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麻雀84:Mトーナメント2024観戦記#4

▫️J卓 岡田vs瀬戸熊vs有賀一宏vsむく大樹

タイトルホルダーたちはノーチャンス

發王位・有賀一宏と将王・むく大樹がMトーナメント初参戦。

有賀の麻雀をはじめてみた。
全体的に手牌に恵まれていない苦しい展開の中、「アガリ一回では勝てない」と悲しそうに語っていた。
打ち手によっては、恵まれない中でもこじ開けにいく戦い方をとる選手もいるが、この日の有賀はそうした戦略はとらなかった。2回戦目は勝負所のめくりあいで負けて、勝ち目が大幅に少なくなって以降、ひっそりと気配を消して、勝負の邪魔をしない立ち居振る舞いに終始していたのは、ベテランならではの麻雀に対する真摯な姿勢が伝わってきた。

一方、むくの麻雀もはじめてみた。
むくの場合は、それなりに勝負手が決まってチャンスの目が出た場面がきたが、その直後で手痛い放銃に見舞われた。その場面を振り返って、「いつも通りの麻雀。いく一手。」と後悔はなさそうであった。

実力があっても勝てないのが麻雀。その厳しさを見せつけられた。裏を返せば、Mリーガーとして活躍するには、実力以上の何かが必要である。この対局で勝ち上がった、岡田・瀬戸熊はさすがの一言であろう。

▫️K卓 猿川vs高宮vs醍醐vs仲川翔

Mリーグ会場をぶっ壊す

RMU仲川が緊張感を漂わせながらも、要所でアガリに恵まれて見事予選1stステージを勝ち上がった。
自身の麻雀を称して、堅実で面白味のない麻雀と謙虚さを滲ませる一方、インタビュアーとの掛け合いは緊張から解き放たれたようにはしゃいでいた。

勝った猿川、負けた醍醐

この日の猿川は強かった。
初戦でラスを引き、後がなくなった2戦目。
開局から大物手が成就し4000オール。

その後、高宮に追い上げられるも、再び3000-6000をツモアガリ。一気に突き放した。

いずれのアガリも赤牌をツモアガる幸運の猿川に対して、醍醐はなすすべなし。
Mリーガーとしての初年度を終えた二人がぶつかった対局となったわけだが、明暗がくっきりと分かれた格好。
とくに、このオフシーズンに選手交代で世間を賑わせているフェニックス。
今シーズンは成績が振るわなかった醍醐は、その雪辱を果たしたい思いと共に、先輩Mリーガーとして新加入の二人を結果で牽引していきたいと強く考えていることだろう。
そんな醍醐の出足は鈍く、厳しい結果となったMトーナメント。来季への猶予はまだまだある。しっかりと準備して、元気な姿で会いたい。

▫️L卓 たろうvs松が瀬vs桑田憲汰vs逢川恵夢

Mの舞台にはまだ早いか

最強位・桑田と女流雀王・逢川が揃ってMトーナメント初参戦。
両名ともらしさを見せるもMリーガーの壁は高く、悔しい敗退となった。

昨年の最強戦で鮮烈な戦いを演じた桑田。その決勝卓でも同卓していたドリブンズ・たろうとMの舞台で再戦となった格好。

まっすぐ手作りしてリーチ。シンプルな攻め方を愚直に繰り返す桑田の姿は、昨年の最強戦の再現かと期待したが、そうそう良い結果は続くものでもなく、たろうにリベンジされてしまった。
一見荒削りな感があるも、打点や待ちが読みづらいなど、対局者にプレッシャーをかけていく面では有効な戦術と言える。それをポーカーフェイスでやってのけるのは、並のメンタルではできない。
最強位を連覇して、来年もこの舞台に戻って来られるか。桑田の戦いは続く。

現役女流プロの中でトップ5には確実に入ってくるであろう実力者の逢川。
そんな逢川は、早くて高そうな手牌がバンバン入るが、アガリまでいけないどころか相手のアタリ牌を掴まされ放銃に回る、いわゆる半ツキの状態。この晴れ舞台で見せ場なく終わってしまった。
しかし、他のタイトル戦で活躍して来年以降リベンジしてくれることだろう。

ゼウスの復活

2023-24シーズンでは、個人として最高得点を受賞、チームも準優勝するなど、気分よくMトーナメントを迎えられた、たろう。

もともと、実力は誰もが認めるところであるが、ここ数年はあまりに結果が出ず、自身の麻雀に疑心暗鬼になっていたようなところがあった、たろう。

しかし、この日は何をやっても良い結果が転がり込んで、安全なうちに勝ち上がりを決めた。

麻雀は自信が実力をブーストさせる面がある。それだけに、この気持ち良い勝ち上がりは、ゼウスたろうの復活祭となったかもしれない。
今後のMトーナメントにおいて、このままたろうが活躍する展開となると、来季のMリーグはたろう旋風が吹くこともあり得る。

松が瀬の摸打

松が瀬の摸打は見てるものをワクワクさせる。
この日も劣勢な局面を一気に跳ね返す一発ツモは、画面の外から4ピンが見えると同時に、卓に叩きつけられ、見るものを震撼させた。

たろうとは対照的に、不甲斐ないシーズンとなった松が瀬。デビューしてから順風のシーズンばかりだった松が瀬にとっては、反省と苦悩の年になったに違いない。それだけに来季の前哨戦である、このMトーナメントでしっかりと結果を出すこと。その一念でひときわ気合が入っていたことだろう。

そんな強い思いを持って臨んだ対局だけに、いつも以上に摸打に力が入る。見ているこちらも、その思いが十分すぎるほど理解しているから、応援に熱が入る。

フリー雀荘では荒ぶった摸打はマナー違反とされるが、プロの世界では素直に感情が乗ってくるくらいの方が見ていて面白い。

プロレスラーのような風体の松が瀬が魅せる荒ぶる摸打。麻雀の新しい楽しみ方になるかもしれない。

▫️M卓 寿人vs瑠美vs下石戟vs浅井裕介

まだ見ぬ強豪現る

協会のA1リーガー・下石戟がMトーナメント初参戦。初めて見る下石の麻雀は、一言でいうと、粘り強い。

協会の選手は「トップ獲りに長けた打ち手」という印象がある。
下石もその例にもれず、点棒を守る意識よりも加点する意識に比重を置いた手組みが多かったように思う。
とくに目についたのが、ポイントを失ってからの回復力。1回戦では一時は1万点を割り込んでいた下石が、気づけば3万点近い2着に浮上していた。つまり、アガリに対する嗅覚が鋭いことを物語っている。協会のMリーガーである、堀や松本も同じような傾向があることから、自団体でのトップ獲りに比重が置かれたルールの中で培われた能力なのかもしれない。

タイトル実績はないのかもしれないが、不思議とMリーグで成績が残せそうな雰囲気を感じさせた。まったく根拠のない、ただの直感だが、、。
2ndステージ以降の戦いが楽しみである。

ファイナリスト散る

昨年のMトーナメントで準優勝だった瑠美が1stステージで敗退となった。
手組み自体はいつもの瑠美らしい、打点高めのバランスでアガリもそこそこついてきていたが、勝負所で放銃に回ったのが痛かった。
風林火山のほか3選手がすでに勝ち上がりを決めサクラナイツに続き全員勝ち上がりを狙ったが惜しくもならず。
負けてなお明るい笑顔を振り撒く様は、来季も風林火山のムードメーカーとして活躍してくれるだろうと期待させた。

受難の最高位戦

この試合で浅井裕介も敗退となった。これにより、最高位戦の団体推薦選手がすべて敗退という辛い結果となった。
単純にツキがなかった。その一言に尽きる。結果だけを持って実力を測るのは早計だろう。
しかし、大舞台で結果を出してこそ、プロとしての花道が拓けていくのもまた事実。
この大いなる矛盾を抱えているのが麻雀という競技の特徴でもある。

最高位戦の思想がやや理屈に偏りがちに思える中、この結果は選手たちの中でどう消化され、その後の展開に発展していくのか。

小宮悠の実況は心地よい

この試合の実況を担当したのが、小宮悠プロ。選手としても着実に実績を積み上げている有望株。昨年のMトーナメントでは、ドリブンズ浅見真紀が入団前に実況を担当し、その直後にドラフト指名されている。

選手の思考も理解した上で、上手に言語化することが求められる実況者は、誰もがすぐにできるものではない、特殊なスキルだと思う。

また、解説者との掛け合い重要で、この掛け合いがしっくりきていないと、ゲームの内容が入ってこないし、全体としてつまらない印象になる。

この日の解説は連盟の西川淳。
どちらかといえばマイペースなタイプで、思いついたことは話し切りたい、そんな姿勢が垣間見えた。
試合の中盤に西川が全員の配牌を見終わったであろうタイミングで一言。そして、短い沈黙の後に絞り出して小宮のフォローが笑いを誘った。

西川「全員ぱっとしないですね。」

小宮「・・・、手牌の話ですね。」

▫️N卓 東城vsHIRO柴田vs石立岳大vs谷井茂文

東城りおは残留で良かったのでは

今季でフェニックスを退団する東城りお。このMトーナメントにかける思いはひとしおだろう。
気合を入れて臨んだ1戦目は、気合が空回りしてラス。後がなくなった2戦目で、東城らしい爆発力のあるトップで、見事に勝ち上がりを決めた。

アベレージを残す選手ではないかもしれない。しかし、勝負にかける気迫を全面に出して戦う姿勢やファンやチームメイトの胸を打つ。
プロである以上、結果を残すことが最も重要であることは否定しようもない。もっとも、Mリーグはチーム戦でもある。ムードメーカーがチームにもたらす効果を考慮すれば、東城が残留してもまったくおかしくない。

匠のヒロシバさん


私は密かに現役最強はHIRO柴田ではないかと思っている。
麻雀という競技を理屈で捉えつつ、勢いや流れという不確かなものまで理解し雀風に取り込もうとする姿勢がみえるところは、他の選手とは異なるステージで麻雀と向き合っているのではと思わせる凄みを感じる。そんな一風変わったストイックな打ち手がHIRO柴田である。

まずは1stステージを勝ち上がった。
目指すはもちろん優勝と力強く答えるベテラン選手からは、この華やかな舞台での戦いを純粋に楽しむ、少年のような爽やかさすら感じた。

石立の涙の理由

昨年のMトーナメントで大活躍した石立が、1stステージで姿を消すことになった。
麻雀へのストイックさでは常人離れした石立がインタビューで見せた涙。その風貌と相まって、さながら高校球児のようであった。
もっとも、涙の裏には、単純に負けた悔しさのほかにも、その後のチャンスも消えてしまった悲哀も滲ませていた。確かに、タイトルホルダーでもない石立がこのMトーナメントに推薦されたのは昨年の活躍があったからに他ならない。いわば、ファイナリストシードとも言えるものだ。
そうした特典がこの敗戦によって、手の中からこぼれ落ちてしまった。その直後に流した涙は、高校球児とは異なり、プロの世界の厳しさに由来していることだろう。

石立がこの舞台に戻ってくるためには、麻雀で勝つしかないのだ。一見厳しくも思えるが、麻雀プロになった瞬間から、その覚悟は定まっていたはずだ。振り出しに戻っただけ。気が済むだけ涙を流した後は、また前を向いて歩くだけ。

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