1項)に生じ、具体的には、判決基準時における、主文に表示された、訴訟物たる権利関係の存否判断について既判力が生じる。

 そして、基準時前の事由に関する主張を許すと、判決基準時において、一定の権利関係が存在する、またはしないという既判力ある判断と矛盾することになるから、これを後訴裁判所が採用することはできず、主張が遮断されることになる。

2. 本件解除権行使が遮断されるか

(1) 本件判決は、X らのYに対する賃貸借契約終了に基づく建物明渡し請求について、賃料の不払いによって信頼関係が破壊されたとまでは認められないとの理由により、請求を棄却しており、判決基準時において、X らが明渡請求権を有しないことに既判力が生じている。X らは、基準時前においてY が本件建物において有料の本件セミナーを開催したことにつき、用法遵守義務違反として本件契約の解除をしようとしているが、これは、基準時前の事由の主張であり、遮断されるとも思える。

(2) もっとも、解除権の行使自体は基準時後であり、契約はその時点から終了することになる。それでも、一般的に解除権の行使が遮断されると解されているのは、これを前訴で主張することが充分期待できたという点にある。

 本件では、X らは前訴において本件セミナーが開催されていたことを知らなかったのであるから、これを前訴において主張することを期待することはできない。よって、基準事後の解除権行使の遮断の趣旨が妥当しない。

(3) よって、X らの解除権行使の主張は遮断されない。

 


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