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20200315-20230311.12





【ライブ情報】
10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」全公演中止のお知らせ。




 クリープハイプは2020年に現体制10周年を記念するツアーを予定していた(ここからは「10周年ツアー」と呼ぶ)。その当時からクリープハイプが自分の一番好きなアーティストだった。だから2020年3月15日の幕張メッセのチケットを持っており、行く予定だった。

 しかし2020年に入ってすぐ、新型コロナウイルスと呼ばれる感染症が日本で流行り始めた。2月始めの札幌公演や仙台公演の頃は風邪くらいのものが流行り始めた感覚で、まあ普通にライブはあるだろうと考えていた。しかし日に日に感染者数は増えていき、ニュースでも重大な問題として扱われ始めて世の中の雰囲気が暗くなっていくのを肌で感じていた。

 そして国がイベントの自粛要請を発令し、これに伴い10周年ツアーの広島・福岡公演が延期となった。このお知らせを見た時、絶望感しかなかった。日に日に増えていく新型コロナの感染者数からして広島と福岡での公演が延期になったら、幕張も延期だろうなと思っていた。


 結果、幕張メッセ公演の延期が3月に発表、10周年ツアーの中止が6月に発表された。悔しかったのを今でも覚えている。中止の案内の文面を見た時、心臓が止まるような悪い衝撃があった。

 中止になるだろうなとは思っていたが、公式から発表されると事実なんだなと思い胸が苦しくなった。延期の発表から中止の発表がされるまでに尾崎さんが、ブログにて幕張メッセでのライブにどれだけ賭けているか書いてあるのを見て辛い気持ちになったのを昨日のことのように覚えている。尾崎さん始め、クリープハイプのメンバーがブログにて何度も謝っているのを見てこちらが申し訳ない気持ちになった。

 後日発表されたセットリストに尾崎さんは「必ずやります」と書いており、それだけがせめてもの救いだった。一曲目が「君の部屋」で最後が「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」のライブを観れたらどんなに良かっただろうか、とずっと考えていた。諦めようと頭では分かっていても、悔しい気持ちが残っており、必死に既に行われた札幌と仙台公演のライブレポートやツイッターでの感想を擦れるほど見てもこの気持ちは煮え切らなかった。




 それから時間が経ち、それまでに3回ほどクリープハイプのライブに参加し、10周年ツアーが中止になった時高校生だった自分は大学生になっていた。ライブを重ねるごとに幕張メッセでのライブは薄まってしまい、幻になるだろうと思っていた。もう一度やってほしいとはずっと思っていたが自分の中で忘れようとしていた、と言った方が正しいかもしれない。

 2022年のクリープハイプの日は外れてしまったが会場が野外ということで、音漏れを聞きに大阪へ行った。「リバーシブルー」など聞きたい曲も聞けたが、会場にはいないと言うことに悔しさを覚えていた。

 しかし「ナイトオンザプラネット」後のmcにて「幕張メッセ・大阪城ホールにてワンマンライブをする」との発表がされた。幻だと思っていたライブを忘れずに覚えていてくれて、「必ずやります」を有言実行してくれることに嬉しさを覚えた。会場の外にいる自分と同じように音漏れを聴きにきてた人からも拍手が、そして会場内にいる人の拍手の音も聞こえてくるくらい大きかった。  

 思っていたことはみんな一緒だったのか。ただ幕張メッセでライブをすることの発表ではない、”あの“幕張メッセでのライブだ。この発表を生で聞けただけで大阪まで行く価値はあったなと思えた。



 時間はさらに経ち、気づけばもう幕張メッセ公演の初日である3月11日になっていた。幕張に向かう電車の車窓から幕張メッセが見えた瞬間、鳥肌が立った。なぜならそこはずっと夢見た場所だったから。初めての幕張はクリープハイプに捧げたかったからこの3年間一回も行かなかった。無機質な建物だけど今からここで、“あの”幕張でクリープハイプのライブが行われる。幕張にしがみついて生きてきたこの3年間が報われた瞬間、夢が叶う瞬間だった。

 ある意味、アニバーサリーライブでもある今回のライブは何でも許せる広い心で観られるのかと思っていたが、相変わらず他のお客さんの行動が気になったり、言動に苛立ちを感じたりするのはいつも通りで逆に安心した。また開演前に太客倶楽部記念観にも足を運んだ。“前回のアリーナ公演が中止となった2020年から、バンドの歩みを辿る展示を行います”と銘打った展示がされており、いよいよ”あの“幕張メッセでのライブが観れるのだなと期待感が高まった。

 開演前にはボレロが流れていた。アリーナということも相まって、今から祝祭が始まるような雰囲気だった。だんだんとボリュームが大きくなっていき自分の心臓の鼓動も大きくなっていく。曲の終わりとともに暗転しお客さんが一斉に立ち始める。鳴り止まない拍手。薄暗い人影がステージ上を動く。今確実にクリープハイプのライブに来ているはずなのに、どこか他人事というか夢を見ているような気分だった。色々な感情を抱いていた幕張メッセでのワンマンライブがようやく観れるのだと思い、始まってほしいような始まってほしくないような気持ちが巡り、心臓の鼓動がさらに早くなるのを感じた。




 mcなしで始まる、幕張メッセでのライブの1曲目は、耳を劈くように鳴るギターから始まる「身も蓋もない水槽」だった。「君の部屋」もそうだが、これだけ大きな会場で自分の情けないどうしようもない感情を歌にした曲を大事な1曲目で歌うという所が好きだ。歌い出しでは「緊急事態宣言から約3年 幕張メッセには張り詰めた空気が漂っていて」と言い換え、「忘れてねえよ 3年前を」と言い放ち泣きそうになった。そうだよな。3年前があるから今があるし、3年前に出来なくて悔しかったのはファンだけではない。思っていることはおんなじなのかと痛感させられた。

 そして「君の部屋」では「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」と言い換えて歌った。さりげなく10周年ツアーのタイトルを歌った。

 今考えてもこの文章は、当時現体制10周年を迎えたクリープハイプを代表する名刺のようなものだと思う。簡単に「今までありがとう、これからもよろしく!」的なことではなく、悲しみや苦しみもクリープハイプだったのだ。一般的にマイナスの感情と言われるものがクリープハイプの半分以上を占めているところにクリープハイプらしさが出ていると思う。そんなところがクリープハイプを好きな理由だ。


 そして中盤には「栞」を披露した。
 10周年ツアーの幕張メッセ公演が3月15日から4月12日に延期となりその振替公演も延期となり、再延期という形になった。その4月12日にクリープハイプの公式SNSにて

「今日、幕張メッセで歌うはずだったこの歌。
 うつむいてるくらいがちょうどいい
 地面に咲いてる 尾崎」

という言葉を添えて、家で尾崎さんが弾き語りで「栞」を歌う動画が公開された。その日はその弾き語りを聴きながら寝た気がする。あの頃はそれだけが救いで、元気を出すために聴いていたというよりも落ち込まないために聴いていた。
 絶望的だった2020年の春から3年、今では満員の幕張メッセでこの曲をバンドで演奏している。この事実だけで胸が熱くなった。


 そして後半、「火まつり」「週刊誌」「社会の窓と同じ構成」などアッパーで攻撃的な曲を連発して「HE IS MINE」へと突入。明らかに客席がざわつく。これから“アレ”を叫ぶのだ。

 緊急事態宣言下の「大丈夫、一つになれないならせめて二つだけでいよう」の東京公演でも「HE IS MINE」を演奏したが、声出し禁止とされており無音の”アレ“だった。あれはあれで良かったが、今回はおそらくワンマンでは最大規模の“アレ”になる。色々な「興奮」が体を巡る。そして尾崎さんが客席を煽る。それに応えるように客席のボルテージも上がる。

「今度会ったら何をしようか
 今度会ったらキスをしようか
 今度会ったら何をしようか
 今度会ったら       」

このライブにおいて初めて声を出して叫んだが、自分が叫ぶと周りの声が聞こえずらいことに久しぶりに気づかされた。でも良いどよめきが起こったことは分かる。このどよめきが久々に戻ってきたことに鳥肌が立った。3年前だったら“アレ”を叫んで客席のボルテージが上がる場面だが、3年経ってまさか“アレ”に感動させられるとは思わなかった。



 そしてあっという間に最後の曲になった。
 もちろん語りたいところは沢山ある。「キケンナアソビ」や「本当なんてぶっ飛ばしてよ」のアリーナを活かした演出、初めて聞けた「傷つける」「SHE IS FINE」など。ただ長くなってしまうので割愛する。

 mcを挟んで、最後に演奏された曲は「二十九、三十」だった。正直最後はこの曲だろうなとライブハウスツアーで先に聴いていたため、そう思っていた。しかしアリーナツアーでの「二十九、三十」は少し違った。

 この曲が始まるとともにモニターには人並みがまばらな渋谷や新宿、難波や新世界の様子が映し出される。一目で2020年の緊急事態宣言中の街を映していていることが分かる映像だった。クリープハイプや医療従事者など誰かに注目するわけでもなく、淡々と閑散とした街の様子を映す。

 当時高校生だった自分は色々なイベントが中止となり流れて、それに加えて楽しみにしていた10周年ツアーも中止になってしまった。頭では分かっていても、あまりにも理不尽な仕打ちだった。そんなコロナ禍から今までにあった、悔しかった出来事を色々と思い出して、俯いてしまい、勝手に涙が流れてきてしまった。それでも耳には音楽が流れてくるわけで、「何も言えずに黙ったまま空気を読んだ振りをして 遠くから見てるだけの俺みたいだし」という歌詞が深く刺さり、余計に泣けてきてしまった。


 そしてラスサビでは満員の幕張メッセの会場内の映像に切り替わる。映し出されるのは客席全体の様子だ。3年前の当時からしたら考えられない光景だったが、3年間かけて元に戻り始めた。むしろ3年前よりも公演日数を増やしてのライブだ。より進化したクリープハイプで幕張メッセに帰って来た。ライブがあることが当たり前ではなくなった2020年から3年かかってようやく元に戻ってきた。

 クリープハイプの3年間の長かった幕張メッセは「前に進め」で締め括られた。簡単に10周年ツアーの時よりも今回やった方が良かったなんてことは言えない。ただ一つ言えるのは、今回の幕張メッセでのライブで自分は前に進める。10周年ツアーに囚われてきた自分からは離れられるような気がした。そしてクリープハイプはこれからも続いていく。

 これからもまた「普通に」クリープハイプのライブに参加したいと思えるライブだった。

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