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ちくわの断面に赤いカビが 

ちくわの断面に赤いカビが 

「加藤さん、おはようございます」
「店長、おはようございます」
「加藤さん、今日も仕入れ先の勉強会出席していいですか」
「店長、仕入れ先点検の品管目指しているんですか」
 ヨコシマスーパーでは、店舗管理の品管と、原料仕入れ先の品管を分けていました。
 加藤さんは、食品工場出身だったので、仕入れ先担当の品管の方達と、定期的に勉強会を行っていたのです。
 今回は、過去に発生した、惣菜で使用していたちくわに、赤いカビが発生していた時の要因についての勉強会を行ったのです。
 惣菜部門で仕入れているちくわは、磯辺揚げなどに使用するために、事前に縦方向に半分にカットされている物を仕入れていました。凍結状態で仕入れて、使用する前に解凍していたのです。ある日、半分にカットされている断面に、赤いカビが生えていたのです。
 一般的には、凍結してあるので、よっぽどの事が無いとカビが生えないのですが、断面にびっちり赤いカビが生えていたのです。
 他のLOTも段ボールから取り出して開けて見ると、同じようなカビが生えていたのです。
 この状態のちくわを使用することは出来ないので、使用を中止し、生産している工場に、監査に行ったのです。
 ちくわ工場の営業の方からは、監査に来る日は、他のPB商品を製造しているので来られたら困る旨の連絡があったのですが、ヨコシマスーパーの仕入れ基準では、監査は抜き打ちで行えること、と契約書に書いていたので、契約書を前面に出して、監査を行ったのです。
 この日の監査は、加藤さんも同行し、書類を見ること無く、直ぐに製造現場に入ったのです。加藤さんは、躊躇無く、ちくわの包装ラインに入り、タテに半分にカットする機械を止めてもらったのです。
 ちくわをタテに半分にカットする設備は、ちくわが入る大きさの筒の中に刃が回っていて、カットする物でした。
 監査当日は、この設備は使用していなかったので、カットする筒を分解してもらい、モーター部分も分解してもらったのです。筒の中は綺麗に清掃してあり、モーター部分も問題無い状態でした。
 カットされたちくわは、コンベアーで、箱詰めの部屋に運ばれていたのですが、このコンベアーを駆動するモーターがなんと、コンベアーの上についていたのです。
 一般的には、駆動するモーターは、モーターから落ちる埃などを避けるために、コンベアーの下に設置されるべき物ですが、この工場のモーターは、コンベアーの上についていたのです。更に、包装室の冷蔵庫は、包装室の中に設置してあり、冷蔵庫の上が天井まで上がっておらず、屋根が包装室内にあったのです。
 脚立を用意してもらい、室内に設置してある冷蔵庫の屋根の部分を確認すると、天井の部分に水がたまり、その部分に赤いカビが生えていたのです。
 冷蔵庫の屋根の部分に包装室の空調があり、そこから結露して、水がたまっていたのです。
 空調の空気の流れで、包装室全体が、カビの空気になってしまっていた用です。
 更に、このちくわ工場には、凍結庫が無かったのです。
 ちくわを半分にカットし、包装して、段ボールに詰め、冷蔵庫で保管し、外部の凍結庫で、緩慢凍結していたのです。
 カビが生えた製造日の生産量を確認したところ、通常時の生産の数倍の生産を行っていたのです。更に、外部冷凍庫の入庫記録を確認すると、カットした日から二日後に入庫していたのです。
 入庫までの間は、工場の冷蔵庫から製品があふれ、包装室の温度を下げて保管していたそうです。
 生産量が増えたのは、大手のコンビニのメニューが決まり、初回納品分の製造を行ったためだそうです。
 コンビニ用は、カット後直ぐに冷蔵庫に入れ、出荷していたため、カビは生えなかったようです。
 ヨコシマスーパー分は、室温に二日放置されたため、カビが発生し、その後凍結されたようです。
 ここまで、分析し、ちくわ工場の工場長に、生産量が増えたときの対応をどう考えていたのですか。と質問しても、現場の事は、課長に任せているからと言って、明確な回答が出てこなかったのです。
 ヨコシマスーパー担当の営業の方に質問しても、製造の事は、製造に任せているので、としか答えは返ってこなかったのです。
 このちくわ工場から仕入れを行うときには、原料規格書のみの確認で仕入れを決めたのですが、原料規格書には、凍結工程まで書かれていて、凍結が外部冷蔵庫で、緩慢凍結とは書いていなかったのです。
 このちくわ工場の原料規格書は、営業の方が書いていて、品管などの確認はなされていませんでした。
 もっとも、今回のカビの件で、品管の名刺を出して来たのは、製造課長が兼務していたのです。
 製造量が増えたときの対応について、誰も、笛を吹いて、品質、安全を優先する方はいない体質の工場だったのです。

あくまでも架空のお話です。

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