走るという事

 プロ野球選手としてわずかながらスポットライトは浴びることができた。1軍のマウンド、試合後のお立ち台・・・グラウンドに立ち続ける日々から得た学びはここには書ききれないくらいだ。シーズンオフのイベントでは、ユニフォームを着て小学校や老人ホームなどの訪問、トークショーイベントなど、出演するだけでその空間にいる人たちに喜んでもらえた。素晴らしい職業だとそう胸を張って生きていた日々が懐かしい。

「職業・プロ野球選手」
そんな夢のプロフィールが書き換えられた9年前。全身から力が抜け、頭が真っ白になった「あの日」の事は今でも忘れられない。『現役選手はいつまでも続けられない。スポーツ界においてそれは避けられない現実。どんなレジェンドだって終わりは来る。それが遅いか早いか、それだけの差だ。』・・・こんな綺麗事すらも頭に思い浮かばなかった。ただひたすらに悔しかった。そんな思いを抱きながら、球団職員としてのセカンドキャリアを歩むことを決意した。

正直言って、現役から退いた何年かは苦しかった。「もし自分がまだ現役なら・・・」「俺ならこうしてる!」というような未練しかない独特な思考をひた隠しながら球団職員としての日々を過ごしていた。

どうしようもなく心がもやもやした時はとにかくランニングに出る事にしていた。歯を食いしばり走る。もやもやが消えるまでとにかく走る。気が付くと心のざわつきは収まっている。最初は意識していなかったが、自分のメンタルは整えられていく事に気付いた。

毎日走るわけではない。走ることが好きなわけでもない。ただ、走ることで逆に疲れが取れたり、日々少しずつ貯まるストレスは解消される。自分を追い込むのではなく自分を整えるために”走りたいときに”走る。

ユニフォームを脱いで8年間、球団スタッフとしてチームと共に戦った。「頭が真っ白になるあの日」を迎える選手を毎年一番近くで見てきた。この選手たちに出来ることはないだろうか。そんな想いから、野球界から戦場を移すことに決めた。今はビジネス用語と戦う日々。36歳の新人として奮闘する日々でもランニングは大きな効果を発揮している。モヤモヤの解消、ストレスを振り払うためじゃない。今は自分を鍛えるためのランニングだ。同じランニングでも心持ちだけでこんなにも違うのか。

走る。リズムに乗って軽快に走る。設定したゴールに向けて走る。
「自分のゴール」に到達したとき、チカラが湧いている。
吹き出す汗をぬぐいながら、よし!頑張ろう!と前を向けている。

気が付けばこんな道端で一人、スポーツのチカラを感じている。

小松剛
@tmysc1814



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?