カステラに白いカビが

カステラに白いカビが 

「加藤さん、おはようございます」
「店長、おはようございます」
「加藤さん、PBのカステラにカビが生えていた件、聞きましたか」
「店長、これから、カステラ工場に行ってきます」
「PBなので、よろしくお願いします」
 ヨコシマスーパーでは、PB戦略を進めていて、本来は、仕入れ工場監査チームが、工場監査を行ってから、PBを製造するのですが、工場監査が間に合わず、監査前に、発売を決定してしまっている物も出ているのが実情でした。
 カビが生えたカステラも、商品を決めるバイヤーだけが、工場で打ち合わせて、決めた物です。今回のクレームが出たので、監査チームと、工場を決めたバイヤー、そして、加藤さんで、工場に監査に入ったのです。
 加藤さんは、工場に着くと、まず、クレームLOTの帳票を原料まで遡って揃えてもらったのです。
 PB商品の場合は、製造一時間毎にLOTナンバーを最低限付け、使用した原料まで遡れるようにしていたのです。
 カステラ工場は、包装パック毎に連番を打っていたので、製造時間は、直ぐに明確になりました。
 カステラは、大きな天板で焼いてカットし、包装していました。
 カビの生えたパックのカステラは、何時焼いて、何時カットした物かがわかる帳票を求めたのですが、トレースバックの紐はつながらなかったのです。
 カステラの生地を混ぜるときに使用した、小麦粉などのLOT、焼いた時の温度時間、等の帳票はあるのですが、包装工程から原料までつながる帳票は、何度、質問をしても出てこなかったのです。
 商品を決めたバイヤーは、「工場長、商品を決めるときに、問題無く帳票はあります」と言っていたじゃないですか。と言っても出てこなかったのです。
 加藤さんは、帳票の確認を止め、工場の現場に入ったのです。
 まず、天板から、外した大きなカステラを保管している所に行ったのです。
 保管庫は、天井、壁などもベニア板のままの状態のところで、ベニア板は、カビだらけだったのです。
 カステラの乗った台車には、番号はついて今したが、何時、焼いた物かの表示は無かったのです。
 「工場長、この部屋にあるカステラが、何時焼いた物かの記録などありますか」との問いには、答えは無かったのです。
 更に、包装工程で作業している作業者の小指には、指輪をしたままで作業をしていたのです。
 「工場長、指輪をしたままの方がいますが、ルールはどうなっていますか」
 この問いには、彼女は、外国の方で、子供の時に、小指にはめて、とれなくなったそうです。と答えてきました。
 加藤さんは、バイヤーに、カステラの保管庫、包装室などは、確認したのですか。と聞いたところ、事務所だけの確認です。との答えでした。
 更に、天板に生地を流して、焼くときに、天板に新聞紙を引いて焼いていたのです。
 確かに、昔ながらのカステラ屋さんでは、未だに新聞紙を使用している所はありますが、さすがに、食品工場と言う所で、新聞紙を使用しているところは、見かけない物です。
 生地を計量している作業場の天井と壁の隙間の所には、多くの蜘蛛の巣状の糸を見かけました。この糸は、虫が吐糸した糸で、衛生状態が悪いことを示している物です。
 ここまで、現場を確認した、バイヤーは、加藤さんに耳元で、「この工場は止めます」とささやいたのです。
 今回のカビの原因は、焼いたカステラを冷却する部屋がカビだらけで、更に、包装時に使用している、脱酸素剤の管理が悪かったため、カビが発生したと思われます。
 もともとカビに汚染されたカステラであっても、個包装されている商品に酸素が無ければ、目につくような、カビは発生しなかったのです。
 しかし、包装室で見かけた使いかけの脱酸素剤は、袋に入れられていても、袋の口はしっかり閉じていなかったのです。使いかけの脱酸素剤の管理をいいかげんにすると、空気中の酸素を吸ってしまい、役には立たなくなってしまいます。
 加藤さんは、写真を見せ、工場長に説明しました。更に、工場長に、手を広げさせ、写真を撮ったのです。
 その写真をバイヤーに見せ、「工場の責任者の小指の爪がこれだけ長い工場では、いい商品を作ることは出来ない」と言い切ったのです。
 まさに、組織の倫理感は責任者の倫理感を超えないと言う言葉の通りの工場管理でした。
 ヨコシマスーパーでは、このカステラのカビ事件以降、工場の監査チームが確認しまいままのPBの発売は行わない事としたのです。
 また、帳票も事前に提出させ、トレースバックが必ず出来る事を確認したのです。
 商品の発売を決めたバイヤーは、自分から移動を願い出て、店舗に移動となり、店の商品管理から、やり直したのです。
 カビのカステラ工場は、保管庫の補修費が捻出出来ず、工場は自主的に閉鎖になりました。

あくまでも架空のお話です。


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